5-3

 そういったわけで、お兄ちゃんからの提案により、私は急遽、大きな箱はないかとうちの中を探しまわる。

 せまい部屋内をあれこれ探しているうちに、やがてちょうどいい大きさの箱がみつかった。


 ちょっと前に、隣の部屋のおねえさんから貰った高級チョコレート、その詰め合わせが入っていた、缶の箱だ。


 パッと見の大きさは、デリバリーピザの箱くらいある。

 だけど深さは、箱の底に手をついたとき、私の手首までが収まる程度にはあって、まさに小物をしまっておくには、ちょうどいいサイズだった。


 これなら問題なく、兄の写真や、そのほかの赤ちゃん用の洋服や食器なども、まとめて入れておくことができそうだ。

 チョコレートの空き箱を手に、私はホッと満足する。


 おねえさんは、これお客さんからいただいたんだけど、私ダイエット中だからよかったら食べて、って私にくれて、そのチョコレートの箱のデザインがあまりにも綺麗だったから、今日までとっといてたんだよね。

 中世ヨーロッパ的な、ちょっとゴシックな美しい花々のデザイン。


 しかもパカッとふたを開けてみたら、なんと、中からトリュフチョコが5粒でてきた。

 持ったとき軽かったし、自分でも食べ切ったつもりだったんだけど、まさか残りが発見されるなんて、ちょーラッキー!



 「ねえ、見てこの箱、ちょうどいいと思わない? 大きいしキレイだし!

 しかもね、中からチョコがみつかったんだよ、食べよーよ!」



 おねえさんから貰った高級チョコレートが、どんなに美味しかったかしっかり覚えていた私は、ちょっと興奮しながら後ろを振り返って、テーブルの前で静かにイスに座っているお兄ちゃんへ、うきうきしながら声をかけた。



 「ああ、それはよかった。

 だが、チョコレートを食べる前に、片付けを先に終わらせてしまおう」



 相変わらず落ち着いた声で、淡々と私へそう話しかけてから、お兄ちゃんは最後にいたずらめいた瞳でこんなことを言う。



 「…どうだ? こういう話し方、お兄ちゃんっぽいと思わないか?」



 それまで涼しい顔してたくせに、実は本当にノリのいい人だ。

 こうしてまた不意打ちみたいにして、チャーミングな微笑みを見せてくれた。


 私だけに向けられる、親密さを込めたお兄ちゃんの微笑み…。

 それを見た私はあわててお兄ちゃんに背をむける、とっさに、ヤバいと思って。

 ドッドッドッと心臓が慌ただしく動いていた。


 なんだこれなんだあれ…これがお兄ちゃん…お兄ちゃんというものなの!?


 まだまだ慣れないお兄ちゃんという実体を持つ存在、そのお兄ちゃんが見せるちょっとした仕草に、何の免疫も持たない私はいちいち緊張を隠せないままだったけど、とりあえずは「うん」と返事することはできた。

 

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