次の日

 海を見に行った次の日に仕事が回ってきた。内容はいつも通りとでも言うべき殺人。シジマにも連絡は行っていたらしくいつもの場所で待ち合わせをした。

「やあ、カイ君、元気にしてた?」

「いつも通りだけど」

 昨日会ったばかりだが相変わらず適当に話を振ってくる。返事はいつも通りの雑さだった。

「じゃあ、いいや。仕事、しよっか」

「ああ」

 これも、いつも通りだ。俺達が仕事をするときに何か特別な会話だとか儀式のような物は無い。これ自体が日常になっているのなら、切り替えることは何も無い。

 仕事はあっさり終わった。前の時と違いがあるとすれば俺が下手人になった事くらいだった。返り血が俺のナイフと手にこびりついている。少し気持ち悪いなとは思うが、それくらいだった。昨日、帰ってから少しだけ考えてたことがあったから、それをシジマに言うことにした。いつもと違うのはそれくらいで、そうすることに意味があるように思えた。

「今度さ、どっかの街に行きたいんだけど」

「……なんで?」

 シジマが心底意外そうな顔をして尋ねてきた。それくらいの答えはとっくに用意している。

「この町の外の事を知りたくなった。それで俺が変われるかどうかは知らねえけど」

「昨日の態度からするともう満足したっていうかどうでもいいって感じだったけど、そうでもないんだね」

「まあ、外の事を知るのも悪くねえなって思っただけだよ」

 そこで一区切り入れてから告げることにする。

「あんたが期待してるようなことは多分できねえだろうけど付き合ってもらう」

 明確に俺が我儘を言うことにした。こいつの我儘に付き合った量を考えればそれくらい許してくれたっていいような気がする。

「良いよ。それくらいは付き合ってあげる」

 俺が作った死体を死体袋に入れながら、シジマが答えた。どんな顔をしていたかは見えなかった。

「いつか、変われるといいね」

 どうせ、できもしない事を俺に要求してから、シジマは心底楽しそうに笑った。そのあとの事はいつも通りだった。変われるかどうかも分からない日々が続いていくことだけは決まり切っていてそれ以外は何も分からなかった。

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