第39話ジェットコースター

 デパートを出た梓は、次の目的地を携帯で検索して見せてきた。

「次はここに行こ!」

 ピンクのカバーケースに包まれたアイフォンに写っていたのは、ここから少し離れた場所にある遊園地だった。そういえばここも何度か行ったな……。奇妙な既視感と懐かしさを感じながらも、私たちは遊園地へ向かうバスに乗って目的地へ向かった。

「着いたー!」

 テンション高く腕を上げる梓は心の底から嬉しそうにしている。ほら早く! と腕を引かれ、私たちは受付の方へと歩いていく。

「すいません。大人2枚で!」

「かしこまりました。どうぞ楽しんでくださいね〜」

 受付のお姉さんから遊園地のフリーパスを3000円で買うと、私たちは園内に足を踏み入れる。学生や子供達の喧騒と、ジェットコースターが頂上から落っこちる時の女子高生の悲鳴が遊園地に来たことを実感させてくる。

「じゃあまず何から乗ろっか?」

 目をキラキラさせて、梓はキョロキョロと園内の乗り物に目を向ける。乗り物は苦手じゃない。いや、苦手だったけど、ずっと乗ってるうちに慣らされた。確かこの子と何度も来た気がする。なのに何にも思い出せない。そのことを考えると途端に申し訳なくなり、私は気を紛らわせるために園内で一番目立つ大きなジェットコースターを指差す。

「あれでいいんじゃない?」

「え? 最初っからいっちゃう?」

「あ、ダメだった……?」

「いやいや、そんなことないよ。あのコースターの為にここに来たと言っても過言じゃないからね。あずさは大歓迎だよ!」

 梓はぴょんぴょんと楽しそうにその場で飛び回ると、私の手を引いて駆け足でジェットコースターの方へ向かった。今日が休日ということもあってか、ジェットコースターはもの凄い長蛇の列になっている。これは30分ぐらい待たされそうだな……。

 長い列を見ながらそんなことを思っていると、梓は私が記憶を失っていることを忘れているんじゃないかと思うほど普通に話しかけてきた。梓の話に愛想笑いと相槌を混ぜて返していると、私たちの順番が回って来た。

 ガチャンと安全バーを下ろすと、四角い箱はゆっくりと空高く昇り始め、私の手はビシャビシャになる。緊張と恐怖で頭が真っ白になりそうになり、無意識にぎゅっと目を瞑ってしまう。すると頭には、峻輝がジェットコースターに乗って顔を青ざめさせている場面が浮かんできた。

 その顔が何だかおかしくて、ストンと肩の力が抜け落ち、恐怖心は和らいだ。そして力強く瞑っていた目を開けると、目の前には真っ青な空が広がっていた。コースターのレールはもうない。つまりはてっぺんに着いたということ。下を見ると人がゴマ粒ぐらいの小ささで、まるで神にでもなったような気分を一瞬だけ味わった次の瞬間。

 体が浮いた。もの凄い強風が顔面にあたり、まともに目を開けられない。この心臓が宙に浮いてしまう感覚が、気持ち悪くも楽しい。隣に座っている梓は、子供みたいに無邪気に大きな叫び声をあげているので、私もそれに続くよう楽しそうに叫び声をあげる。

 ガガガガガともの凄い勢いでコースターは走り、何度も何度も縦に横に回転する。

 そして、体内時計では数秒しか経っていないはずなのに、気がつけばコースターのスピードは緩やかに落ちていき最初の場所へ戻っていた。

「いやー楽しかったね」

 満足げな顔でジェットコースターから降りる梓に、私は満面の笑みで。

「だね!」  

 と返す。すると梓は驚いたように目を見張ると、すぐに別の乗り物の方に指をさして。

「よーし。じゃあ次はあれに乗ろ!」

 またも私の手を引いて、楽しそうに別の乗り物の方へ駆けて行った。






















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