旗会

――ブォン――

洋朱色クリムゾンレッド二輪車バイクからエンジン音が漏れる。勢いよく発進したその二輪車バイクに跨がるのは黒い帽子をかぶった少年。少年は周囲の車を避けながら山に消えていった。


 山手やまのての清潔な墓地。二輪車バイクから降りた中也はある墓石の前で立ち止まる。

「よぉ、久しぶりだな。今年もこの日が来やがったぜ。ったく、なんで皆して祝いたがる?おかげでパーティの準備だとかなんとかで主役の俺が追い出されちまった。あっ、そうだ。」

そう言って中也が取り出したのはクラッカー。

パーティのため用意されていたものをこっそり貰ってきたのだ。もちろん五人分。

「ほらよ、お前らこれが好きなんだろ?空の上でお前らもこれでパーティでもしてろよ。」

懐かしそうに笑いながらそれらを手向ける。それから立ち上がり、墓地から見える眼下の横浜を見下ろす。準備が出来るまで戻って来るなと追い出され、正直暇なのだ。

「はぁ、なんで俺が追い出されなきゃいけねぇんだよ。」


 「何だよ、ついにポートマフィアを追い出されたのか?中也。」

突然背中から掛かった声に驚き振り返る。

「白瀬!お前なんで・・」

「一時的に帰国してんだよ。今日なら中也、ここにいるかと思ってさ。で、何?追い出されたのか?」

にやにやしながら白瀬が尋ねる。嫌だ。こいつには知られたくない・・。

「違ぇよ。いや、違ぇことも無ぇけど。一時的にだ、一時的!」

何とかごまかそうとあやふやに答える。しかし数分後中也は恥ずかしさに頭をもたげ、白瀬は爆笑していた。なめていた。こいつの好奇心を。何故だ。あれほどばれないように注意していたのに、何故全部こいつに知られている。

「あはははっ!何だよ、その理由。ポートマフィア様がパーティ?それで中也追い出されたのか?あははっ!」

「うるせぇ!俺だって好きで追い出された訳じゃねぇよ。」

「でも中也、祝ってもらわなくていいとか言ってる割に何で主役の俺がーって言ってたぞ?ほんとは皆にお祝いしてほしいんだろー?可愛いやつめ。」

「はぁ!?んなことねぇよ。うるせぇな!」

ダメだ。恥ずかしすぎて語彙力も無くなってきた。顔も上げられなくなって恥ずかしさに耐えている中也を放って白瀬は墓地を歩き回る。そして、ある墓石の前で眉をひそめた。

「ん?なんだこれ。クラッカー?」

「あっ、それは!」

「え?これ中也が?」

墓穴った。

「あははっ!中也今日、自分の記念日だろ?何で自分でクラッカー持ってきてんだよ。」

「もううるせぇよ、お前今日。いいだろ、別に。」

「まぁ、善いけどさ。中也のことだから何か意味あってのことだろうし、俺はそこまで突っ込まねぇよ。あ、でも弔いはしねぇよ?俺この人達と知り合いでもねぇし、そこまでの義理は無いからな。」

「頼んでねぇよ。こいつらの墓参りは俺だけで十分だ。ってか、白瀬はどうなんだよ。倫敦ロンドンで。」

「うっ。別にいいだろ、その話は!」

白瀬が焦る。形勢逆転だ。

「その反応は上手くいってねぇみたいだな。」

そう言って苦笑する中也に白瀬は言い返す。

「今組織を大きくしてる最中なんだよ!未来の王の悩みは凡人には分かんねぇだろうけど。」

「そうかよ。そりゃあ楽しみにしてるぜ。」

その後も二人は他愛ない話をした。誰の記憶にも何の文献にも残らない小さな尽きることのない話の数々を。


 「そろそろ仕事に戻らねぇと。中也もパーティの時間じゃねぇの?」

にやにや冷やかしてくる白瀬を軽く躱しながら中也は歩き出す。

「そうだな。そろそろ行くか。仕方ねぇから途中まで送ってやるよ。ほら。」

そうやって中也から投げられたヘルメットを受け取り、白瀬も中也の後ろに跨がる。

「よし、じゃあ安全運転で頼むぜ。何せ俺は未来の王だからな。」

「ったく、白瀬は相変わらずだなぁ。」

そんな二人を乗せた二輪車バイクは夜の横浜に消えていった。

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中原中也 入団記念日 べる @bell_sasami

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