【九章】王女様との出会いは刺激的なものでした
競売所の出品物を盗んだ輩を追い掛け、俺とムニムは王城内部を足早に進んでいた。
ムニムが発動した追跡魔法によると、盗人はこの先にいるはずだ。
「おかしいのう、随分と静かじゃ……」
可愛らしい声色で先頭を行くのはムニムだ。城内に詳しくない俺を案内する傍ら、異変を察知していたらしい。既に日は跨いでいる。第一区画に居を構える貴族達を呼び寄せるには、妙な時間帯だと言えるだろう。故に、城内がざわついていたとしても、おかしくはない。だというのに、城内はやけに静かだった。
見回りの兵士の姿は、ある。しかしながら、特に何かが起こったような素振りは見せていない。急ぎ足で城内を進む俺達に対して驚く程度だ。
移動しつつも、貴族集会についてムニムに聞いてみた。その名の通り、ワルドナ国の貴族達が一同に会し親睦を深める場のようだ。ただ、それにしてもおかしい。こんな時間に招集をかけ、更には声を上げたのが王女様だというじゃないか。いったい何を考えているのやら。
と、眉を潜めていた時のことだ。
「……悲鳴じゃな。聞こえたか、お主」
「ああ。急いだ方がよさそうだ」
静かであったはずの城内に響くのは、何者かの悲鳴だ。追跡魔法が示す道の先から聞こえてくる。
近付けば近付くほど、その声は大きさを増していく。しかも一人ではない。大勢の悲鳴だ。俺達の行く先で、何かが起きているに違いない。
「ひいいいいっ! 助けてくれえええっ!!」
貴族集会が行われている場に、もう間もなく到着しようかといったところで、俺の耳へと届く悲鳴が、より大きくなった。巡らせていた思考を戻し、行く手に目を向けると、何者かが姿を現す。
恐怖に顔を引きつらせながらも、床を這いつくばり、何かから必死になって逃げようとしている。
「ロアーナ様がご乱心じゃあああっ!!」
恰幅のいい中年男性だ。煌びやかな服装から想像するに、恐らくは貴族集会に呼ばれたうちの一人なのだろう。だが、所々に赤黒い血のようなものがこびり付いていた。
「何があったのじゃ」
冷静に、ムニムが貴族であろう男に話し掛ける。しかしながら、それがいけなかった。
「ああっ、あああっ、よかった! ムニムが来たムニムが来たムニムが来たたたたた――」
「――ッ!?」
恐怖から引きつった笑みへと表情を変えた男は、両目がグルンと回転する。
と、次の瞬間、ムニムの顔を目掛けて、眼球が飛び出した。
「危ないッ」
「くっ、なんじゃこいつは……!?」
とっさにムニムの腕を掴み、俺の方へと引き寄せる。
飛び出した二つの目玉は大きさを変えると、羽を生やして俺達の頭上を旋回する。
「グギギギギッ!! ムニムが来たムニムが来た愛しのムニムが来たたたたた――」
目玉に口まで作り出した異形は、元来た道を飛んで逃げて行く。
本体……なのか否か不明だが、両目を失った男は床に倒れ、動かなくなっていた。
「い、今のはいったい、なんなんじゃ……」
「魔物だろうな。……だが、初めて見る種族だ」
人体に寄生し、時間を掛けて育つ型の魔物がいる。そいつ等は宿主となった人間を意のままに操ることが出来るという。しかしだ、今見た魔物は別種だろう。眼球が飛び出すまでの僅かな間ではあったが、この男は己の意思を持っているように思えたからな。
宿主に違和感を一切与えることなく、寄生した魔物が目玉を奪い取ったのだろうか……。
「ムニム、大丈夫か?」
「む、むうっ、勿論じゃ!」
助けを求めてきた男の目玉が飛び出し襲われるという体験をしたからか、さすがのムニムも動揺を隠すことができていない。だが、ここで悩んでいるわけにはいかない。
「この男に見覚えはあるか」
「エレオクル準男爵じゃ。第一区画に住んどるし、わしも何度か話したことがある」
「なるほど……つまり、貴族集会に足を運んだ奴らが狙われていることに間違いはなさそうだな」
手遅れになる前に急いだ方がよさそうだ。
再び、ムニムと共に王城内部を駆け始め、エレオクル準男爵の目玉を追い掛ける。すると、
「あははははははははっ」
幾つもの悲鳴の中に女性の笑い声が響いていた。
「ッ、……ロアーナ! お主、いったい何を……ッ」
貴族集会が行なわれる予定であった場所は、血の海と化していた。壁には血が飛び散り、足元には貴族だった者達の肉片が転がっている。
未だ死なずに生き残っている者達が悲鳴を上げ、助けを求めていた。
最も驚くべきは、真っ赤なドレスを着込んだ女性の態度だ。見るも無残な光景に頬を緩め、蕩けた表情を作り込んでいる女性は、ムニムからロアーナと呼ばれた。
その顔には見覚えがある。ムニムが言っていた通り、競売所で一度出会った女性で間違いない。
「あらあら、愛しのムニム! やあっと来てくれたのね? うふふ、嬉しいわぁ……」
真っ赤なドレスと表現したが、訂正しよう。
元々は別の色をしていたのだろう……。アレは、血で色が変わっている。
「わたくし、ムニムに会えて嬉しくて嬉しくて……ふふっ、食べてしまいたいわ」
「た、食べ……?」
「だからいいでしょう? お願いだからわたくしに食べられてちょうだい? あはははははっ!」
王女様は、右手をムニムへと向ける。
床に転がる肉塊がもぞもぞと動き出したかと思うと、無数の目玉が一斉に飛び掛かってきた。
「ムニムッ!!」
「ぬううっ、わかっとるわっ!!」
たとえ王女様が相手だとしても、魔物がいる限りは冷静に対処しなければならない。
ムニムは一瞬にして魔法陣を描き出し、半透明な壁を作り出した。
「ギッ」
「ギギャッ」
目玉型の魔物が、次々と壁にぶつかり床に落ちていく。ムニムの状況判断力は、さすがと言うべきか。俺一人ではまとめて相手にするのが厄介な敵だったからな。
「アルガ……。お主、絶対にロアーナを傷付けんようにするんじゃぞ」
「難しい注文だな」
目玉型の魔物が、王女様に寄生している可能性もある。
だとすれば、既に助かる見込みはない……が、やるしかないだろう。
「魔物だけを殺すぞ」
「うぬ」
目玉型の魔物が飛び交う状況下で、ニンマリと頬を緩める王女様が口を開く。
「ねえ、ムニムゥ。その壁がとても邪魔なのだけれど、解除してくれないかしらぁ?」
「……解除したら大人しくすると約束するかの」
「ううん、嫌よ。約束なんて絶対にしないわ。だって壁が無くなったら貴女を食べに行っちゃうから、大人しくなんてできないもの。だからお願い、いいわよねぇ、ムニムゥ?」
「じゃが断る!」
王女様の問いかけに、ムニムが突き放す。
断固拒否といった様子で、そこら中を飛び回る目玉型の魔物の突進を防ぎ続けている。
「ああん、そんなこと言わないでちょうだい。わたくしと貴女の仲でしょう? ほらぁ、いつものようにわたくしの胸に飛び込んで、たくさん甘えてほしいわぁ」
「うっ、うるさいのじゃ! なにをたわけたことをッ」
「そんなことしてたのか?」
「阿呆ッ! しとらんわ!! お主は競売所で何を見とったか!!」
「王女様がムニムに抱き着く姿だな」
「その通りじゃ! つまり逆じゃ逆ッ!!」
操られているからか否か不明だが、随分とムニムにご執心な王女様だ。……いや、ムニムの慌て方から察するに、まさか初めからこんな感じなのか?
競売所でもムニムの頬と自分の頬を合わせてみたり、胸元を弄っていたりしていたが……。
「……頑張れ、ムニム」
「何がじゃっ!!」
壁の魔法陣を生み出し永続中のムニムの頬は、赤く染まっている。だが、追求する暇は無さそうだ。
「ムニム、横から来るぞ」
「わっ、分かっとる!」
壁への激突を繰り返す目玉達は、学習したのだろう。
半透明の壁の横側から回り込み、左右後方から襲い掛かってくる。しかし、
「ふんっ、間抜けめ。わしの魔法を甘くみすぎじゃ!」
ぬうんっ! と声を上げ、ムニムは右手を天井へと向ける。すると再び、目玉達が壁に激突する。
ムニムの意思に従い、前面だけに作られていた壁が範囲を広げたのだ。その結果、壁は俺達を中心に四方を完璧に覆ってしまう。戦況を見極め、一度生み出した魔法の形を自在に変化させるとは、防御魔法の質の高さが窺える。しかしこれは……。
「……出られないな」
「贅沢言うでない!」
相変わらず目玉型の魔物達の猛攻は凄まじく、壁にぶつかっては落ち、再び飛び上がっては突撃を繰り返している。単調な動きではあるが、数が多すぎるのが問題だ。一々相手をする余裕はない。
壁ごと移動して王女様の許へと近づくのは困難と言えるだろう。魔法陣から生み出しているとはいえ、そのまま移動するのは大変だろうからな。
「出たくなったら範囲を解く! 今はとにかくロアーナを助ける方法を考えるのじゃ!」
そんなことを言われても、俺には魔法の心得が無い。魔法を納めた巻物や魔道具を利用することで擬似的に扱うことは可能だが、ムニムのように臨機応変に対処することは無理だ。
つまり、現状においては意味の無いことと言えるだろう。
武器を用いて魔物を倒すことはできても、ロアーナの体内に潜んでいるかもしれない魔物を取り除くことは不可能に等しい。そこら辺に関しては、ムニムの魔法でどうにかしてほしいものだが、さてそれが可能なのだろうか。
殺さずに救うというのは、非常に骨が折れる行為である。それは、イリールの件で経験済みだ。あの時は、イリール自身が魔物化し、救い出すことは不可能だと思ったものだ。幸いなことに、クーのおかげで魔核のありかが判明し、肉の壁を裂いて抉り出すことで事なきを得たわけだが……。
しかしながら、今此処にクーはいない。俺の隣にいるのはムニムだ。
多種多様な魔法を扱うことが出来るとはいえ、魔物と話すことはさすがに出来ないだろう。仮に話せたところで、目玉型の魔物が俺達の話を黙って素直に聞いてくれるはずもあるまい。
まあ、そもそもの話ではあるが、王女様は魔物化しているのか。
眼球が飛び出し、死に絶えた貴族の男……エレクオル準男爵とやらは、目玉型の魔物が飛び出す寸前まで、己の意思を持っているように見えた。もし、王女様も既に同様の事態に陥っているとすれば、もはや救い出すことは不可能だろう。目玉を抉り出しても助かるわけではないみたいだからな。
……いや、待てよ。
「ムニム、眠りを誘(いざな)う魔法は扱えるか」
「うぬあっ、誰に言うとる! それぐらいお茶の子さいさいに決まっとるわ!」
さすがムニムだ。魔導騎士団の団長の座は、だてじゃないな。
「なんじゃ、まさかロアーナを眠らせるつもりか」
「ああ。それが一番手っ取り早いと思ってな」
周囲を飛び回る目玉型の魔物達の動きを確認しつつも、ムニムと言葉を交わす。
幸いなことに、この魔物達はムニムの壁を破るほどの力を持ち合わせてはいないらしい。
しかし、無駄に時間を費やしてしまっては、王女様の目玉が魔物化する可能性も否定は出来ないだろう。だとすれば、手遅れになる前に先に手を打つしかない。
「王女様の目玉が魔物化した場合、さっきの貴族と同じように死ぬ可能性がある」
「……ふむ、なるほどの」
一考し、ムニムが頷く。今、俺が思いつく方法に、納得してくれたようだ。
「睡眠魔法の射程距離はどのぐらいだ」
「ここからでも可能じゃが……より深い眠りへと誘うには、近距離での発動が必要じゃ」
「よし、それなら王女様に近づくとするか」
「魔物がたくさんおるぞ。たとえお主でも全部倒して近づくのは……」
「問題ない」
全ての魔物を倒すのは面倒だが、王女様に近づくだけなら別段難しいことではないからな。
その為に必要なことは、ただ一つ。
「しがみつけ」
「……は? お主、今なんと言った?」
「どこでもいいから、俺の体にしがみついておけ。壁を解除すると同時に、一気に距離を詰める」
「……お主、いや、……すまぬ。ちょっと何を言うとるのか、わしには理解が……」
ああ、しまった。いつもの感覚で言ってしまったか。
イリールをおんぶしたりクーを抱えたまま戦ったりしていたからな。普通ではあり得ないことだ。
「悪かった。今のは忘れてくれ」
「い、いや! それが一番効率が良いと言うのならば、わしはお主に従おう!」
「ムニム……? 無理しなくてもいいぞ。俺の背についてきてくれればそれで……」
「だ、抱っこしてくれるんじゃろ?」
抱っこ、と口にして、ムニムは俺と目を合わせる。
「わし、異性に抱っこされたことないからのう。こんな時になんじゃが、少し興奮してきたぞ」
「……やっぱり断ってもいいか」
「ダメじゃ! 一度言ったことには責任を持たぬかっ!」
異性に……とは。もしや、王女様に抱っこされたりしたことがあるんじゃないだろうな。……睡眠魔法が上手くいったら、あとで聞いてみるか。どうせ答えてはくれないだろうが。
「よし、準備はいいか」
「うぬ! それでは……失礼するぞ」
壁の魔法を永続で発動したまま、ムニムは器用にも俺の胸元へと顔をくっつけ、両手を背に回した。
「さあ、あとはわしの足をお主が抱えてくれれば……」
「抱っこはしないぞ」
「なぬっ!?」
驚いた表情のムニムは、すぐに思考を巡らせる。
今し方話した内容を思い出したのか「うぬぬ……」と唸った。
「そうじゃったそうじゃった。抱っこじゃなかったのう……」
目玉型の魔物達が襲い掛かる中で、がしっとムニムがしがみつく。
クーよりは重いが、イリールよりは軽い。動く分には問題ないだろう。
「ええ……? ちょっとぉ……わたくしの前でいちゃつくなんて許さないわ。ムニムをムチャクチャにしていいのは、わたくしだけって決まっているもの。……だから貴方は今すぐわたくしの視界から消えちゃって……わかったかしらぁ?」
王女様が何か呟いている。その言葉が合図となっているのか、目玉型の魔物達の攻撃が勢いを増していく。ムニムと仲良さそうにしているのが気に食わなかったのだろうか。
だが、はいそうですかと従うつもりはない。
「さあて、魔法陣を解除するからの」
「頼む」
頷き、ムニムが魔法陣を消す。と同時に、俺達を守り続けた半透明の壁が消え去る。しかしすぐに新たな魔力の高ぶりを感じ取る。睡眠魔法を行使する為に、ムニムが魔法陣を生み出したのだ。しがみつきながらも、いとも容易く手の内に描き出し、放つことなく蓄えておくことが出来るとはな……。
「落ちるなよ」
ムニムに言い、地を蹴る。返事は無用だ。一直線に王女様との距離を詰め、駆けていく。
「ギギャッ」
直線上に目玉型の魔物の姿が重なった時だけ、腕をしならせ短剣を振るう。より細かな動きを求める為、ホルンの剣は背にお留守番だ。無駄な動作を無くし、最短の道を突き進む。と、ここで王女様は俺達が殺しに来たと勘違いしたようだ。
「あらあらぁ、わたくしを殺すおつもりかしら? そんなことをすれば国に居ることができなくなってしまうけど、ムニムはそれでもいいのかしらぁ?」
殺すつもりは毛頭ない。怪我一つ負わすことなく、眠ってもらうだけだ。
「ムニムッ」
「うぬぅっ!!」
直線上に駆けていくと見せかけ、目と鼻の先で身を捩らせる。特に反撃する素振りを見せなかった王女様の背へと回り込んでみせると、それまでしがみついていたムニムが右手を放し、手の平に描かれた魔法陣を解き放つ。すると、
「うっ……ああぁ、ムニ……ムゥ……」
睡眠魔法が功を奏したのだろう。足の力がなくなったのか、王女様がその場に倒れそうになる。
「……っとと! 危ないのう」
その体をムニムが優しく支え、安堵の笑みを浮かべた。
瞼を閉じた王女様は、暫くの間は夢の世界を堪能することになるだろう。だが、安堵するのはもう少し先の話だ。目玉型の魔物達は、今もなお、そこら中を飛び回っている。こいつらを全て片付けるのが俺の仕事だ。
「ムニム、もう一度壁を作って王女様の身を守っていてくれ」
「うぬ。……わしも戦うか?」
「心配ない」
王女様の身を案じながらの戦いであれば、手こずることもあっただろう。魔物の数は多く、面倒なことに飛行型だからな。しかし、誰かを気にする必要なく戦うことが出来るのであれば、話は別だ。
「すぐに片付ける」
目玉型の魔物達を一体残らず殺す為、短剣を腰に戻し、ホルンの剣を掴む。
「さあ、目玉掃除の始まりだ」
標的が何体いようが関係ない。全て殺すだけだ。
「……一体、もう一体……っと」
剣を振るい、小さな目玉を真っ二つに斬り捨てては、室内を駆け回る。止まらずに駆け続けるのは、目玉型の魔物達の突撃から身を守る為だ。
「的が小さすぎるな……」
ホルンの剣には、幾つかの仕掛けが施されている。魔王討伐の旅を続けていた時、彼が扱うこの剣は、形を持たない風であるかのように、魔物達を斬り刻んでいた。
魔力を動力源にしているわけではないと言っていたので、俺にも扱うことが出来るかもしれない。
実際に、風の刃を生み出したり、突風を巻き起こす程度のことは実現出来たからな。だが、残念ながら俺はその仕掛けについて何一つ聞くことなく、追われる身となってしまった。
ホルンのように、自由自在に風を操ることが可能となれば、たった一振りで複数の魔物を返り討ちにすることも夢ではないのだろうが、今の俺には不可能だ。故に、一体ずつ確実に仕留めていくしか道はない。しかしながら、目玉型と称するだけのことはあり、見た目はとても小さく、オマケに空を飛びまわっている。腰のベルトに巻き付けた筒状の皮入れの中には、投擲用の細長い鉄の棒があるが、これでは焼け石に水だ。
では、どうすればいいのか。
「……手っ取り早く済ませるか」
幸いなことに、こいつ等の耐久力は低い。襲い掛かる目玉を手の平で掴み取り、グッと力を込めてみると、呆気無く潰れた。となると、ここは呪文書の出番か。
「ムニムは……大丈夫だな」
彼女達の位置を確認する。既に半透明の壁を生み出し、王女様と共に安全圏へと入っている。
これで何も問題はない。……いや、あるよな。王城内部で広範囲型の攻撃魔法をぶっ放すのは、利口な手段とは言えないだろう。だが、今のように一体ずつ律儀に相手をしていては時間が掛かる。
……ああ、そういえば丁度いい巻物があったか。
一旦、ムニム達の傍へと戻る。半透明な壁越しに声を掛けることにした。
「ムニム、暫く目を瞑っておけ」
「むっ、うむっ! 承知したのだ!」
何故、と。ムニムは何も聞き返すことなく、目を瞑る。
全ての行為に対して何らかの理由があることを理解しているのだろう。ムニムは頭がいい。
だから、俺は迷いなく扱うことができる。
「――瞼が無いことを悔やむがいい」
皮袋の中から小さな巻物――魔法を納めた呪文書を掴み取り、封を解く。
と同時に、俺は目を閉じた。
「ギッ!?」
「ギイイィッ!!」
一瞬にして、瞼の裏が照らされる。この呪文書には、眼球を焼き尽くしてしまうほどの光が封じ込められていた。光属性の魔法であり、光の影響を受けた者の魔力を弱める効果を持ち合わせている。
目蓋を持たない目玉型の魔物達には打って付けの魔法と言えるだろう。
「……効果覿面だな」
瞼の裏が元通りになり、俺は恐る恐る目を開ける。
室内を飛び回っていたはずの目玉型の魔物達は、バタバタと床に落ち、魔力を失くしていた。
「もういいぞ、ムニム」
「ッ、……お主、手に持っとるのは呪文書か?」
「ああ。これを使った方が早いと思ってな」
魔法を扱うことが出来ない者でも、これがあれば可能となる。魔道具というものは本当に便利だな。
「倒し損ねたのは……おらんか?」
「魔力を弱めることができるからな、問題無いはずだ」
ピクピク動いている個体もいるが、何れは魔力が底を尽き死に絶える。目玉型の魔物達の魔力量が低くて助かった。
「……外が賑やかになってきたな」
「うぬ。これほどの騒ぎじゃからのう。城の者達が駆けつけてきたのじゃろう」
ムニムと言葉を交わしていると、室内の扉が開かれ、兵士達が次々と姿を現す。と同時に、血にまみれた貴族や、床に落ちた目玉型の魔物達を見て、唖然とする。
「ロアーナを連れていくから、お主も同行してくれるかの」
「同行って……どこに行くつもりだ」
「国王の許じゃ」
なるほどな……。確かに、報告を兼ねてワルドナ国の王様の許へ向かうのは理に適っている。王女様の身の安全を保障する為にも、早く移動した方がいいだろう。
ムニムは魔法陣を解いていた。半透明な壁は形を失くし、ムニムから王女様の身柄を託される。王城の兵士達が見ているが、抱きかかえていいものだろうか。あとで闇討ちされたりしないよな……。
※
王の間。下々の者では足を踏み入れることすらできない場所に、俺はいた。
少しばかし居心地の悪さを感じているが、近くにムニムがいるから、多少軽減されているか。
玉座を前に、俺は片膝をついていた。面を上げる許可はいただいたので、目の前で起きていることを全て映し込むことが出来る。
前方にて、口を動かし経緯を話しているのがムニムだ。
そして、その話を聞きながらも王女様の頬に己の頬をくっつけ、顔を歪めているのが……。
「おおおおう……。我が娘よ……まさかお前が魔物に憑りつかれたかもしれないだなんて……うおおおおうぅ……っ」
ワルドナ国の王、らしい。先ほどから唸っては泣いて唸っては泣いてを繰り返している……。
顔を歪める前までは、少なくとも端正な顔付きであったはずのワルドナ王は、二十代後半と言ってもおかしくはないほど若い見た目をしている。
だが、王女様は十代半ば辺りだと思うので、さて実年齢は如何ほどか。
「……故に、ロアーナを眠らせております」
説明を終えたのか、ムニムが軽く一礼する。
苦しげな表情を浮かべながらも、ワルドナ王はムニムの話を耳に通していたらしい。御付の者に王女様を任せ、奥の部屋へと連れて行くのを見届けると、鼻をすすり涙を拭き、咳払いを一つする。
「彼が、我が娘を救ってくれたのだな……」
先ほどまでの様子が嘘だったのように、まともな表情で呟くワルドナ王は、視線を俺へと向ける。
「アルガ殿。私から貴方に、礼を言わせてほしい」
「いえ、実際に睡眠魔法を扱ったのはムニム……総隊長です。私は助言をしたにすぎません。それに、まだ解決したわけではありませんので……」
「貴方の機転が無ければ、娘は今頃、魔物化していたかもしれない。それに加え、魔物退治もやってのけたのだろう? ならば拒んでくれるな」
歩み寄り、俺の傍へと近づくと、ワルドナ王が片膝をつく。……俺と同じ体勢に。
「心より感謝する」
「……あ、有り難きお言葉です」
なんだかむず痒い。この気持ちは一体何なのだろうか。
魔王討伐を果たし、王都へと凱旋した時でさえ、俺はロザ王から一言も礼を貰っていない。それが今、隣の大陸でこんなことになるとはな……。俺のような身元も定かではない人間に対し、首を垂れるだなんて……これが一国の王なのかと疑いたくもなってしまう。距離感が近すぎるぞ。
だが、悪い気分ではない。むしろ心地いい。
真っ直ぐに感謝されるというのは、こんなにも気持ちがいいものなのか。
「ところで、ムニムから聞いた話なのだが……アルガ殿は、我が国の競売所で出品を行なう為に訪ねたらしいな。勇者殿と肩を並べ、エザの町の魔人を討伐したイリール殿に頼まれたとか……」
但し、夢心地は長く続かない。ワルドナ王の問い掛けに、俺は心臓が飛び跳ねた。
「たいしたものではございません」
「それは勇者を侮辱する言葉になるが、構わぬか」
「……失礼しました」
ワルドナ王は、俺が持ち込んだものが聖銀の鎧兜であることを知っている。今し方、ムニムが説明していたのを、この耳で聞いていたはずだ。それなのに、今の返しは間抜けとしか言いようがないな。
「あれは実に良い鎧兜じゃったのう」
呑気に呟くのはムニムだ。助けてくれ。
「しかし妙だな……。勇者殿は何故、己の装備を手放すことを決断したのだと思う、アルガ殿?」
「き、……金欠だと、言っていたような気が……」
「それは無いはずだ。彼はロザより爵位を与えられている。己が領地や、魔王討伐により手にしたものは計り知れないだろう。たとえ今現在、壊滅状態にあるとしても……」
普通に考えれば誰だって嘘だと気付くはずだ。あの時は、ミールの嘘にルノが乗っかり、その場の勢いでムニムをはぐらかすことが出来た。しかし今、訊ねているのは一国の王だ。
「……本当は、アルガ殿が勇者なのではないかな?」
「ッ」
まさか、……いや、こんなあっさりと見抜かれるものなのか?
俺を見るワルドナ王の瞳は、嘘か真か見分ける術でも持ち合わせているかのように思える。
「ななっ、なんじゃと!? アルガが勇者とは、真か!?」
「違う、俺は勇者じゃない」
目を見開き割って入るムニムに、返事をする。【勇者】の紋章を持っているのはジリュウだからな。
故に、証明する他にないだろう。
「これを見てください」
胸元に刻まれた紋章を示す。すると、ワルドナ王は一考し、ある答えを導き出したらしい。それは、
「なるほど……。つまり、アルガ殿が聖銀の騎士だったのだな?」
「――ッ!!」
いやいや、勘が鋭すぎるから。この人は一体何者なんだ? ……ああ、この国の王様だ。
王様と言うのは、クーと似たような能力を……真実を知る術を授かっているとでもいうのか?
「お、お主が……あの、勇者のお供の……聖銀の騎士じゃったのか……!?」
「……うう」
否定は出来ない。これから先は、嘘を重ねても分が悪くなるだけだろうからな。
「……何故、私が聖銀の騎士だとお思いになられたのですか」
「聖銀の鎧兜を所持していることに加え、イリール殿とは知り合いだと言うではないか。そして極めつけが、その強さだ。我が娘を助けるだけでなく、競売所でも魔物をいとも容易く退け、エザの町ではスライムの群れをあっさりと追い返したのだろう?」
強さだけでは確信には至らなかったに違いない。
幾つもの欠片が繋がり合うことで、聖銀の騎士の姿が思い浮かんだということか。
「もう一度聞こう。アルガ殿が聖銀の騎士で間違いないな?」
「……その通りです」
もはや真実を口にするほかに手はない。嘘は見抜かれるものだと理解した。
だとすれば、コルンの町を捨てる覚悟で抵抗するか、それとも大人しく捕まるか。
「国王様、……私を捕まえますか」
「捕まえる? はて、何故かな?」
「……私は、賞金首です。エルデール大陸では、勇者に成り代わろうとした罪により、追われる身となっております」
「ああ、そのことか。それならば気にする必要はない」
ワルドナ王は、喉を鳴らして笑う。かと思えば、口元を緩め、手を差し伸べてきた。
「件の魔人ルオーガは、元はと言えば我が国の管理体制が杜撰であったが故に起きたことだ。その尻拭いをしたのは誰かな」
「……私、ですかね」
「その通りだ。つまり我が国は、アルガ殿に借りがあるということになるな」
少し離れた位置から、ムニムが俺達の様子を窺う。他には誰もいない。御付きの者達は、王女様を連れて王の間から出て行ったからな。だからか、ここでの出来事が外に漏れることはないだろう。
「故に、私はここに誓おう。我がワルドナ国は、聖銀の騎士――アルガ殿を、罪人ではなく民の一員として歓迎することをね」
「民の一員として……」
国のお墨付きをもらえたのか?
コルンの町に住み続けることも全く問題なくなる……ということか?
「不服かな?」
「い、いえっ! そんなことはありません! しかし、本当に……よろしいのですか? ロザ王国はおろか、エルデールとの関係が……」
「隣はそれどころではないだろう?」
ククッ、とワルドナ王が笑う。魔王復活による大打撃は、各大陸へと伝わっている。意外とあくどいところもあるな、この国王様は……。
差し伸べられた手を取り、立ち上がる。
目線を同じ高さに合わせると、ワルドナ王は、握る手に少しだけ力を込めて告げる。
「ようこそ、新しき民よ」
聖銀の騎士ではなく、かといって罪人としてでもない。
俺という存在を認めてもらえたことに、正直驚いている。しかもその相手は一国の王だ。
俺自身を一人の人間として認め、接してもらうこと。言葉にすると単純で簡単なもののように思えるが、ロザ王国では、どんなに欲しても手に入れることが出来なかった。ジリュウとロザ王が結託していたのだから当然か。だが、それが今、こんなにあっさりと手に入ることになろうとはな。
「しかし困ったことになった……」
ここで再び、ワルドナ王が口を開く。悩みの種は、勿論、王女様のことだ。
「我が娘を救い出す方法はないものか……」
「【調合師】を手配いたしますか? 魔力の流れを瞳に映す薬がございます」
薬を使わずとも、それを可能とする魔法は存在するが、今の言い方から察するに、魔導騎士団の中に扱える者はいないのだろう。万能魔術師のムニムといえども、さすがにそれは出来ないようだ。
「いや、そうしたいのは山々なのだが……調合師達は別件で出払っているのでな。王都へと戻るのは、当分先のことだ」
「では……」
良案が浮かばないのだろう。ワルドナ王とムニムは、難しい顔をしている。【調合師】の紋章を持つ者がいれば、ルオーガの時と同じように魔力の流れを読むことが出来るかもしれない。だが、二人の会話を聞く限りでは、今現在、王都に調合師は不在ということになる。
つまり、王女様の体内に魔物が潜んでいるか否か見分ける術を持たないのだろう。
転移砂を用いれば、一度コルンの町へと戻ることが可能だ。そこで療養中のイリールを連れて再び戻れば、解決することも不可能ではない。ただ、それよりももっと簡単な方法がある。
「国王様、一つ提案がございます」
俺の台詞に、ワルドナ王とムニムが視線をぶつける。王はゆっくりと頷き、続きを促した。
「連れの子が、体内に魔物が潜むか否か見極める術を持っております」
「なんとっ! それは真か、アルガ!?」
「はい。魔物の有無を見極め、仮に魔物が潜んでいることが発覚したとしても、その子の協力があれば、救い出す方法が見つかるかもしれません」
連れの子とは、クーのことだ。クーの力を借りることで、王女様の体内に潜む魔物の存在を知ることができる。それが魔核のようなものである場合、正確な位置を特定し、取り除けばいいだけだ。
イリールが、ルオーガの魔核の欠片によって操られていた時も、クーのおかげで救い出すことが出来たからな。希望はあるはずだ。
「頼む、アルガよ。我が娘を救ってくれ」
「お、お止めください、国王様……」
一国の王が、床に両膝をつく。俺のような者にそのような姿を見せてしまうほど、王女様のことを大切に思っているのだろう。その瞳からは、王女様をこんな目に遭わせた者に対する怒りの感情も見えている。これは絶対に救い出さなければならないな。
「全力を尽くします」
実際に何かをするのはクーだ。上手くいったら、お礼もかねて美味しいものでも食べに行くとするか。勿論、ルノも一緒に。
返事をすると、ワルドナ王はゆっくりと立ち上がる。視線を移し、ムニムへと向き直った。
「ムニムよ、私は我が娘の許へと戻る」
「はっ!」
その言葉を最後に、ワルドナ王は奥の部屋へと入っていく。残されたのは、俺とムニムの二人だけ。
扉を閉め、城内廊下へと出ると、ムニムが息を吐いた。
「迷子にはならんか? わしの家まではそこそこあるからのう」
「幸いなことに、方向音痴ではないものでな。安心してくれ」
「くくっ、ならばよいな」
重苦しい空気から解放され、ようやく笑みがこぼれた。
「ムニムって、普通の話し方もできたんだな」
「王の御前じゃからな。まあ、気が抜ければこの通りじゃ」
常に気を張って生きるのは大変だからな。普通に暮らす分には、そのままでいいだろう。
「さて、わしらは一旦ここで解散じゃな」
「ムニムはここに残るのか」
「うぬ。そろそろ部下達が戻ってくる頃合いじゃ。一方通行の伝達魔法では情報の共有が難しいのでな。この機を利用せん手はなかろう。それに何より、後始末があるからの」
俺も自らの足で第三区画に戻り、異変が無いかこの目で確かめておくか。
現状でいえば、ムニムは貴族達の件で手一杯だろう。王都に住む大勢の貴族が目玉型の魔物の手によって死に至ったわけだからな。これからが大変だ。
「すぐに戻ってくる。それまでの間、王様と王女様のことを頼んだぞ」
「当然じゃ。道草は御法度じゃからな」
「勿論だ」
互いに手を伸ばし、握手を交わす。ムニムは王の間へと戻り、俺は城内を駆け始める。
※
「なんだこれは……」
第二区画から第三区画へと入ると、途端に騒がしくなってきた。まだ朝方だというのに、人々が街中に溢れかえっているじゃないか。
「……ああ、そういうことか」
人々の視線の先や、足が向かう方角、口々に呟く内容で、この状況を作った犯人を特定することが出来た。それは、人ではなくて競売所だ。察するに、国民達の耳にも入ったということか。よく見れば、魔導騎士団の面々の姿も数人ばかし確認することが出来る。怪我人の手当てと、第三区画内の見回りを終えたのだろうが、国民達への説明に追われているのだろう。彼等がムニムの許に戻るのが先か、それとも俺がクー達を連れていくのが先か。
「あっ、アルガ様! アルガ様ッ!!」
少し離れた場所から、聞き慣れた声が届く。視線を向けると、ルノが両手を振っていた。
俺と目が合うと、ルノは急いで駆け寄ってくる。
「アルガ様ッ、御無事で何よりです! ……それであのっ、この騒ぎは一体なんなのでしょうか!?」
「魔物が出たんだ」
「魔物が!?」
騒ぎが起きたことは知っていても、まさか魔物が出たとは思わなかったのだろう。
ルノを連れて、ムニムの屋敷の前へと戻る。ゴミだらけの玄関には、クーとミールの姿もあった。
「アルガー、おなかへったー。あとねむいー」
「今って六時ぐらいですかねぇ? あたしもまだ眠いんですけどぉ」
「眠たいところ悪いが、みんな王城まで同行してくれ」
「ふえぇ~!?」
「うんー」
寝ぼけ眼のクーは、よく分かっていないのか、眠たげな顔つきのまま、頷いた。
それとは対照的に、何故あたしがと眉を寄せるミール。
口うるさいのが玉に瑕だが、腕は確かだ。仮に、新手の魔物が出てきたとしても、魔法を扱うことの出来るミールがいれば、戦い易くなる。だからまずは、ルノ達に何が起こったのかを伝えよう。
※
「行くー。おしろのごはんたべるー」
「あたし行く意味ありますぅ? どうせ役に立てませんし~、ゴミ屋敷でゴロゴロ眠りたいですう」
クーは乗り気だが、ミールは拒否する。しかし、一見するとやる気がないように思えるが、ミールの表情を見れば嘘だと分かる。こいつは、己の力が必要と知るや否や、ここぞとばかりに態度を変えてくる。俺が頼み込むのを待っているのだ。その証拠に、チラチラと横目で俺の姿を確認している。
勿論、期待に応えるつもりはない。
「それなら別に構わない。寝てていいぞ」
「えっ? ちょっ、いやいやあたしの力が必要なんですよねぇ?」
「いると助かることは確かだが、いないならいないでどうとでもなるだろう。だからミール、お前は気にせず戻ってくれ。眠いんだろう?」
「も……もうぅ! いいですよいいですよ、分かりましたよぉ~、ホントはあたしに頼りたくて仕方ないくせにぃ~! せっかくですから手伝ってあげますぅ」
本当は土下座が見たかったけどぉ、と呟いているが、聞かなかったことにしよう。
とにかく、これでクーとミールがついてくることになった。あとは……。
「あの……わたしは、ここで待っていますね」
ルノが、小さな声で言う。少し残念そうな表情で、視線を下げているではないか。
「わたしが行っても、アルガ様のお荷物になってしまいますし……」
ルノが持つ紋章は【受付師】だ。これは戦闘職ではない。それに加えて、ルノは戦いには慣れていない。ついていっても足手まといになると思ったのだろう。だが、それは違う。
「目玉型の魔物は全て排除したから、後は王女様の具合を確かめるだけだ」
兵士達も動き始めている。王城内における危険は、王女様の体内に潜むかも知れない魔物のみ、ということだ。仮に、予期せぬ事態に陥ったとしても、俺が守ってみせる。
「それに、ルノが傍にいてくれると心強いというか……やる気が出るからな。だから、一緒に来てくれると助かる」
「ほ、本当に……よろしいのでしょうか」
「ああ。勿論だ」
「あたしも助けてやりますよぉ~。その代わり、今月分のお給金は二倍に……あっ、ちょっとアルガさん~、服引っ張らないでくださいよぉ~! 伸びちゃいますってばぁ~!」
口を挟むミールを引っぺがす。改めて、俺はルノの顔を見る。すると、
「嬉しいです……っ」
暗い表情はどこかに消え去り、代わりに柔らかな笑みを浮かべていた。
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