【六章】心を読まれてギクシャクどころか進展がありました

「……どうした?」

「いえ、あの、……その子はいったい?」

 チラ、とルノが視線を向ける。その先にはクーだ。

 今現在、俺はクーを連れて冒険者組合を訪ねていた。木の実の収穫報酬を受け取り、クーの親御さんを探す為だ。しかしながら、扉を開けて中に入ると、ルノを含めた全ての職員が眉を潜める。

「山で迷子になっていた」

「裏山で……でしょうか」

「ああ」

 肯定すると、ルノは改めてじっくりとクーの顔を観察する。ただ、その表情は険しさを増すだけだ。

「ううっ、……この町の子ではないですね」

「本当か」

「はい、見たことがありませんので」

「ということは、クーは別の場所から一人で裏山に迷い込んだのか」

「わ、わたしに聞かれましても……」

 俺とルノの目が、クーへと向けられる。

 当の本人は、キョロキョロと冒険者組合内部を見ていた。

「クーちゃんって言うのですか?」

「そうだ。名前だけは聞いておいた。……あと、」

 言うべきか否か。……いや、今のうちに言っておかないと、後々面倒なことになりかねない。

「心が読める」

「へっ!?」

「恐らく、神から授かった紋章の力か何かだろう」

「あの、そのような能力を持つ紋章は聞いたことがないのですが……本当ですか?」

 冒険者組合の受付嬢をしていることもあって、ルノは紋章の種類や加護、恩恵に詳しそうだ。

 クーが持つ紋章が何なのか、そして心を読めるか否か疑問に感じたのだろう。急に言われて「はいそうですか」と信じられるはずもないからな。クーに実践してもらうのが手っ取り早いか。

 だが、そんな俺達に水を差す人物が奥の部屋から姿を現した。

「うげっ、なんだいその小汚いガキは? さっさと追い出しちまいな!!」

「く、組合長……、ですがこの子は……」

「バカルノッ!! もしかして逆らおうってのかい? 今すぐ首にしたっていいんだよ!」

 覚束ない足取りで歩み寄り、組合長がクーを見下ろす。

「あたしゃ綺麗好きな性格だからねえ、ゴミはゴミ箱に入れちまいな! くけっけっ」

「この人だれー?」

「ババアだ」

「ふーん、ババア」

「誰がババアだい! 役立たずの遊民がっ!!」

「おっと、つい本音が……」

「ババー、顔がゴブリンみたーい」

「ッ!! バカルノオオオッ!! 今すぐこのゴミ共を処分しちまいなっ!!」

「ひっ」

 この町で一番の権力者を怒らせてしまったか。

 でもまあ、仕方ないか。こんな子供に酷い言葉をぶつけるような奴に頭を下げるのは馬鹿らしいからな。俺は俺らしく生きていくと決めたのだ。

 他の職員達が慌てて駆け寄り、組合長に肩を貸して奥の部屋へと戻っていく。結構な歳なのだから無理せずに隠居していただきたいものだ。

「組合長が失礼なことを……申し訳ございませんでした、アルガ様。クーちゃん」

「ババアって言ったのはこっちだからな。ルノは謝る必要無いぞ」

「ですが……」

「ゴブリン、こらしめるー?」

 クーが訊ねる。

 一体誰の心の声を読んで訊ねたのやら。……全員かもな。

「しかし困ったな、この町の子だと思って連れてきてしまったぞ」

「ううん、どうしましょうか……」

 他人事にも拘らず、ルノは一緒に悩んでくれる。本当に優しい子だ。

「元いた場所に戻してくるのは可哀相だよな」

 クーは、この町の住人ではない。だから裏山に置き去りにする。といったことは、当然ながら却下だ。俺がクーを見つけ、手を引いて町まで降りてきたのだからな。

「……クー、お前の家って、何処にあるのか分かるか」

「うんー? あっちー」

 あっち、と指を指すのは、コルンの裏山だ。もしかすると、クーは山を越えて来たのか。

「あの、良かったらわたしの家でお預かりしましょうか?」

「い、いいのか?」

「空き部屋はまだたくさんありますし、それにアルガ様もいますから、クーちゃんも安心するのではないかと思いまして……」

「……恩に着るよ」

「いえいえ、これも【受付師】の紋章を持つ者の務めですので!」

 そう言って、えっへんと胸を張る。だが残念かな、その部分はぺたんこだ。

「ぺたんこー」

「へっ?」

 急に、クーが口を挟む。しかもあろうことか俺の心の声を読み取った。

「ぺたんこって、あの、……アルガ様?」

「クー、この木の実はぺたんこじゃなく丸いだろう」

 冷静に切り返し、胸のことではないと強引に認識させる。

 表情に出してはならない。ルノに悟られたら全てが終わってしまう。

「ううん、ちがうよー? お姉ちゃんのむねのことー」

「ひやっ!?」

 クーの返答に、ルノが突如変な声を上げる。と同時に、両手で胸元を隠す素振りを見せた。

「……誤解だ、気にするな」

「き、きっ、気にするなと言われましても……ッ」

 違う、違うんだ。俺は別にルノの胸を貶そうと思ったわけではない。

 よく見れば、ルノは涙目だ。俺が馬鹿なことを考えてしまったばかりに、この町で唯一の癒しでもあるルノを泣かせてしまうだなんて……。

「ゆーいつのいやしー?」

「それ以上、口を開いたら駄目だぞ」

「えー、なんでー?」

 社会的に俺が死ぬからだ。

「……アルガ様、今のって本当ですか?」

「いっ? 何のことだ」

「唯一の癒しって……」

 涙目ながらも上目遣いに問い掛ける。

 この表情は直視し辛い。俺の目は泳いでいるはずだ。……兜があってよかった。

「ああ、……うん。そうだな。俺の個人的な考えだから、気にしないでくれると有り難い」

「そ、そうでしたか……。アルガ様がそう言うのでしたら、畏まりました……」

 目元を拭い、ルノは再び笑みを浮かべてみせる。心なしか、普段よりも更に表情が明るくなった気がするが……見間違いか。

「えっと、クーちゃんはわたしの家に泊まることが決まりましたし、査定を始めますね」

「ああ、頼んだ」

 我に返ったルノは、己の務めを思い出す。

 受付の上に置かれた皮袋の中から、一個ずつ迅速丁寧に木の実を取り出し、仕分けを始めた。

「ふふ、……癒し、わたしが……えへへ」

 木の実の質を確認しながら、ルノがぼそぼそと呟いている。

 ……そっとしておこう。

「おいこら、いつまで駄弁ってんだ。邪魔だから退けよ」

「っと」

 不意に、耳に不快な音が響く。

 振り向くと、会う度に肩をぶつける冒険者が腕を組んで立っていた。

「……確か、ダーシュ?」

「気安く呼ぶんじゃねえよ。オレの名前を呼ぶ時は、様を付けんだよ」

 意味が分からない。

「んんー? なんだこりゃ、お前いつから子連れになったんだ? 魔物も狩れねえくせに子作りだけは必死に励んでますってか?」

 明らかに煽っている。

 その台詞に、冒険者組合内部に居合わせた他の冒険者達が視線を向ける。その一方で、ダーシュの取り巻き達はゲラゲラと笑っていた。

「よおー、木の実男よおー、相手は誰なんだー? ってかよー、そんな鎧着たままヤれんのかー?」

「物好きな女もいたもんだよなー、遊民と子作りするなんてよー」

「皆様っ、侮辱行為に当たりますので、それ以上はお止め下さい!」

「へいへーい、分かってるっての。でもよー、こいつの顔を見ると舌が回っちまって困るんだよなー」

「……それなら、舌を千切るか?」

「は?」

 眉を寄せ、ダーシュが聞き返す。

「ああん? おいこら木の実男よー、今なんつった? 俺様の何を千切ってやるってー?」

「ダーシュの舌のことかー?」

「んなこと出来るわけねえだろー」

 取り巻き達が煽ってくる。

 まだ、本格的に怒りを向けているわけではないのだろう。しかしながら、こっちはそろそろ限界だ。

「すまない、訂正する」

「はあー? 今更取り消したっておせえええんだよ! 痛え目に遭わねえと大人しくなんねーか?」

 組合長に頭が上がらないくせに、よくもまあここまで粋がることができたものだ。

 弱い者いじめが得意ってことか。もっとも、今回ばかりは相手が悪かったわけだが……。

「勘違いしているところ申し訳ないが、取り消すとは言っていない」

「……ああ?」

 人という者は、野次馬になるのが好きな生き物だ。人の不幸で飯が上手いと思う者は少なくない。

 故にと言うべきか。いつしか、組合内部は静かになっていた。

「じゃあ、なんだってんだよ」

 俺とダーシュのやり取りに誰一人手出しせず、傍観していた。受付に立つルノでさえ、唖然とした表情で俺の様子を瞳に映していた。

 悪目立ちするのは、極力避けたいところだ。コルンの町に居心地の良さを感じているからな。

 だが、こんな俺にも我慢の限度がある。だから言ってやろう。

「舌を千切るのは間違いだ。舌を斬り落としてやるから、さっさとかかってこい」

「ッ、この野郎ッ!!」

 躊躇いは一切無い。

 ダーシュは、両脇に差した短剣を同時に引き抜いた。形状から察するにククリナイフか。

 仲間意識が強いのか、それとも弱い者いじめを好むのか、ダーシュの取り巻き達も各々の得物を手に構え出す。……一対三か。数の上ではダーシュが優位だが、その利点を活かす前に終わらせよう。

「えっ、ええっ!? みみみ皆様ッ、ここは組合内部です! 喧嘩は御法度ですよ!!」

「喧嘩じゃねえよ、新顔に手ほどきしてやるだけだ」

「そうだぜ、だから口を挟むんじゃねえよ」

「ってことだからよー、怪我したくなけりゃ引っ込んでなー」

 新顔への手解きか。面白いことを言ってくれるものだ。

「あ、アルガ様! こちらへ来てくださいッ」

 不安になったのか、ルノが俺の腕を掴もうと手を伸ばす。

 だが、その手を制し、兜越しに口の端を上げてみせた。

「あいつが言うには、これは手解きらしい」

「そっ、そんなことを鵜呑みにしては……」

 ふう、と息を吐く。誰かを相手にするのは久しぶりだな。

「ほんの少し、手解きしてもらうだけだ」

 その言葉が、合図となった。

 ダーシュが踏み込み、俺との間合いを詰めると同時に、ククリナイフで胴体部を突き刺す。

「――ッ、硬えなっ!!」

 しかし勿論、そんな攻撃は通らない。

 それもそのはず、俺が身に付ける聖銀の鎧兜は、魔王の極炎攻撃にも耐えた代物だ。そんじょそこらのククリナイフでは、傷一つ付けることは出来まい。

 馬鹿な、と口にしつつも、ダーシュは再び両腕を交差させて思い切り振り抜く。だが、二度も真正面から攻撃を受ける義理は無い。

「攻撃が単調だな」

 腕の動きを目で追い掛け、攻撃動作と終着点を予測する。

 と、横に一歩移動するだけで、ダーシュの追撃は空を斬ってしまう。

「ッ、このっ」

 一度目は鎧の硬さに阻まれ、二度目はいとも容易く避けられたことに、ダーシュは動揺を隠し切れていない。取り巻き達に到っては、攻撃をせずに目を丸くしている。

「手解きはどうしたんだ、俺はまだ剣を抜いてすらいないぞ」

「くそっ、ふざけたことを抜かしやがっ、――あがっ、がっ」

 二撃目が失敗に終わったダーシュは、一旦距離を置こうと後ずさる。勿論、見す見す逃すつもりはない。手ぶらの俺は、間髪入れずに真っ直ぐ距離を詰め、ダーシュの首元を左手で掴んだ。

「ぎっ、ぎひっ、がっ」

 グッと指に力を込めると、口元から涎が垂れてきた。……手に付かないといいが。

 苦しげな表情を浮かべるダーシュの手から、一撃目の影響で刃こぼれを起こしたククリナイフを一つずつ取り上げ、眼前に付きつけた。

「……お前の武器だ。これで舌を斬り落としてもいいか?」

「ひっがっ、ぎっ、やめっ、おでのまげ! 負げっ、だ!」

 その言葉が聞きたかった。

「分かった、止めよう」

「うがっ、……がふっ、くっ、はあっはあっ」

 左手を放すと、ダーシュは力無くその場に尻餅を突き、思い切り咳き込んだ。

 これでも加減したつもりなのだが、強く握り過ぎたか。

「……ふう、ふうっ、木の実男が……いや、ただの木の実採り野郎じゃねえな?」

 そりゃそうだ。

 コルンの町に着くまでに、俺は一度も木の実を採ったことなんてないからな。

「お前は……いったい何者なんだよッ」

「何者か、か」

 核心を突く言葉だ。

 言われて、俺は鎧に隠された己の紋章の形を思い浮かべる。

 何者かと問われたら、こう答える他にあるまい。

「――偽者だ」


     ※


 この場に居合わせた皆様が思ったことでしょう。アルガ様は何を仰っているのかと。

 何故、自身のことを「偽者」と称したのか、理解が出来た方は、恐らく誰一人いないはずです。

「クーはね、わかるよー?」

「へっ? ……あっ」

 クイッと、服の袖を引っ張られました。視線を下げると、クーちゃんが笑顔を向けています。

 そう言えば、アルガ様は教えてくれました。クーちゃんは心を読むことができると……。

 つまりクーちゃんは、アルガ様の言葉の意味を理解していると……。

「何の騒ぎだい! ……って、バカルノッ! まだそいつを追い出してなかったのかい!?」

「くっ、組合長! 申し訳ありませんっ、でもそのっ」

 どうしましょう。

 クーちゃんを追い出すなんてこと、わたしにはできないですし……。

「退散するぞ、クー」

「うんー」

 すると、アルガ様がクーちゃんの手を握り、組合の外に出て行ってしまいました。

 ……ああ、またアルガ様に嫌な思いをさせてしまったかもしれません。

「ったくもう、余所者には困ったもんだねえ」

 まだ怒りが収まっていないのか、組合長は杖を手にそこら中を叩きながら部屋へと戻って行きます。

「あとでアルガ様に謝らないと……」

 もう手遅れかもしれませんが、居心地の悪い町だと思われたくないです。できることなら、この町の住民になってほしいですけど……。


     ※


「……今何時だ」

 時読盤に目を向ける。……ああ、なんてこった。ダーシュとの小競り合いから、数時間が過ぎているじゃないか。頭を悩ませながら、ぐうぐうと眠ってしまったらしい。

「んう」

 と、すぐ横で可愛らしい声が聞こえる。真っ裸のクーが寝ていた。

「……」

 一瞬、これがルノだったら……とか考えてしまった。ダメだな、頭を冷やす必要がある。

「ふあ、……おきたのー」

「おはよう、クー」

「アルガー、よく分かんないけど、ルノとなにかしたかったのー?」

「しない! しないから!」

 考えるな、その手のことを考えたらクーに悪影響を及ぼしてしまう!

「でもぺたんこー」

「それは禁句! 特にルノの前ではな!」

「はーい」

 すっくと状態を起こしたクーが、ベッドから飛び降りる。……ああダメだ。一度考えてしまったら妄想が止まらなくなりそうだ。己の欲に溺れないように気を付けないといけないな。

 ルノが元気で明るくて優しい女の子で積極的に話し掛けてきてくれるからって、俺に好意があるわけではない。組合職員の一人として接してくれているだけなのだ。故に、そういう目で見ては失礼だ。

 ボロボロの服に、クーが頭と腕を通す。この町に居ようが居まいが、クーの服を買っておくか。それぐらいの稼ぎにはなっているはずだからな。そろそろルノの仕事も終わる頃合いか。

 クーの着替えのついでに、鎧に身を通し、兜を被る。

「――あの、アルガ様? 入ってもよろしいでしょうか」

 頭の中で噂をすれば、早速と言わんばかりに部屋の扉がノックされる。廊下側に立っているのは、声を聞けばすぐに分かる。この宿屋の主、ルノだ。

「今開ける」

 そう言えば、クーの前では全てが筒抜けなので、あっさりと素顔を晒してしまった。クーと一緒に目を合わせて言葉を繰り返し交わすことで、慣れていくことができればいいのだが……。

「よかった、部屋にいなかったらどうしようかと思っていました……」

「急には消えないから。ルノにはお世話になっているし、挨拶ぐらいはしておきたいからな」

 と言いつつ、収穫報酬が目当てでもある。金が無ければ、生きていくことが困難な世の中だからな。

「っ、やっぱり町を出ようとしていたのですね? それは絶対に駄目ですっ」

「いや、そう言ってくれるのは嬉しいんだが、迷惑を掛けてしまったからな……」

「それなら安心して下さい! 木の実で手を打っていただきましたので!」

「……木の実で?」

 どういうことだか、サッパリだ。

「組合長が木の実を好んでいることは……」

「ああ。ルノに聞いたから知っている。でもそれとこれと何の関係があるんだ」

「えっと、現在この町で木の実を採る方は、アルガ様しかおりません。ですから、アルガ様が町から居なくなると、木の実の収穫が無くなることをお伝えしました」

「……上手いこと考えたな」

「はいっ」

 コルンの町での平穏な日々は、俺が自分自身の手で採ってきたということか。木の実によって首の皮一枚繋がったわけだ。

「木の実に助けられるとはな」

「でも、少し気になる点がありまして」

 問題事が一つ解決したと思ったら、ルノが眉を潜めた。

「何が気になるんだ」

「組合長なのですが、少し前までは木の実が苦手だったはずなのです」

「苦手?」

「はい。木の実の査定額が低いのも、元々は木の実が嫌いでしたので」

 それならば何故、組合長は木の実を好むようになったのか。好みでも変わったのか。

「それなのに、ここ最近は木の実を欲しがるようになりまして……。でもそんな簡単に基本となる査定額を変更するわけにもいきませんので、月を跨ぐまで待つことになったのですが……」

「ん? 査定額を上げようとしているのか」

「そうなのです」

 俺の問いに、ルノが頷く。木の実採りで日銭を稼ぐ俺にとって、有り難い話ではある。組合長の我がままな意見が通ると、俺の懐も潤うことになる。

「……ただ、」

「ただ?」

「アルガ様が、その、木の実を採ってくるようになりましたよね? それを良しとしたのか、査定額を上げる必要は無いと判断されたようです」

「ぬか喜びか」

 ワルドナ国から左遷されて組合長の座に収まったと思ったら、単に嫌いという理由だけで木の実の査定額を下げ、かと思えば今度は真逆の意見を口にして、けれども結局は止めてしまった形か。振り回される者の身にもなってもらいたい。

「この他にも気になることが幾つかありまして、ここ最近ずっと忙しくて……」

 話が複雑になりそうだな。クーに協力してもらって、組合長のことを調べてみるか……。明日以降もコルンの町に居続ける為には、避けては通れない道のような気がするからな。

「あっ、それと話が変わるのですが……これをお受け取り下さい」

 ゴソゴソと、ルノは自分の鞄から小さな袋を取り出し、俺へと手渡す。

「これは?」

「本日分の収穫報酬になります」

 これだこれ、これが欲しかった。

 おかげさまで、今日の分の宿泊代も無事に支払うことが出来そうだ。

「ワルドナ銀貨三枚か。結構な額になったな」

「そうですね。わたしもビックリしました」

 ルノが笑う。その笑顔を見ることが出来て、俺は今日も満足だ。

「えがおのお姉ちゃん好きなのー?」

「クーッ!!」

 室内に俺の声が響く。すると、じゃれ付きたいのか否か定かではないが、俺とルノの間をするりと抜け走り、クーは廊下へと脱出する。今すぐ捕まえて訂正させなければならない。

「うあー、アルガにつかまったー」

 急いで後を追い掛け、階段を下りる前に捕まえる。

 クーは楽しそうに笑っているが、俺は気が気じゃないぞ。ルノに嫌われたら困るからな。

「心の声を読むのは仕方ないとしても、それを人前で口に出すのはダメだろう……なっ?」

「うーん?」

 小声で注意する。が、クーは首を傾げるだけだ。

「あのっ、アルガ様!」

「な、なんだ?」

 ルノの呼び声で、俺はゆっくりと振り向く。嫌われないといいが、……って。

「夕食、ご一緒しませんか?」

「……いいのか?」

「はい。クーちゃんも一緒ですよ」

「うん、食べるー」

 俺の腕から抜け出たクーは、ルノの胸へと勢いよく飛び込んだ。

 一方で、ルノはクーの頭を優しく撫で始めた。頬に赤みが差しているようにも見えるが、気のせいか。けれども一つだけ断言しよう。ルノは今、嬉しそうに笑っている。何が嬉しいのかよく分からないが、笑顔なのはいいことだ。曇った顔なんて見たくないからな。

「……おねえちゃんー」

「どうしたの、クーちゃん?」

「やっぱりぺたんこー」

「く、クーッ!!」

 慌てて、クーの名前を呼ぶ。だが、ルノの表情は石のように固まっていた。

 クーには、まず一般常識を教える必要がありそうだ……。

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