出発

 次の日の朝、シジマはご丁寧に俺の寝床まで迎えに来やがった。チャイムが鳴ったので寝床の扉を開ける。残念ながら、シジマがそこに居た。満面の笑みでそれなりに大きい声で俺に告げる。

「カイ君!!迎えに来たよ!!」

「朝からうるせえ」

 今更帰れといったところでどうせこいつがさらに喚き出すだけなのも目に見えていた。姉のような振る舞いをしようとする割に面倒な振る舞いをよくするこいつには本当にうんざりさせられることが多々ある。

「もう出れる?」

「これが出れるように見えるんなら目ん玉取り換えてきた方が良いぞ」

 明らかに外に出るための服装をしているシジマに対して俺は、寝間着のまま玄関から顔を出している。目を覚ましたのがシジマが車で来る少し前くらいだったからだ。これで出かけられるように見えるんなら本当に目をどうにかした方が良いと思う。

「じゃ、五分で準備して」

「……分かった」

 抗議をしたいところではあるがその方が時間が無駄なことも目に見えている。だから、玄関をさっさと閉めてシジマを視界からいったん消して着替えることにした。服は、いつも通りの動きやすい服装だった。持ち出すものは念の為のナイフと鞄くらいだった。端末はいつも持ち歩いてるから考えなくていい。

「準備できたぞ」

「ちゃんと五分以内じゃん。偉いね、カイ君」

「どの立ち位置で言ってんだよそれ」

「お姉ちゃんとしてだけど」

「あんたは俺の姉貴じゃねえよ」

「冷たいなぁ……」

「事実を言ってるだけだろ」

 シジマがさらに何か言っていたが聞き流して車に向かう。どのメーカーのどんな車種なのかはよく分からない車。壊したわけでもないのに車種が変わっている理由は聞かないほうがいい気がした。

 いつも通りに助手席に座る。一度後部座席に座ろうとしたときなぜかシジマが機嫌を損ねたのでそれ以降はずっと助手席に座っている。俺が聞いているかどうかは関係なしに文句を言っていたシジマが黙って車のエンジンをつける。いつもと特に変わらない空気のまま、海に向けて車は走り出した。

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