【十三章】二度目の死を与えることにした
朝が来た。
寝惚け眼のクーの手を引いて一階に下りると、ルノが朝食を用意していた。毎朝有り難いものだ。
「アルガ様、クーちゃん。おはようございます」
「おはよう、ルノ」
「おあよー」
「朝食はこちらに置いておきますので、好きな時に食べてくださいね」
冒険者組合の受付嬢の朝は早い。今日も普段通り、受付場で冒険者達の相手をするのだろう。更には組合長としての仕事も増えている。疲れが溜まっていないか心配だ。
「もーいくの?」
「うん。組合で待ってるからね、クーちゃん」
「はーい」
クーの頭を撫で、ルノが頭を下げる。
テーブルの上に用意された料理は、全部で三人分だ。俺とクー、そして新たな泊まり客の分である。
「それでは、行って参りますね」
「頑張ってくれ」
「はい!」
ルノが宿屋の外へと出て行く。その後ろ姿を見送り、クーを椅子に座らせた。
「食べていーい?」
「ああ。俺はイリールを呼んでくる」
「うんー」
箸を掴み、クーがご飯を食べ始めた。
イリールは寝ているのだろうか。
「……おい、イリール? そろそろ起きろ」
階段を上り、部屋の扉を叩く。すると、中から声が聞こえてきた。
「む。入っていいぞ」
既に起きていたか。
出掛ける準備でもしていたのかもしれない。
「失礼するぞ、……って」
扉を開けると、下着姿のイリールの姿が目に飛び込んできた。
「待たせてすまない。すぐに装備を整える」
「いや、……お、おお」
踵を返し、扉を閉め直す。
着替え中なら着替え中と言えよ! 羞恥心が無いのかっ!?
「朝食を済ませてから行くから、着替えたら一階に来てくれ」
「もう着替えた」
扉が開き、革装備を身に付けたイリールが廊下へと出てくる。
見られたことを何とも思っていないのか、表情に変化は見られない。
「どうした、きみ? 一階に行くのではないのか?」
「……ああ。そうだったな」
何も言われなかったことを有り難いと思っておこう。
イリールを連れて廊下を歩き、食堂へと顔を出す。先に手を付け始めたクーは、美味しそうに食べていた。俺達も食べるとするか。
「む。豪勢な食事だ……。きみは毎朝こんなものを食べているのか」
「少し前は木の実尽くしだったけどな」
共に腰掛け、三人で食卓を囲む。
「む。む。むっ。美味いぞこれは……」
ルノは料理が上手だ。こうして食事を作り、格安で宿部屋を提供している。それに加えて、器量の良さと、あの笑顔は反則だ。今後とも良い付き合いを続けていきたものだ。
「イリール、出発する前に一つ聞いてもいいか」
「むっ。何でも聞くといい。因みに私の紋章は……」
「それはもう聞いた。俺が聞きたいのは魔人のことだ」
イリールが【調合師】の紋章持ちであることは聞いた。実戦で役立つことは滅多にないだろうが、回復剤や解毒剤を作ることが可能なので、実は貴重な紋章であるとも言える。ただ、イリールの場合は熟練度が低く、無星相当だ。どの程度のものを調合できるのか定かではない。
「エザの町を襲った魔人について、イリールが知る限りの情報を教えてもらいたい」
「む」
ぶっつけ本番で戦うには、相手の危険度が高すぎる。
魔人の中でも弱い方に分類されるものは、魔物の上位種にも劣るだろう。その場合、俺一人でも倒すことが可能なはずだ。だが、強いものが対象とあらば、手に負えないこともある。
俺の質問に、イリールは箸を止めた。
「……ルオーガ。それが奴の名だ」
魔人ルオーガ。それが、ホルンとイリールの故郷を襲い、壊滅させた魔人の名か。
「見た目はオーガと瓜二つだが、人語を巧みに操り、人の姿に化けることができる」
「……なるほど、一般的なオーガよりも知性が高いってことか」
オーガの上位種が突然変異か進化を遂げ、魔人へと姿を変えたか。
オーガは、スライムやゴブリン、オークよりも驚異的な能力を持つ魔物だ。ゴツゴツとした黒い体に、濁った血のような色の目玉が印象的で、鋭い牙や角が人々に恐怖を与える。何よりも最も恐るべきは、その変身能力にある。生き物や道具など、様々なものに姿形を変え、人間の目を欺き、油断しているところを仕留めるのだ。エルデール大陸でも、一時期オーガが大量発生する地帯があり、そこら周辺は見る影も無くなっていた。
「配下の魔物だが、私が見た限りでは、全てオーガだったはずだ」
この世に生まれた時から魔人として存在するものもいれば、ただの魔物が力を蓄え、経験を重ね、魔人となることが稀にある。今回の場合は、後者に当て嵌まるか。
「初めは誰も気付かなかった。奴が奴であることに……」
一般的なオーガは、変身能力によって人の姿に化けることはできても、言葉を話すことはできないので、人か否かすぐに見分けることができる。だが、ルオーガの場合は人語を話すことができるらしい。人に化け、エザの町の内部へと潜り込み、中から町を壊滅させることも、ルオーガであれば容易だったはずだ。
「気付いた時には、手遅れだ。町はオーガの群れに囲まれていた」
腑に落ちない点が、一つある。
何故、ルオーガはエザの町を標的にしたのか。
国を相手に暴れ回るわけでもなく、わざわざ遠くへと場を移し、エザの町を壊滅へと追いやった。
もしや、エザの町にホルンが住んでいるとでも思ったか?
「今は、近くには誰も人がいないってことでいいんだな?」
「む。元々住んでいた者も、国の兵士ですら近づこうとはしない」
自嘲気味に笑い、イリールは視線を落とす。
エザの町を占拠した後、ルオーガは留まり続けている。領土を拡大する気もないらしい。過去に己を殺した男が戻ってくることを見越した上での行動と見るべきか。
しかしそれは、好都合でもある。ルオーガが町を占拠したことで、人がいない状況は、周りを気にせず思う存分戦うのが可能ということだからな。
「食べたか」
三人揃って、ルノが用意してくれた朝食を平らげる。
これで腹は満たした。後は魔人討伐に向かうだけだ。
「出来る限り早く終わらせて戻ってくるか」
「エザの町へは十日ほど掛かるぞ」
「問題無い。瞬き一つで着くことが可能だ」
腰に括り付けた皮袋の中から、小瓶を指で摘まみ、テーブル上に置く。
クーとイリールの視線が、小瓶へと注がれる。
「なんだこれは」
「転移砂だ」
「む。別の場所に一瞬で移動できる魔道具か?」
「ああ。これを使えばエザの町まで一っ跳びだ」
小瓶の中には、光り輝く砂が詰められている。転移系の魔法を扱うことが可能な冒険者が、魔力を砂に付与したものである。この砂を体に振り撒くことで、過去に自分が一度でも行ったことのある場所に移動することができる。
但し、あまり長い距離を繋ぐことはできず、更には建物内で使用することもできない。障害物があると、強制的に転移中断となるのだ。故に、転移砂を扱う時は、外が基本となる。
非常に高価な物だが、魔人討伐の為ならば仕方がない。
「外に出るぞ」
イリールを連れて、宿屋の外へと出る。すると、クーもついてきた。
「エザの町から少し離れた場所を思い浮かべるんだ。その場所に転移することができる」
「む。任せろ」
転移砂の唯一の欠点は、転移酔いと呼ばれる現象だ。
使用後、すぐに転移が開始されるが、転移先に到着後、体感で六十秒ほどの酔いが発生し、平衡感覚が非常に取り辛くなる。この隙を突かれては堪らないからな。
ついでに、イリールを戦闘に参加させるつもりもない。町から離れた場所に隠れていてもらう予定だ。正直言うと、俺一人の方が全力で戦えるからな。
「クー、お留守番を頼む」
「うんー。木の実とりいってるっていうねー」
ニコッと笑い、クーが頷く。いい子だ。
コルンの町の奴らに気付かれることもないだろう。
「手を握れ」
「む」
「ほら、行くぞ」
小瓶の蓋を取る。イリールが手を取り、しっかりと握ったことを確認すると、頭の上で小瓶を逆さにする。サラサラと転移砂が落ち、俺達の体を包み込んでいく。
「むっ。凄いぞ! これでエザに転移できるのだなッ」
「おい、動くなって」
「む? 私は子供ではない。言われなくとも……」
転移砂が魔力を発する。
やがて、俺達はその場から姿を失くす。クーを残して……。
※
「ぐっ、がふっ」
いてっ、て、頭が途轍もなく痛い……。久し振りの転移酔いだ。
イリールは大丈夫だろうか……。
「おえっ、おぷっ、……ッ」
吐きそうになっていた。だが、イリールの介抱をする余裕はないらしい。
「驚いたなあ。急に餌が現れたぞ?」
此処はエザの町の中心部だろうか。
少し高めの声を響かせ、転移酔いに苦しむ俺とイリールの姿を瞳に移す者がいた。
そいつは、何処にでもいる少年のような姿をしているが、一目見ただけで理解することができる。
「お、……くっ。お前が……ルオーガか」
「おやあ? 僕の名を知っているのかい? これはこれは更に驚いてしまったなあ」
目の前に佇むのは、オーガを束ねる魔人……ルオーガだ。
イリールめ、エザの町から少し離れた場所を思い浮かべろと言ったのに……ッ。
「でも残念だなあ、僕を殺した奴じゃないみたいだよ」
「うっ、……っぷ。お目当てのホルンじゃなくて、悪かったな」
「おや? きみは彼のことを知っているのかい?」
「……ああ、よく知っているさ。元仲間だったからな」
俺とイリール、魔人ルオーガを取り囲むように、数え切れないほどのオーガの姿があった。
転移酔いが覚めるまで、もう暫く掛かるか……。
「それは丁度いいねえ。きみを半殺しにして、彼を呼ぶ撒き餌にしようかなあ」
首を回し、無邪気に微笑む。
ルオーガが片手を上げると、同時にオーガ達が得物を手に構え、戦闘態勢へと入った。
「四肢を斬り落とせ。でも殺したらダメだからねえ」
その台詞を合図に、オーガ達が一斉に襲い掛かってきた。俺自身も転移酔いが抜けない状態だというのに、苦悶中のイリールを守りながら戦うのは難易度が高すぎるぞ。
足元には、無数の骨が転がっている。これはエザの町の住民達のものだろう。食人鬼として恐れられるオーガ達が食い散らかしたのか。
突然の襲撃に、人々は恐怖したはずだ。逃げのびた者が少なからずいるのは聞いているが、ほとんどの住民がこの地で死を迎えたに違いない。
しかしだ、辺りを観察している暇はない。
「うっ、……くそったれ!」
錆びた斧を手に、一体のオーガが距離を詰めてきた。標的はイリールだ。
ルオーガの命令によると、四肢を斬り落とすことはあっても、俺を仕留めるつもりはないらしい。
その一方で、イリールには用がないのだろう。躊躇なく斧を振り下ろし、イリールの首を刎ねる。
「ギッ、グガガッ」
だが、勿論そんなことはさせない。
ホルンの剣を手に、オーガの腕を瞬時に斬り落とした。
ドバっと血が噴き出し、イリールの背に降り掛かる。
「うっ、うえっ、治まり掛けていたのに……うぐうっ」
「我慢しろ!」
「ううううっ」
ダメだこいつ、全く役に立たない……ッ。
寸でのところで吐くのは耐えているみたいだが、せめて自分の身ぐらい自分で守ってほしい。
「グウウウッ!」
「うるさいな!」
手首から先を失ったオーガが、もう片方の手で斧を拾い上げ、俺へと標的を改める。
しかし遅い。斧を拾う隙を突いて背に回り込み、躊躇いなく貫いた。
「へええ、結構やるんだねえ? さすがは彼の仲間といったところかなあ」
くつくつと笑うのは、魔人ルオーガだ。
配下の魔物が息絶える姿を目の当たりにしても、全く動じる様子がない。魔人であるが故に余裕か。
一方で、俺は余裕を見せることができない。転移酔いが続く中で、イリールを守りながら戦わなければならない。自由に動くことができず、オーガの出方を窺う他に手がない。
「ほら、早く四肢を頂戴よ。彼が暇そうだよお?」
無数のオーガが距離を詰めてくる。オーガ同士で肩がぶつかり足を踏み付けあってもお構いなしだ。
我先に獲物を手に入れるぞと言わんばかりの興奮状態だ。
背を預ける壁もない。ゲロ吐きイリールを守りつつ戦う必要がある。今はとにかく転移酔いを醒ます為の時間稼ぎが必要だ。
「くっ」
だとすれば、アレを使う他にない。
オーガの得物が届く前に、皮袋の中から小さな巻物を掴み取る。魔力を付与し納めた呪文書だ。
「全員まとめて蹴散らす!!」
「ううぅ……ゴヘッ! 急に何をうっ」
イリールの頭を思い切り地面へと押し、その上に覆い被さり体勢を低くする。
と同時に、呪文書の紐を解き、空に向け開いた。
「――おおっとっ」
次の瞬間、目には見えない刃が前後左右へと飛んでいく。
空気を操り鋭利な刃を生み出す風属性魔法だ。
「危ない危ない、そんなものを持っていたとはねえ」
呪文書から放たれた風の刃は、俺とイリールを取り囲んだオーガの胴体を真っ二つにした。
けれども、その威力は、距離があればあるほど弱まっていく。離れた場所で己の番が来るのを待っていた奴らには何の影響もない。ルオーガ自身は近い場所に陣取っていたが、瞬時に見抜いて退避したらしい。傷一つ負っていないのが残念だ。
「僕の可愛い仲間達をいっぱい殺してくれたねえ? この罪は重いよお」
「悪いが、俺は気にしないものでな」
ようやくか、転移酔いが治まってきた。
これで本来の動きを披露することができるが、全力で戦う為にはイリールを安全な場所へと連れて行くべきだ。……いや、その手間が惜しいな。……いっその事、連れたまま戦うか?
「イリール、立てるか」
「むっ、う、ううっ、……げっ、うぅ、もん……だ、い、……ないぞっ」
「問題ありすぎだ」
肩を貸し、立ち上がる。
「首に手を回せ。振り落とされるなよ」
「な、……なにを、するつも……り、だ?」
「決まっているだろ。お前を背負ったまま戦うんだよ」
自由に動き回りながら戦うには、これしかない。
イリールが重りとなるので、普段よりも動く速度が遅くなるのは仕方あるまい。だがそれでもこの場から動かずに戦い続けるよりはいい。
「むっ、無茶なことを……いくらアルガ、きみでも……」
「確かに重くて動き難いが、戦えないことはない」
「ぐうっ、失礼な! 私は重くなどな……ううっ」
「そっちかよ」
ダメだ、戦闘に集中しよう。
「ほらほら、余所見は禁物だよお?」
「ッ」
ルオーガの声に反応し、オーガ達が再び前進を始めた。
自分は決して重くないと抗議しつつも、イリールは俺の首に両手を回す。更に両足を前へと絡め、しっかりと引っ付いた。傍から見れば不格好かもしれないが、これで少しはまともに戦えるはずだ。
「む。……アルガ、お尻は触るなよ」
「頼むから黙っていてくれ」
「しかし私は女だから……ひあっ」
勢いよく地面を蹴り、真上に飛ぶ。突進してきたオーガ同士が急に足を止め、俺の姿を視認するが、その顔を足場代わりにトントントンッと移動していく。群れの外側へと辿り着くと、地面に両足を着ける。背中越しに「きも、ち……わ、わる……い」と声が聞こえてくるが、決着までは無視だ。
「きみは随分と器用な真似をするねえ」
未だ余裕のルオーガは、高みの見物と洒落込んでいる。だがそれも、あと僅かだ。エザの町に居座り続けたことを今から後悔させてやる。
「ルオーガ、お前って一度死んだことがあるんだよな」
「ああ、そうだねえ。ところでそれがどうかしたのかい?」
「よかったじゃないか」
「……どういう意味かなあ」
後方に陣取っていたオーガが、獲物が自ら寄ってきたことに感謝し、嬉々とした表情で斧を振り被る。しかしながら攻撃は当たらない。一歩横に移動し、寸でのところでかわす。
オーガの表情が驚愕に変わる頃には、俺の反撃は終了している。魔核があるであろう箇所を剣で突き、一つの命を奪い取ってみせた。
少し離れた位置から、俺の動向を見守るルオーガに向け、更に言葉を続けた。
「二度死ねる奴は中々いないぞ?」
その台詞は、最大の侮辱だろう。
お前は此処でもう一度死ぬ、と言われたようなものなのだからな。
「……く、くくっ。きみは本当に面白い人間だねえ」
今までと同じく笑みを浮かべてはいるが、目が笑っていない。俺への怒りを覚えたのだろう。
「気が変わったよ。きみは四肢を斬り落とすだけでは物足りないみたいだからねえ」
「へえ、それなら何をしてくれるんだ」
「四肢を失ったきみを生きたまま食ってあげるよお。この僕が直々にねえ」
「残念だが、それは無理な話だ」
獲物を前に待ち切れないのか、別のオーガが襲い掛かってくる。
口元目掛けて短剣を投げ、動きを止めた後、骨ごと首を斬り落とす。転げ落ちた頭部から短剣を回収し、ルオーガと目を合わせた。
「ルオーガ、お前如きが勝てる相手ではないものでな」
※
「あっ、……あぁ、ううぅ」
背に跨るイリールが、か細い声を上げる。……何なんだよ。
エザの町に転移してから、どの程度の時間が過ぎただろうか。時読盤に目を向ける暇もない。
転移酔いが治まり、一体ずつ確実にオーガを仕留めていくが、その数は一向に減ることがない。
屋根が無くなり壁だけになった民家に背を任せ、オーガの群れを迎え撃ち、幾度も斬り殺す。後方から壁の破壊を企むオーガの対処も万全だ。すぐさま身を翻し、戦いの場を移動するだけだからな。
「……おかしいな」
だが、やはり数が減らない……。ルオーガが従えるオーガの数は、ゆうに百を超えている。どれだけ倒しても次から次に新手が襲い掛かってくるのが現状だ。
故に、俺は異変に気付くことが出来た。
何かが臭う。鼻を突く異臭に、俺は辺りを見回した。
「ううっ……ひぐっ、……まだなのか、アル、……ガッ」
背中越しに、イリールが声を絞り出す。転移酔いの影響がまだ続いているのか、声に元気がない。
俺に引っ付いた状態で、そこら中を行ったり来たり攻撃したり回避したりと繰り返しているので、完全には酔いが覚めていないのかもしれない。
……が、この臭いはまさか……ッ。
「イリール、俺の背中に吐いたな?」
「はっ、吐いてなどいない!」
「嘘つけっ、臭うぞ!」
「吐いてないと言っているだろうが!」
「じゃあ何なんだよ、この臭いは!」
「……ッ、お、おっ、……っこだ」
「は?」
聞こえない。
「おしっ、……だ」
「なんだ? はっきり言わないと分からないだろ」
「ぐううっ」
「唸ってないで言えよ!」
「バカものが! おしっこだと言っているだろうがっ!!」
……は?
「すまん、今なんて言った?」
「羞恥プレイかッ!? 何度も言わせるなあああっ!!」
つまりあれか、俺の背中はイリールのおしっこまみれになっているのか。
「振り落とされないようにするのに必死だったのだ! いっぱい漏らしたとしてもっ、しがみ付いているだけでも……褒めろっ!」
褒めたくない。むしろ今すぐにでも下ろしたい。
ただ、俺の傍を離れた瞬間に命を狙われるだろう。オーガ達の恰好の餌食となる。
「……はあ。具合はどうなんだ」
「……安心していい。まだ出せる」
「下ろしていいか?」
「ダメに決まっているだろう! ……ああっ、」
「その声止めてくれ、今絶対出ただろ」
町に戻ったら、装備一式綺麗にしないとダメだな。
しかしながら、イリールが小便を漏らしたおかげで気付くことができた。
「おかしいはずだよな」
倒してもたおしても減らないオーガの群れに、違和感があった。幾らなんでも数が多すぎると。
その答えは、思いの外すぐ傍にあった。
「ルオーガ、発生源はお前だな」
「おや? やっと気が付いたのかい? 腕が立つ割には気付くのが遅いねえ」
首の向きが変になったオーガが、斧を手に間合いを詰めてくる。だが、生気が感じられない。
「俺は死人を相手にしていたんだな」
こいつは既に死んでいる。先ほど俺が首を斬り落としたのだからな。
その証拠に、首元には斬った痕がある。
けれどもこいつは死んだことが嘘だと言いたげな様子で、頭部を元に戻し息を吹き返している。
「オーガの突然変異種かと思っていたが……不死系の魔人だったのか」
「くくっ、惜しいねえ」
よく見れば、俺が殺したであろうオーガは、揃いも揃って目の奥が黒く染まっている。一度死に、命を失ったのだから当然か。体だけが不死の影響を受け、強制的に動いている証拠だ。
「僕はオーガさあ」
イリールの小便が原因かと思われた異臭についても、答えが導き出された。不死となって動くオーガ達が放つ臭いだったのだ。
「但し、彼に一度殺されたことで、更に力を得た存在として生まれ変わったんだけどねえ」
「オーガの魔人が、不死の魔人に突然変異したのか」
元々はオーガ種の魔人であったが、一度死ぬことで不死の力を手にしたのだろう。ワルドナ国がルオーガの亡骸を処理しなかったのが原因だな。
「答えが分かったところで、きみにはどうすることもできないよねえ?」
「……ああ。何度殺しても死なないんだからな。だが、お前を殺せば全てが終わる」
「それこそ無理な話さあ。だって僕も不死身なんだからねえ」
「違うな」
目の輝きを失ったオーガが、背後から突進してきた。
体を反転させ、振り向き様に短剣を額へと投げ付けると、反動で後ろ向きに倒れた。そのオーガの腹に乗り、短剣を引き抜く。
「お前の魔核を粉々に砕く。それで終いだ」
「……きみにそれができるというのかい?」
「幸いにも、お前程度の魔人であれば、何度も倒したことがあるからな」
不死系の魔物にも、魔核は存在する。
そして魔物は魔核を破壊されると死に至る。これだけは絶対に変わらないものだ。
ルオーガは、一度はホルンの手に掛かり死に至った。だが、不死系の魔人として蘇ることで、再び魔核を生成したのだろう。
「自信満々だねえ。……そう言えばさ、まだきみの名前を聞いていなかったね」
「今から死ぬ奴に言う必要があるか」
「それはきみのことだろう?」
オーガの数は減らない。不死を操るルオーガが生きている限り、殺しても殺しても立ち上がってくる。俺の味方といえば、背中越しに小便を漏らした【調合師】のイリールのみ。全く役に立たないが。
「人は俺を聖銀の騎士と呼ぶ」
「……聖銀の騎士?」
眉を潜め、ルオーガが俺の姿を瞳に映す。だが、何も思い浮かぶことはないはずだ。聖銀の騎士と呼ばれる頃には、こいつは死んでいたのだからな。
とはいえ、何も言わずに殺すのも簡単すぎる。こいつはエザの町の住民を殺め、ホルンをも殺そうと企んだ。ただ殺すだけでは生ぬるい。その身に恐怖と後悔を与えてやろう。
だから、俺はルオーガに言ってやる。
「魔王は既に死んだ。この俺が殺したからな」
「……何を馬鹿なことを言っているんだい?」
「ルオーガ、お前は死の期間が長すぎたんだ。魔王が死んだことも知らずに、ただ黙って獲物が通りかかるのを待つだけの存在だ。……間抜けな魔人に成り下がったんだよ」
「我が王が死ぬはずがない……きみの冗談は笑えないねえ」
「冗談だと思うか? ならば確かめてみろ、その身でな」
剣を構える。
オーガの相手をするのは飽きたからな。一足飛びにルオーガの首を獲った方がいい。手っ取り早く終わらせることができるだろう。
「ルオーガ、俺はお前を殺す。二度と蘇りたくないと思うほどの苦痛を与えながらな」
「……言ってくれるねえ」
挑発ではない。これは確定事項だからな。
オーガ達を手で制し、ルオーガが前へと出てくる。少年の姿形は見る見るうちに変化し、魔人の正体が現れた。自ら戦うつもりのようだな。
「彼を殺す前の準備運動だ。苦しむ顔を見せておくれよお?」
「断る。だから死ね」
互いに一言交わし合う。直後、ルオーガが口元を緩め、すぐに距離を詰めてくる。
「余所見厳禁だよお!」
「当然だ」
距離を詰めたルオーガが、右腕を振り下ろす。他のオーガ達のように得物を持っているわけではないが、受け止めるのは危険だと判断し、真横に滑り回避する。
「逃げるのかい?」
「避けなければ死んでいたからな」
背後にいたオーガが身代わりとなる。そのオーガの体は、ルオーガの爪で傷を負い、苦痛に顔を歪めている。毒の効果か、傷口が黒く滲んでいく。
しかしだ、近付かなければ魔核を壊すことはできない。体の何処にあるのか分からない以上、まずは動きを止める必要があるな。
「退け」
「グゴッ」
傍にいたオーガ二体を順に貫き、ルオーガとの位置関係を把握する。間合いは十分だ。
「――ふっ」
「おっ、……とと! 危ないねえ!」
壁になっていたオーガの隙間を見つけ、腰に差す短剣を掴み取り、迷いなく投擲する。狙いは問題なかったが、ルオーガは短剣を叩き落とし、くつくつと笑みを浮かべた。
「油断が過ぎるな」
「むうっ」
だが、短剣は囮でしかない。
本命はこっちだ。
「真っ二つにしてやる」
息を吐き、オーガの群れを思い切り突き抜ける。短剣を叩き落としたばかりのルオーガは、僅かに反応が遅れた。その目が俺の姿を捉えた時には、既に跳躍は完了している。勢い任せに剣を振り下ろし、奴の胴体を頭部から真っ直ぐに斬り捨てる。
「ぐがあっ」
不意の出来事にルオーガが声を漏らす。
但し、驚愕したのはルオーガだけではない。俺とイリールも驚いていた。
「……さすが不死系の魔人だ。真っ二つにしても死なないとはな」
斬り捨てた面から再び元に戻り、傷口が治っていく。
だが、その様子を黙って眺めているはずもない。
「これならどうだ」
今度は、横に剣を振り抜く。先ずは首を斬り落とし、次いで両脚を奪った。
「ぐっ、がっ」
「魔核を探すか」
頭部に隠すほど間抜けではあるまい。胴体の何処かにあるはずだが、手当たり次第に剣で突いてみるか。何れ魔核を突き刺すはずだ。
「うっ、後ろだ! 後ろからオーガがっ」
「知っている」
背中越しにイリールが声を発するが、言われなくとも気付いている。
ルオーガの胴体を幾度か突き刺した後、近付くオーガの背後へと回り込み、こいつの足も斬り落とす。こうすることで、蘇ってから動き出すまでに時間が掛かる。
「く、くくっ、僕をこんな目に遭わせるとは……きみが我が王を殺したというのも、あながち嘘ではないのかもねえ?」
「頭の方は黙っていろ。すぐに息の根を止めてやる」
しかしおかしい。何度突いても魔核が見当たらない。もしや胴体部には隠していなかったのか。
だとすれば、斬り落とした両脚のどちらかか。
「……ちっ、こっちにもないか」
ルオーガの両脚を剣で裂く。しかしながら、何も出てこない。魔核は何処にもない。
「……頭部か?」
「はあ、きみは思い違いをしているようだねえ」
頭部だけのルオーガは、傍にいたオーガに頭部を拾わせる。そして……。
「ッ!?」
更に別のオーガが、ルオーガの頭部を持ったオーガの首を斧で跳ね飛ばす。
空いた首の上に、ルオーガの頭部をくっ付けてしまった。
「あはは、僕に魔核なんて無いんだよ。体の一部さえ残っていればさ、どんな形であろうとも蘇ることができるのさ!」
「……嘘だな」
言葉では否定する。でも、何かがおかしいことには気付いていた。こいつと戦う前にそれを一度経験したのだからな。
どんな魔人や魔物にも、魔核は必ず存在する。魔王の体内にも魔核があった。
魔王討伐の時は、魔核を破壊した後に首を刎ねた。全てが決着し、魔王の頭部を王都へと持ち帰ることとなったのだが、暫くしてから息を吹き返したらしい。
俺は、確かに魔王の魔核を破壊した。それなのに何故、魔王は蘇ることができたのか。
「……お前を倒せば、何かが分かるかもしれないな」
「何のことを言っているのかしらないけど、きみには無理さあ。だって僕は不死身だからねえ」
何れまた、魔王と対峙することがあるかもしれない。
二度も殺し損ねるのだけは御免だ。その為にも、今此処でルオーガを確実に殺す方法を見つけなければならない。
「お前の魔核を見つけ出し、必ず殺す」
「できるものなら、やってみるといいよお。無理だけどねえ」
胴体を丸ごと取り替えたルオーガは、オーガの肉体を操り、大きさを増していく。胴体が変わったが、先ほどと同じ姿形へと変貌する。
「ほら、避けられるかなあ?」
両手に斧を持ち、攻撃を仕掛けてきた。毒爪と比べると、斧の方が対処し易い。得物よりも己の爪に頼ればいいものを。
「……アルガ」
「ッ、なんだ」
背後に飛び退く。
すると、イリールが口を開いた。
「伝えたいことがある。今いいか」
「あいつを殺したら聞く!」
こんな時に何を話すというのか。せめて大人しくしておいてほしい。
「そう、奴についての話だ。私にはどうしても奴が生きているとは思えないのだ」
「不死なんだから当然だろ」
「不死の魔物であれば、魔力を持たずとも動くことが可能なのか?」
「……なんだと?」
背中に引っ付くイリールが、奇妙なことを言い始める。ルオーガが魔力を持たない、と。
「私が調合した薬の中には、魔力の流れを瞳に映す作用を齎すものがある。私は今、それを服用している。魔人との対決を控えていたからな。だからか、魔力の流れが見えるはずなのだ。……だが、奴の体の中には、魔力が一切見当たらないのだ」
「……事実か、イリール?」
「む。アルガも呑むといい」
一度、イリールが足を下ろす。革装備の懐から袋を取り出し、小さな粒を俺に手渡す。
「【調合師】の紋章を持つ者か……」
無星とは言っていたが、役に立つ物を作ることができている。これを呑み、ルオーガを倒す切っ掛けを掴めれば……。
「おや? いよいよ諦めたのかい?」
「違う。お前を殺す為の策だ」
躊躇は不要だ。
イリールから受け取った粒を呑み込み、ルオーガの姿を視認する。
「効果は一時間ほどだ。その間に答えを見つけ出してくれ、アルガ」
「一時間? そんなに必要ない」
俺の目には、今まで見ていた世界とは別の色が映り始める。
答えは、既に見つかった。
「ルオーガ、お前の魔核は初めから無かったんだな?」
「さっきから言っているよねえ? それがどうかしたのかい?」
「但し、それはお前の体に無いってだけだ」
ピクリと肩を震わせる。
ルオーガが目を細め、俺を見た。
「魔力の流れが、全て視えるぞ」
魔核がある場所には、大量の魔力が蓄積されている。だが、俺と言葉を交わすルオーガの頭部には魔力の塊が見当たらない。
魔力を全身に巡らせることで、魔核の位置を特定し難くすることも可能だ。現に、魔王にはそれができた。しかしこいつは胴体を取り換えている。調べるところといえば、頭部のみ。だというのに、胴体はおろか頭部にすら魔力が一切見当たらないのだ。
「お前はただの入れ物だ。魔核本体は別の場所に隠してあるな」
イリールが調合した薬のおかげで、全てが真実の下に曝される。
「そう遠くにはないはずだ。……例えば、戦闘が始まってから一度も近付いてこない奴の体内に隠しているとか……な?」
「ッ、遊びは終わりにしようか! 今すぐ死んでもらうよ!」
ルオーガが初めて焦りを見せた。しかし、お前の相手をするのはこれでお終いだ。
「死ぬのはお前だよ、ルオーガ」
「――ガフッ!!」
決して俺に近付かなかったオーガが、エザの町の外れに潜んでいた。脇目も振らずにそいつの許へと駆け出し、首を斬り落とす。
間髪入れず、刎ねた首を剣で突き、魔核を破壊してみせた。
「せ、聖ぎ……んの、き……きし……ッ」
「言っただろ。お前は二度死ぬって」
魔核が砕け、地面へと落ちる。
これが、エザの町を恐怖のどん底に陥れた魔人ルオーガの最期だ。
「……た、倒したのか?」
オーガの群れが、次々とその場に倒れていく。不死の体を操るルオーガを仕留めたからだ。
「この町の魔物は、全て倒したぞ」
俺の言葉を耳にして、イリールが背から下りる。
恐る恐るといった様子で、地に転がるオーガの体を足で突く。反応がないことを確認すると、ようやく口元に笑みを浮かべ、安堵の息を吐いた。
「本当に一人で倒し切るとはな……」
「半信半疑だったのか」
「む。そういうわけではないぞ? しかしだ、まさかこれほどの強さとは思わなかった」
ふう、と胸を撫で下ろし、イリールは深々と頭を下げた。
「無茶で身勝手な願いを叶えてくれたこと、心より感謝する……。アルガ、きみがいなければ、エザの町は今も救われてはいなかっただろう」
「勘違いするな」
周囲を見回す。エザの町の状態を再認識した。
この町が、以前の姿を取り戻すには、長い時間を要するはずだ。途中で挫折することなく、それを実現しなければならないのは、俺を呼び寄せたイリール自身だ。
初めは全く役に立たないお漏らし調合師だと思っていたが、故郷と兄を想う気持ちは本物だ。
それに加えて、もう一つ。
「この町を救ったのは、俺一人の力ではないからな」
「む? どういうことだ」
「【調合師】の薬が無ければ、ルオーガの魔核を見つけ出すことはできなかった」
魔力の流れを瞳に映し、魔核を発見することができたのは、イリールのおかげだ。あのままでは何れ体力の限界が来ていただろうからな。
「だから俺からも礼を言う。助かったぞ、イリール」
「そ、……むっ。そんなことを言われるとは思わなかったぞ。……むむぅ」
目を逸らし、イリールは頭を掻く。ボサボサと。
初めて見た時は男だと勘違いしたが、少年的というか凛々しく見えるだけで、間近で見ると顔の作りはいい方だ。もう少し身嗜みを整えれば、モテるのではないか。……いや、冒険者がモテる必要はないな。というか、ルノよりも若く見えるが……歳は幾つだ?
「……む、む。なんだ? 私の顔に何か付いているのか?」
「小便漏らして泣いてたのか? 涙の痕が残ってるぞ」
「ッ、仕方ないだろう! きみの背に跨ったまま移動するのはっ、とても怖くて……っ」
「冗談だ。ちゃんと見れば女の子らしい顔をしていると思っただけだ」
「ッ!? あ、あっ、むうっ、アルガ……きみは私をバカにしているのか?」
「してないけどな」
俺の発言が気に食わなかったのか、イリールは眉間に皺を寄せる。
「む。私は男に見えるように振る舞って……」
ルオーガが死体を操り、そこら中に異臭が漂っているので、今はそれほど気にならないが、俺とイリールは小便臭いはずだ。コルンの町に戻ったら風呂に入る必要があるな。
何はともあれ、魔人討伐を果たすことができた。久方振りの実戦で、魔人が相手だったから、怪我を負わずに倒すことができて、内心ではホッとしている。
「イリール、お前への協力はこれで終わりだ。いいな?」
「む……。ああ、その通りだ。町を取り戻すこともできたぞ」
「というわけで、今度は俺の願いを一つ聞いてもらう」
「アルガの願い?」
「俺の正体は秘密にしておくこと。あと、今日のことも誰にも話したらダメだからな」
「……アルガ、私も一つ聞いておきたいことができた」
「なんだよ」
「きみは本当は……生身の人間なのではないか?」
間抜けではないと思っていたが、確信を突くとはな。
「勇者の固有能力によって生み出された分身体というのは、嘘なのではないか?」
「それを知ってどうする」
「む。……もし、もしだが、アルガが人間であるならば、私はきみを……だな、その……」
言葉が続かない。イリールは何が言いたいのか。
「……むう。もういい。アルガの頼みであれば、無条件で受け入れよう」
頭を振り、大きく溜息を吐く。俺の正体を隠すことを約束してくれたらしい。
「恩に着る」
これでまた、俺はコルンの町で平穏な暮らしを送ることができる。ホルンの妹が町に現れて、力を貸して欲しいと言ってきた日には、どうしようかと頭を抱えたものだが、これで一安心だ。ホルンの為にも、イリールの力になることができてよかったかもしれないな。
「俺は町に戻るが……。お前はどうするつもりだ、イリール?」
「国へと戻る。町の復興に力を貸してもらえるよう、頼み込もう」
「そっか」
俺と一緒にコルンの町に来たとしても、エザの町が元に戻るわけではない。魔物や魔人を倒すことはできても、町の復興を手助けできるわけではないからな。
「国までは遠いのか」
「私の足で二日ほどだ。道中に魔物の生息地はないから案ずるな」
「それなら安心だ」
ルノとクーを心配させたくない。早く戻った方がいいだろう。
「一日半の付き合いだったが、中々楽しかったぞ。また機会があれば、コルンの町に寄るといい」
「む。そうさせてもらおう。個人的に興味が沸いたからな」
「ん?」
「む?」
「……いや、別にいいか」
くすりと笑い、イリールが手を差し伸べた。
「また会おう、アルガ」
「ああ、きっと」
その手を掴み、握手を交わす。
手を離すと、イリールは再度頭を垂れる。それからすぐに背を向け、ワルドナ国の方角へと歩き始めた。後ろ姿を見送り、ふうっと息を吐く。
「……疲れた」
魔人討伐は完了した。後は町に戻るだけだ。転移砂は希少な魔道具なので、出来る限り使用を控えたいところだが、もう一度だけお世話になろう。
「臭いって言われるんだろうな……」
町に戻ったら、まずは湯浴みだ。小便の臭いをとるところから始めよう……。
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