とある兄弟の五年後のはなし
私たちの目的は、過去の水木さんたちに手紙を送り、二人が亡くなってしまうことを回避させるというものだった。私たちは過去を調べ尽くし、何年の何月何日、水木さんの行動を把握し、どのタイミングで手紙を送るのかを精査した。どうやら水木さんは事件の当日までもう一人の命の恩人、武井さんとの面識はなかったらしい。
二人がどうやって知り合ったのか判然としなかったが事件の当日、二人は確実に行動を共にしていた。水木さんの家より、武井さんの家の方が私たちの家と場所が近いことから、二人は武井さんの家に向かっている途中だったのかもしれないというのが、私たちが導き出した結論だった。
このことから水木さんにのみターゲットを絞って手紙を送り続けることにした。なぜ送り続けなければならないのか、それは私たちの研究が完璧ではないからだ。過去に水木さんへ送った手紙を入手することが出来た。遺族が僕たちにと譲ってくれたのだ。
「良く分からない手紙なんだけど。持ってるのも気味が悪くてね」とむしろ処分したがっていた様子でもあり、都合が良かった。
初めて入手した手紙には、『希望を差し上げたいと存じます』とだけ書いてあり、ほとんどの文章が消えていた。これでは明確に事件当日の出来事が伝わるはずもないと、もう一度同じ文面で試しに送ってみた。すると、遺族から頂いた手紙に、ある変化が起こった。文字のあぶり出しのように、消えていた一部分が浮かび上がってきた。それはごく一部であってそこだけが浮かび上がっても全体像が見えてこないという、なんとももどかしい結果だった。ただ、新たに加わることはあっても文字が消えることがなかったのでこのまま続けていけばすべての文章が浮かび上がるのではないか? と私は考えた。その結果は正しかった。それから五年が経ち、やっと手紙の半分ほどが埋まるようになっていた。
しかし重要な部分だけは未だに消えたままで、彼らの死の回避法や史実を悪用する記載などは都合よくというか、運悪く出てきてはいなかった。
「あと何年かかることやら」私は奥歯を噛みしめた。
「何年でも続けるさ」春生は爽やかに言い放った。もう二人ともいい年になっていた。四十を過ぎ結婚もせずに研究を続けるあたり、かの有名なライト兄弟も、発明にのめり込むあまりに婚期を逃していた。そんな偉大な二人と重なる部分がある。
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