骨84本目 クリノヴァの修行

 スライムダンジョンの最下層に俺達はいる。


 ルチャは混合魔法を練習しながらスライムを倒している。

 アルとレットはルチャの付き添いをしている。

 俺は混合魔法の練習とルチャの魔力回復係になっている。

 クリノヴァは自由に過ごしている。


 ここに来てもう数日。


 ルチャはレベルが順調に上がっているみたいだ。

 対して、俺のレベルは上がっておらず、ステータスも変化なし。


 だが俺は確実に混合魔法を会得しつつある。


 混合魔法とは必殺技のような魔法だ。

 己の持つ攻撃魔力を集約し、特大の魔力を込めて放つ魔法だからな。


 俺の混合魔法は黒い矢のような形になった。

 必殺技、混合魔法『超闇弾』は完成しつつある。


 ここからはひたすら練習と経験が必要だろう。


「という事で、クリノヴァ。俺と模擬戦をしてくれないか?」


「どういう事なのだ?」


「俺は混合魔法の超闇弾と剣で戦う。クリノヴァは遠慮なく俺と戦ってくれ」


「ふん、良かろう」


 そして始まった模擬戦。


 俺はクリノヴァにボコボコにされる。

 いや、ボロボロにされると言った方が正しいか。

 手足は消滅させられるし、体なんて穴だらけだ。

 クリノヴァは人化した姿で素手なのに余裕そうだ。


 だがこれでいい。

 手足が消滅したり、体に穴が開けば、回復魔法を発動させる感覚を掴める。

 魔法は超闇弾限定にして、魔法の発現速度を上げられる。

 鈍っていた剣術も研ぎ澄まされる。


 次第にクリノヴァは楽しくなってきたのだろう。

 笑顔で完膚なきまでにボロボロにしてくれる。

 途中で「面倒」とか「飽きた」とか言われるよりもいい。


 ステータスには表示されない『経験』という部分での成長が感じられる。


 最初こそルチャ達は心配そうにしていたが、途中から俺もクリノヴァも楽しそうに戦ってる事が分かったのか、今じゃ食事をしながら観戦している。


 ルチャからは「ボーンの動きが遅いの」とダメ出しをされるようになった。

 俺とクリノヴァでは動く速度が違いすぎるからだろう。

 これは魔物としての性能が違うからだ、仕方ない。

 まあ、いつか超えてみせる。


 アルとレットは「魔法が遅いのニャ」と言うダメ出しが多い。

 確かにクリノヴァの光魔法に比べて、俺の超闇弾は遅すぎるからな。


 だが少しずつ、混合魔法の発動は早くなっている。

 まだまだ混合魔法は覚えたばかりだ。

 これから磨く部分なのだ。


 クリノヴァからは「才能が無い」か「死ね」しか言われない。

 ちょっと悲しい助言である。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 現在、ルチャ達はスライム狩りに行っており、俺はクリノヴァと休憩中だ。


 今こそクリノヴァから助言を頂こう。


「クリノヴァ、俺が強くなる為にはどうすればいいんだ? 何か助言をくれないか?」


「ふむ……」


「とりあえず模擬戦で、気付いた事や改善すべき点があるなら教えてほしい」


「理解が足りないのだ」


「は? 理解って……何に対して?」


「自らに対してのだ」


「自らに対しての理解……つまり、どういう事?」


「貴様は何だ?」


「俺は人間の冒険者だが」


「違う、貴様は気持ち悪い魔物だ」


「気持ち悪い魔物って……まあ、そうかもしれないが。つまり、魔物としての特性を活かせとか、そういう事か?」


「ふん」


 なるほど、スケルトンならではの戦い方か。

 スケルトンの体は、人間に比べて誇れる部分が多い。


 暗闇で視界良好。

 魔物ならではの魔力の波動感知。

 骨体の再生速度は速く、あらゆる耐性が高い。

 毒も効かない、感覚器官の麻痺も効果なし。

 そもそも感覚を自由に操れると言ってもいい。

 血が流れてないから、出血とは無縁だ。

 魔力回復速度は素晴らしい。


 ふむ……そう考えると、戦い方に変化が生まれる。


 いや、そうか、空を飛ぶ事も出来る。

 巨大化も体の部位変化も出来るのだ。


 ああ、なるほど、分かったぞ!


 確かに理解が足りない戦い方だったな。

 もっとスケルトンらしい、俺ならではの戦い方があるのだ。


「ありがとう、クリノヴァ。今から俺らしい戦い方ってやつを見せてやろう」


 俺を本気にさせた事を後悔するがいい。

 さあ、勝負だ!


「食事が終わるまで待て」


「……そうだな。待つよ」



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 そして再開される模擬戦。

 いや、模擬戦と言う名の修行だな。


 俺はいろんな事を試しながら戦うことにした。

 翼を使って立体的な動きをしたり、尻尾を生やして手数を増やしたり、手だけ巨大化させて攻撃したり、腕を伸ばして叩きつけたり――。


 そんな滅茶苦茶とも言える戦い方をすると、何となく見えてきた。

 俺らしい戦い方を理解できるようになってきた。


 ああ、なるほど、こういう事か、納得だ。


 俺は人間じゃない、スケルトンだ。

 そしてユニークスキル持ちの魔物なのだ。

 これこそが強くなる為の戦い方だ。


「クリノヴァ! これが俺の真骨頂だ!」


「小癪な!」


 クリノヴァがドラゴンの姿になる。

 翼を叩きつけ、尻尾で払われ、噛みつかれる。

 口から魔法を吹いたりもする。

 ドラゴンらしい戦い方をしてくれる。


 俺もクリノヴァも体力は無尽蔵。

 しかし殺し合いをしてる訳ではない。

 これは模擬戦なのだ。


 いつしか、最下層に居た冒険者達が観戦するようになっていた。


「そこだ!」「尻尾を使え!」「脇腹を狙え!」「足を動かせ!」「噛みつけ!」

「カウンター!」「そうだ!」「いいぞ!」「魔法だ!」「ブレス!」


 何故か応援されてるのはクリノヴァである。

 ちょっと悲しいんだが。

 もっと俺を応援してくれよ。


 聖なるドラゴンが呪われた人間を退治する演劇、みたいな感じになってきた。


 いい感じに手加減をして、俺を追い詰めるクリノヴァが楽しそうだ。

 ドラゴンの顔でも分かる、ニヤッとした笑顔。


 いいだろう、呪われた人間の底力を見せてやろう。

 クリノヴァよ、後悔するがいい。

 ここで呪われし人間に倒されるのはドラゴンだ!


 ……と気合を入れたが、結局ボロボロになったのは俺の方であった。

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最弱スケルトンの俺が最強を目指しながら冒険する物語 まっくろえんぴつ @gengrou

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