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さらに夜と雪はしんしんと深まり、24時を過ぎて、日付上は新しい一日が始まった。
まあ新しい一日とは言っても、窓の外は相変わらずの闇夜、そして降り積もる雪、ただ日付が変わっただけで、引き継ぎお兄ちゃんとふたりで過ごす時間は、途切れることなく続いている。
まるで雪が降るほどの寒さのせいで、川の流れが凍りつくのと同じように、時間の流れも凍りついて、しまったかのように、この夜が永遠に続くような気がしてくるのだった、…いや、気がするというか私の願望か。
そして私はおかげさまにも、日頃の不節制な生活のせいで、こんな遅い時間になっても、ちっとも眠たくなかった。
ちらりと様子をうかがってみると、お兄ちゃんも私と似たようなものなのか、特に眠そうな気配をみせない。
まったく、私たちは、いかにも日々規則正しい生活ができていないことが見え見えの、ダメ兄妹だった。
でも、今夜は特別な夜なんだから、これでも構わない。
私にとっては、永遠の、奇跡が叶えられた夜なんだから。
とりあえずは食事の後片付けを済ませたあと、おたがいに満腹になって気持ちも落ち着いたところで、お兄ちゃんの足の怪我の具合をみることにした。
まずは空腹を満たすことが優先と、ずっと手当を後回しにしてしまったけれど、それまでのお兄ちゃんの弱々しい歩き方といい、ずいぶん痛そうだったから、いい加減ちゃんとしないとね。
私が怪我の手当てをしようとすることに対して、これまでは、私が何をするにしても遠慮がちだったお兄ちゃんも、素直に受け入れてくれた。
もはや私が言ってくる何かに対して遠慮をしようとしても無駄だって、そう悟って諦めたのかもしれない、ホントまな板の鯉みたいにおとなしかった。
あるいは、本腰を入れてお兄ちゃん業へと、彼は入り始めたということだったのかもしれなかった、私が、妹としての正しい振る舞いについて頭を悩ませ始めたのと同じように。
まあ何はともあれ、まずは怪我の具合をチェックしてみよう。
イスに座ったままのお兄ちゃんに、ジーンズの裾をめくってもらう、すると左足の、足首よりちょっと上辺りが赤紫色に変色しているのが見えて、うわ、こりゃ痛そうだ…と思ったのを今でもよく覚えている。
これって本当に大丈夫なの、って聞いたんだけど、お兄ちゃん曰く、「足を動かすと痛むが、じっとしている分には問題ない」らしい。
なんて、涼しい顔でそんなことを言っていたけど、ずっと使ってなかった救急箱から持ってきた湿布を足にべたべた貼りまくってあげたときは、よっぽどひんやりしたのか、顔をしかめていたのは、ちょっと笑えた。
こうして足の応急処置が終わると、お兄ちゃんは、本当に申し訳ないが洗面所を借りられないだろうか、とマジで申し訳なさそうな顔で言ってきた。
汚れてしまった手と顔を洗いたいらしい。
確かにお兄ちゃんの綺麗な色白の顔には、左のほお骨のあたりの青あざの他にも、いくつか擦り傷や切り傷があり、皮膚から血が滲んだ痕があった。
そりゃ汚れを落として、きれいにしたいよね。
ここまでまったく痛そうなリアクションを取ったりしてなかったし、お兄ちゃんの方から何も言ってこなかったから見逃してたけど、ごはんを食べる前に、こっちから水道使うかきいてあげればよかった。
うーん…しかしこっちはこっちで痛そうだな…。
そういったわけで私はお兄ちゃんを、うちのお風呂場の前にあるちいさな洗面所に連れていった。
ま、居間のとなりにあるから、ホントすぐそこなんだけど。
相変わらずお兄ちゃんは、丁寧にお礼を言ってから、さっそく洗面所で手を洗い始めた。
新しいタオルを用意して、いつでもそれが使えるように待機しながら、近くでお兄ちゃんの様子を見ていた私は、そこで気づいたんだけど、顔や足よりも何より、お兄ちゃんの手の甲が一番ボロボロになっていて、ものすごくギョッとした。
顔よりもよっぽど傷だらけで、もちろん青あざもあったし、それどころか今でも破れた皮膚から、真っ赤な血が滲んでいるのが見えた。
そういやこのひと、さっき、ヤンキーどもを三人ノックアウトさせて、そのうちの一人は鼻を折ってやった…みたいなこと言ってたよね、それでこうなったってわけか。
いやいやいや…話に聞く分には、へえーそうなのかって、それなりに驚きながらも受け入れることができたけど、こうしてボロボロに怪我してるところ見ちゃうと、なんか一気にリアリティというか、生々しく現実が感じられてきて、ちょっと動揺しちゃうよ。
痛みだってまだ残っていそうなのに、何事もなさそうなクールな表情のまま、手を洗い、そして顔を洗っているお兄ちゃんのようすを横目に見つつも、私はかるい目眩を覚えた。
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