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 あのときの私の、複雑に混乱した気持ちの正体を、今ここにいる私は、もちろんよく理解している。


 当時、17歳だった私は、彼のことを "お兄ちゃんではなく自分の彼氏" だと、反射的に他人に紹介してしまった自分の意識に折り合いをつけることができず、強い心の痛みを覚えたものだった。


 そう口にしてしまったことで、それはまったく神の慈悲のように、いくつもの奇蹟が重なって目の前に現れた、生きた私のお兄ちゃんという初雪のごとく清らかな存在を、穢してしまったように感じたから。


 それはどんなことがあっても、許されない行為であったはずなのに。


 辛苦の果てに、私の目の前に舞い降りてきてくれた天使を、自分で引き金をひいて撃ち殺したような気分だった。


 天使の血で汚れた自分の手を呆然と眺め、そしてその手で私は頭を掻きむしった。

 これはただの過失だ、故意じゃなかった。

 だから私は許されるはず。


 でも、妹の心の私が、私を責める。


 …本当に?

 よくもあんたは、ぬけぬけと私のお兄ちゃんのことを、自分の彼氏だなんて言えたもんね、最低のクズ!

 そういう邪な心が、私の中には、最初からどこかにあったんじゃないの?

 そんなふうに、17歳の私は、自分自身を責めた。

 そして、私にはどうあがいても、兄というものがいる自分を理解することができないのだと絶望した。


 しかし今の私には分かる。


 あのときの私は、自分の兄のことを、かっこいいと騒ぐ少女たちを見て、焦ったのだ。

 お兄ちゃんを取られちゃったら、どうしよう、って。


 あのひとは、私のお兄ちゃんなんだと答えたら、じゃあ紹介してよ、ってお願いされちゃうかもしれない、そして面倒くさいことになる、だから牽制の意味もあって、彼氏なんだと嘘をついた。


 そういう子供っぽい独占欲を、仲のいい兄に対して持つことは、妹としての一般的な範疇内に含まれても、さほどおかしくないと思う。

 だから私はきちんと、ここまでお兄ちゃんシュミレーションを正しく実行できていたんだよ。


 でも当時の私には、それが理解できなかった。

 

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