第41話終わり
「それじゃあまた」
「うん、また……」
梓と別れた私はその場から動くことなくしばらくのあいだ、梓の後ろ姿を眺めていた。梓は記憶がなくなっても親友だと言ってくれた。でも、他の人はそうもいかない。これからどうやって生きていけばいいのか。私はどうすればいいのか。梓と遊んだことで忘れていた感情が、ドッと押し寄せてきた。
私はどうすればいいの?
教えてよ、峻輝……。
縋るように彼のことを頭に思い浮かべると、急に彼に会いたくなった。そういえば勝手に家を出てきちゃったけど、峻輝はどうしてるかな。もしかしてずっと家の前にいたりして。だったらすぐ帰らないと……。
でももし居なかったら。それか家にいない私に呆れて、帰っちゃってたりしたら……。嫌な妄想ばかり捗って、何だか家に帰りたくなくなった。家に帰りたくないなんて思ったのは久しぶりだ。そういう時は、いつもそう、ここに来てたんだ。
私は家に近くにある砂浜に足を踏み入れ、そこから夕焼けが反射する海を見渡す。
すごく懐かしい。耳心地の良い眠くなるさざなみの音に、夕焼け空を通過するカモメの鳴き声。嫌な時や、気分が落ち込んだ時、いつもここに来てた気がする。それでいつも、ここで海を見てると後ろからお母さんが……。
そう思っていると、不意に背後から声をかけられる。
「七瀬さん」
落ち着いた声色。聞いたことない声。私はそっと、後ろを振り向く。あまり高くない背丈で眼鏡をかけた少年がそこには立っていた。初めてみる顔。なのに、出会いは初めてじゃない。そう確信できる。証拠も根拠も何もないけど、ずっと待ち望んでいた彼が、私の目の前にいる。
その瞬間、安心感とか安堵とか緊張とか、その他いろいろの意味わかんない感情が私の体をぐちゃぐちゃに渦巻いて、気がつけば私はツーと瞳から涙を流していた。それでもその涙を拭うことは何だか勿体無い気がして、私はそのまま彼の目をじっと見つめる。彼の次の言葉を待ち続ける。
私に見つめられた彼は、ザッザと砂浜を歩きながらこちらに歩いてきて、私の目の前に立つと、優しく微笑むようにして。
「また、ふたりぼっちだね」
そんな、矛盾していて、でも、今の私たちにはぴったりな言葉を言ってくるので、私は嬉しさを満面に出すようにして。
「うん、ふたりぼっちだ!」
そう口にした。
アンノウン ラリックマ @nabemu
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