海
初めて見た海は、予想通りとでもいうべきだろうか、綺麗ではあったけれども、心を動かすようなものではなかった。潮の香りだとか、波音だとかの細かいディテールは映画で見るだけでは分からなかったから、来る意味はあったような気もする。それと同時にこんなもんかという失望のような気持ちが自分の内側にある事にも気づく。
「もうちょっと感動するもんだと思ってたけどそうでもないな」
そのままの感想を声に出す。映画で主役っぽかった奴はもっと大袈裟にリアクションをしていた気がする。
「張り合いないなぁ。わざわざ二時間くらいかけて車で来たのに第一声がそれって」
「もっと大袈裟に感動したほうが良かったか?」
「別に、感動しないならしないでいいんじゃない?ヘタクソな演技されるよりかはずっと良いよ」
「ああ、でも、実際に来る意味はあったと思う」
「なんで?」
心の底から疑問だと言わんばかりの声音でシジマが尋ねる。
「こんなもんかって思えたこと自体が収穫だった」
「そう。じゃあ、君は変われないかもしれないね」
「悪い事か?俺は変わった方が良いのか?」
今度は俺が尋ねる番だった。もしも俺に変わるなんていう高尚なことを期待されているとしたら、俺はきっとそれには答えられないと告げる必要があった。
「良いんじゃない、別に。自分をどうするかなんて結局は自分で決める事なんだし」
拗ねたような声音と表情でそう答えられたとしても俺は何かを感じることはなかった。こいつに感じている不快感の根底が少しだけ、理解できた気がする。
「そうだな。帰ろうぜ」
もう、ここに居る意味は無い。ロードムービーならそれこそ、ここでエンドロールが流れて終わるような話だ。宣言通り帰る事にした。帰り道は特に話すことも無く静かな時間だけが流れた。
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