第40話ありがとう

 園内の乗り物にもあらかた乗って、美味しい食べ物もたくさん食べて、もうすぐ5時の鐘が鳴る時間だ。そろそろ帰宅するのかなと思ったけど、梓はまだ帰る気がないのか出口とは反対方向に足を向けた。

「ねえ仁美。今日楽しかった?」

 突然にそんなことを聞かれ、私は素直に「うん」とうなずく。すると梓は嬉しそうに頬を赤らめて。

「そっか。じゃあ最後にあれ乗ろ」

 観覧車の方を指差してそう行った。特に断る理由もない私はそのまま梓の意見に賛成して後をついて行った。ぐるぐると大きくゆっくりと回っている観覧車の中に二人で入ると、妙に気まずい空気が流れる。なんで最後に観覧車なんだろ。

 梓が何を考えているのかわからず、私は正面に座っている梓の顔を一瞥する。そしてまたすぐに視線を戻すと、初めて私から話しかける。

「ねぇ、そのさ……。なんで修学旅行を休んでまで私の家に来てくれたの」

 かなり分かりきったことを質問すると、梓はふっと軽く笑みをこぼして窓の外に目を向けながら喋り出す。

「そんなの、仁美と一緒に居たいからだよ。恥ずかしいこと言わせないでよ!」

 キャハハと恥ずかしそうに笑う梓。修学旅行を休んでまで私と一緒に居たいなんて言ってくれるなんて、梓は本当にいい子だな。つくづく前の私は幸福者だなって思う。そんなことを考えると、またも嫌な考えが脳裏をよぎってしまい、喋りたくないことが勝手に口から漏れ出てしまう。

「そのさ……。梓の知ってる私はもう居ないわけじゃん。だからその……もう無理に誘ってくれなくてもいいよ。今日だって全然話せなかったし、梓も嫌でしょ?」

 いきなりメンヘラみたいな勝手で気持ち悪いことを口にしてしまう。なんでこんなこと言ってんだろ。ほんと、自分が嫌になる。こんな卑屈な人間と一緒に居ても、梓に迷惑かけるだけだ。だったらもう、関係を切った方が……。

 申し訳なさそうな顔をして俯いていると、梓はキョトンとした様子でいつも通りのトーンで。

「別に、仁美は仁美なんだし、どうだって良くない?」

 そんなことを言ってくる。まるで私の心境なんかどうでもいいと言わんばかりのその発言に、私は驚かされる。その言葉が何だか嬉しくて、でもものすごく申し訳なくて、私はまたもいらない発言をしてしまう。

「でも、梓の知ってる私とは違うんだよ。前みたいに仲良くできるかわからないんだよ?」

 そう口にすると、梓は間髪入れずに。

「出来るよ」

 確信したようにその言葉を言い切る。

「別に仁美があずさのことを忘れちゃったって、あずさが仁美の親友なことに変わりないし。記憶が消えたからって、関係が変わっちゃうなんておかしいじゃん。

 だから、これからも仲良くしてよ!」

 さっと手を差し出してきた梓の掌を、私は一瞬ためらいつつも握り返す。記憶が消えて、中身も前とは別人見たくなってしまったのに、こんな風に手を差し伸べてくれる彼女に私は今まで何度救われてきたんだろう? もう先ほどの嫌な感情は微塵もない。だから先ほどよりも強く梓の手を握り。

「よろしく」

 満面の笑みでそう返す。

 





















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