第57話「ニュルンベルクの思い出5」
とうとう帰国する日が来てしまった。
朝起きて、朝食をとる。
俺と、マリアの両親二人。以上だ。
今日もいつも通り、この三人で食事をとる。
今日の予定としては、正午過ぎの列車に乗り、ニュルンベルクをあとにする。
ニュルンベルクにも空港はあるが、日本への直行便がないので、列車で南下したところにある、ミュンヘンから羽田行の飛行機に乗る流れだ。
朝食を食べ終わると、帰国するために身支度を済ませる。
それも大体終わると、最後にマリアに声をかけたくて、部屋をノックしてみる。
しかし、何も応答がない。
鍵はかかっていなかったので、そっと開けてみると、そこにマリアの姿はなかった。
どうしたのだろう。マリアが家にいないなんて・・・。
嫌な予感に不安を覚えながらも、マリアを探しに行くような時間はない。
仕方がないので、置手紙をマリアの部屋に添え、俺は駅へ向かうことにした。
次にいつ来るかはわからないが、ニュルンベルクの街並みも、しばらく見ることはないだろう。
心残りは、マリアのことだけ・・・。
本当に心配だ。
だけど、俺は心配することしかできない。
仕方ない・・・よね。
そう思いながら、ひたすら駅の方向へと歩く。
「Es tut mir leid」(独語和訳:ごめんなさい)
交差点に差し掛かったとき、ふと、背後から声がした。
その声は、まぎれもなくマリアの声だ。
振り返ろうとした。
最後に、「元気でな」と、そう言いたかった。
最後に、「必ずまた会いに来る」と、そう言いたかった。
それ以外にも、言いたいことはたくさんあった。
だけど、その瞬間、強い衝撃が走った。
目の前が真っ暗になるような感じがした。
そこまでは覚えている。それから先のことは、何も分からない。何も・・・。
起きると、そこは病院だった。
医者や看護師の姿は、見た目から日本人ではないと察した。
確か、欧州旅行をしていて・・・あれ?
旅行をしていて・・・それから先、何かがあったような感じはする。
だけど、それが思い出せない。
ぽっかり空いた穴に、何かを落としてしまったような感覚だ。
結局、何も思い出せないまま、記憶喪失だろうと医者に言われた。
医者曰く、どうすることもできないとのことだった。
ほどなくして、退院した。
それからすぐに日本へ帰国。
俺が知っているのは、欧州へ旅行しに行ったこと。
そこから先、ホームステイをする予定だったが、そこの記憶は全くない。
交通事故に遭ったと医者に言われたが、もちろん、そんな記憶もない。
そして、その記憶は恐らく、一生蘇らないだろうと、医者は続けて言われた。
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