道中
町は車を使えば、存外すぐ出れるくらいの広さでしかなかった。当たり前のことではあったがそれ自体がおかしいようなそうでもないような気がした。シジマは特にいつもと変わらない。
「カイ君、もっとこう、リアクションとかないの?外出るの初めてでしょ?」
そう言われて、素直に感じたことを口に出すことにした。
「……あの町、狭かったんだな」
「ベタだねぇ」
シジマがニヤリとしながらこちらを見やる。何が楽しいんだ、こいつ。
「悪いかよ」
「全然。もっとカッコつけたこと言ったらバカにするつもりだったけど、割と素直な時は素直だよね。君」
「カッコつけたところで散々コケにされるのが分かってるんならわざわざカッコつけねえよ」
「そう。じゃあもう少し優しくしておけばカッコつけてくれてた?」
「そうかもな」
それを聞いてシジマはハンドルをバンバン叩いて笑った。こいつが俺の前で笑うのは自分で勝手にウケてる時か、俺を馬鹿にしているとしか思えない時だけだった。それを咎めてもどうせやめる気がないのはずいぶん前に確認したことだから改善を期待するのは諦めることにしている。
「あとどれくらいかかるんだよこれ」
「二時間くらいだよ。カーナビにも出てるじゃん」
それを聞いて俺はひどい顔をした。こいつと後二時間もこの調子で話すのなら、俺の精神衛生に深刻なダメージが及ぶ。
「え、そんなに私と話すの嫌なの」
「言ったじゃねえかよ。なんであんたと二人で行かなきゃならねえんだって」
「そういえば言ってたね。本気で嫌なら断ってもいいのに」
「断ったらあんたもっとめんどくさいだろ」
「そうでもないと思うけどなぁ」
本当にわからないといった顔をするがおそらくすっとぼけているだけだ。こいつは都合の悪いことにはいつだって適当な態度で返して誤魔化そうとする。俺が追求することを諦めたような態度をとることが原因だったような気もするがどうしてこれが常態化したかはよく覚えていない。
「絶対、めんどくさいからな。あんたはもっと自分を客観視した方が良いぞ」
「それはカイ君も大概でしょ」
そこまで言われてから俺自身について考えるが多分すぐ横のこいつよりはましだなと結論が出る。
「あんたよりかはマシだよ」
「カイ君の言葉をそっくりそのままお返ししておくよ」
これはたぶんお互い様なんだろうなということに指摘されて気づいたので言及は控えることにした方が良さそうだ。
「この話はやめておこう」
「そう。じゃあ、今回は私も引いてあげるよ」
そのあとはしばらく無言が続いた。特に気まずいわけでもなかったが、シジマがおもむろにカーステレオを付け始めた。流れ始めた曲は4、5年前に流行していた音楽だった。歌詞はよくあるようなそうでもないような日常を賛美するような内容の物だった。
「けっこう古くないかコレ」
「最近の流行りでしょ」
「結構前な気がするんだけど」
「最近のだって」
圧のようなものが強くなる。これ以上言及すると機嫌を損ねるのは明白だったから最近の物だということで納得することにした。くだらない話をしているうちにカーナビが目的地がすぐだと告げた。それを聞いて俺はおそらく嬉しそうな顔をしたのだと思う。
「思ったよりも機嫌良さそうじゃん、カイ君」
「あんたと話す時間が思ってたより短かったからな」
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