とある女子高生の会話

夕暮れの河川敷に、少女たちの会話が風にのって流れてきた。


「ねぇ詩織しおり、昨日のテレビみた?」


「いやいや、番組名いってくんなきゃわかんないし」


「なんていったかな、日本の偉人を紹介する番組、しらないの?」


「日本の偉人って、坂本龍馬とか」


「違う、なんか惜しいけど。坂本兄弟って知らない? 研究者の」


「あぁ、坂本兄弟ね。なんかすごい研究してるらしいじゃん、その人たち」


「その二人がまだ子供の頃、家が火事に遭って、命からがら救い出されたって話を昨日やってて、兄弟を助けてくれたのはたまたま通りがかった若い二人の男女だったらしいのよ」


「へー、それで」


「燃えさかる家の中に飛び込んで兄弟を救い出したはいいけど、若い男女は助からなかったんだって」


「じゃあ、若い男女の命と引きかえに、坂本兄弟は生き延びた、ってこと?」


「うん。だから、今の自分たちがあるのはその二人のお陰なんです。って神妙な顔して語ってたよ」


「でも偉いよねー。そういう経験して、ちゃんとした大人になったんだから」


「だから私も頑張らなきゃって、感じたんだよね」


友子ともこは影響されやすい」


「過去が現在に影響を与えるように、未来も現在に影響を与える」


「なにそれ」


「ニーチェの言葉、哲学者」


「どういう意味」


「知らないけど、坂本兄弟がその言葉を使ってたの。『いまの研究は過去を変えるための研究でもあるんです』って」


「あたしは過去よりも未来を変えて欲しいわ、受験落ちる未来しか見えないもん」


「だから今から頑張るべきじゃないの、詩織はもっと変わるべき」


二人の会話は、ゆらゆらと風に吹かれる菜の花のように、未来にむかって無邪気に伸びていくようでもあった。

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