骨83本目 クリノヴァの教え

 スライムダンジョンでレベル上げを始めた。


 レベル上げはダンジョン最下層のボスが居る空間近くですることにした。

 理由は他の冒険者からレベル上げの邪魔をされたくないからだ。


「ルチャよ、何故、混合魔法を使わぬ?」


 早速レベル上げをしよう、というところでクリノヴァがルチャにこんな事を言った。


 俺は意味が分からなかった。

 混合魔法とはなんぞや?


 クリノヴァに質問されたルチャはポカンとしている。


 腕を組み、肩幅に足を広げ、偉そうなクリノヴァ。

 ここまで静かだったのは、何か考えていたからなのか。


「クリノヴァ、混合魔法ってなんだ?」


 沈黙のクリノヴァ。

 どうやら簡単には教えてくれないらしい。

 是非とも教えてほしいのだが。


 と、思ったらルチャの背後に移動して、ルチャの背中に両手を置くクリノヴァ。


「ふん!」


「い、痛いの!? な、なにする、のっ……!?」


「お、おい!……えっ?」


「「ニャッ!?」」


 次の瞬間、ルチャの手から謎の魔法が出た。

 ボッと音を立てて、変な色の小さな球が出現。

 白っぽいが、キラキラした輝きを放っている。

 そのまま、ふわふわと壁に向かって飛んでいく球。


 ――ズガァァァァンン……!


 球は壁に当たると同時に、激しい音を立てて爆発して壁を破壊した。


 唖然……なんだこれ?


「今の魔法は……なんだ?」


「見た通りの混合魔法であるが?」


 ほう、まるで意味が分からない。

 クリノヴァは口数が少ないからな。


「あの球を集約したのだ」


「あの球……って、どの球?」


「ふん」


「あ、わたし、なんとなく、わかったの!」


 クリノヴァはやれやれと言うような感じだが、ルチャは何かを掴んだらしい。


 ルチャは大小様々な大きさで、魔法を球状に発現させた。


 俺が教えた魔力操作の練習で作る球だ。

 ここまで器用に魔力を操るルチャは凄い。


 ルチャはそのまま魔力を操作し、球を混ぜ合わせて1つの大きな球にした。

 合体した球はすぐ消滅してしまったが、俺もそれを見てようやく腑に落ちた。


 混合魔法とは、複数の魔法を混ぜて、1つの魔法として発現する魔法だ。


「なるほどな! 魔法を混ぜて、いや、集約させて、魔法を発現させる訳だ! 流石はルチャだ! よく気が付いたな!」


「えへへ! わたしは凄いの!」


「我が教えたのだが?」


「よし! 俺も練習してみよう! これは凄い魔法が生まれそうだ!」


「おい、我を無視するな、殺すぞ」


「無視してないの」


「クリノヴァはいつもそう言うのニャ」


「クリノヴァは寂しがり屋なのー!」


「クリノヴァ! 俺の背中にも手を当てて、ルチャと同じようにやってくれ、頼む!」


「ふん」


 そこから始まった混合魔法の練習。


 混合魔法を発現させる為には、綿密な魔力操作が必要だ。

 難易度の高い前提だが、俺とルチャにはそれができる。


 いや、できる筈なんだが……混ざらない。


 火・土・光・闇……異なる属性の魔力だからか、上手く混ざらないのだ。

 何かコツが必要だとは思うのだが、クリノヴァはコツなんか無いと言う。

 クリノヴァが背中に手を置いて、魔力を流してもらえば出来る……謎魔法だ。


 しばらくルチャと四苦八苦しながら練習する。


 アル、レット、クリノヴァは魔法袋から食事を取り出し、食べながら寛いでいる。

 アルとレットは1つの属性しか持ってないので、混合魔法に興味は無いようだ。


 だが俺とルチャは興奮している。

 新たな魔法の可能性を実感したからな。


 どうしてもクリノヴァの助け無しで発現させたい。

 自在に混合魔法を操りたい。


「……ん? なあ、クリノヴァはどうして混合魔法を知っていたんだ?」


 練習の合間にふとそんな疑問が湧いたのでクリノヴァに聞いてみた。


「貴様らのように、我らの住処に来た人間が使っていた。だから知っている」


「ああ、なるほど、そんな凄い人が居たのか。その人に会う事はできないか?」


「我が殺した」


「そ、そうか……それは残念だ。死んでるなら無理だな」


「ふん」


「そういえば……前に光龍の住処に行った時、クリノヴァは俺を殺してるよな? 今なら少しは悪かった……とか思ってるのか?」


「貴様は、なんの断りもなく自分の住処に来た魔物を殺さんのか?」


「それは……そうだな、俺が悪かった。もしそんな魔物が来たら、俺も殺してる」


「そうであろう」


「クリノヴァ、ちゃんと仲直りしよう。あの時は俺が悪かった、申し訳なかった」


「ふん、良かろう。レットが選ぶべき親を連れて来た、と思ってやらんでもない」


「お、おう」


 ふと、クリノヴァとの確執が和らいだ気がした。

 クリノヴァの言う通り、いきなり魔物が家に来たら殺すのは当たり前の事だ。


 そうか、俺はしっかりと謝るべきだったんだな。


 そう考えるとクリノヴァとは優しいドラゴンだ。

 理解がある大人と言ってもいい。


 俺はクリノヴァの事を少しだけ考え直した。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 ひたすらに混合魔法を練習してきたが、それがついに報われる時が来た。


「できたの!」


 ついにルチャが混合魔法を発現する事に成功したのだ。

 俺はルチャに混合魔法のコツを聞いてみる。


 ルチャ曰く、火・水・土・風の魔力を闇の魔力で混ぜるそうだ。

 その後に、白の魔力で包み込むのがコツらしい。

 体内で魔力を混ぜてから、一気に体外に出すのもコツみたいだ。


 うーむ……言ってる意味がまるで分からん。


 体内で混ぜても、俺は白の魔力を持ってない。

 俺が持ってるのは黒の魔力だ。


 あれ、いや、待てよ……?


 体内で火・土・光を闇の魔力で混ぜる、これはいい。

 それから闇の空間を作る時のような魔力で包み込んでやればいいのか?


 とりあえずやってみると……おお、小さい黒い球の魔法が出た。


 そうか、なるほど、この感覚か!


「ルチャ! 俺も何となく掴んできたぞ!」


「うん! もっと練習するの!」


「そうだな! もっと練習しよう! 混合魔法はきっと凄い武器になるぞ!」

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