12
俺を肩に乗っけながら無事初陣を終えた成美は、街から離れた公園──俺と成美が取引をしたあの公園へと逃走することに成功し、今はすっかり一般人へと姿を戻し座りながらぐったりしていた。
「──さて、まずはお疲れ様って言っとくよ」
成美に労いの言葉を掛けながら猫から元の姿に戻り、同じベンチにちょっとだけ距離を離して腰を下ろす。
成美は不意に掛けられた声に少し驚きながらも、特別取り乱すことはなかった。
疲労が多いのか何となく察していたか。
……いやわかるか。一度助けてやったし魔力でとはいえ間近で会話までしたんだから、むしろわからなかったらお仕置きもんだわ。
「……やっぱり師匠だったんすねー。動物にもなれるとか何でもありなんすか?」
「もっと励めばお前にも出来るさ。ちょいとコツはいるけどね」
まあ今のペースだとそれくらい掛かるかわからないし、こいつはこんな小ネタよりも実力を上げる方が優先だ。
「まったく……気を抜くのが早すぎる。もし誰かが後をつけてたら、お前は今頃お陀仏だよ」
「あはは……手厳しいっすね。これでも警戒はしてたんすけど」
甘い。実に甘い。それはもう角砂糖のように甘ったるさの塊だ。
追跡がなかったのは運が良かっただけ。あの
……ま、そうなっても今回だけは俺がなんとかしたけどな。
何せ今回の初陣は実に俺を滾らせた。理由なんてそれだけでもう充分すぎる。
最初の三下昆虫への不備は落第ものだがそれはまあ予想の範囲内、起こりうるミニトラブルで終わる程度のことだ。
そして、その失敗を補って余りあるくらいには後半は実に素晴らしかった。
勝ち目がないにも関わらず、必死に勝利への筋道を模索し躊躇うことなく歩き続けるその姿。
まさに可能性の体現。俺が
──そう。例えあの脅しがまったくの
眺めているだけのつもりが思わず録画しちゃったしね。いつかこいつが一人でやれるくらいになったら見せてやろうっと。
「まあ今回は及第点。初陣にしちゃこれ以上無いくらいだったよ」
「……マジっすか?」
「ああ。大まじさ」
口に出した後、俺にしちゃ珍しく純粋に褒めたなと内心で思った。
案の定それに驚いたのか、成美は呆気にとられたかのように、俺に対して口を大きく開けて驚愕を示してくる。
……やっぱりちょっと納得いかない。正直俺が猫になる方がよっぽどびっくりすることだろうに。
「そういえば聞きたいんだけどさあ?」
「……なんすか?」
「
それは今更だけどずっと聞きたかったことだ。
こいつのイメージカラーは見て分かる通り真っ白で、黒色は一切介在していないはずだ。
それなのに、
これら二つは自分をより理想に近づけるために本能が選んだ、いわば超常としての自己紹介でもあるそれはそれは大事なものだ。
よりわかりやすくより鮮烈に、自らがこの世界でやりたい放題やるんだという宣誓。その大事な要素の中にこいつっぽくないものが混じっていたら、ちょっとは好奇心をそそられるというものだ。
「……別にたいしたことじゃないっすよ。どれだけ魔力の色が白だろうと私は人殺し──
「ふうん?」
そう言って顔を背けた理由は言ったことに対する照れくささか、あるいはこの道を選んだ自分への自虐か。
多分後者だろう。例え
──馬鹿らしい。そんなもので悩むくらいなら最初からこの道を選ぶな。
「……罪の意識に溺れるなよ?」
「……えっ?」
「そいつは
意識とは源でもあり枷にも成り得る、万能且つ厄介なものだ。
些細なこと一つでころっと改善するときもあれば変えようのない事件で容易く変貌する不可解、まともにそれに取り合えば強くもなるし弱くもなる劇物。
だから常に理想を持つのだ。やりたいことのために全てを注ぐのだ。
やりたい放題やるのが
……まあ、とはいってもこいつは引きずるだろう。
何せこいつの性根は
「良いか成美。罪を感じるのは構わない。けどそれに後悔だけはするな」
「……」
「忘れるなよ。どんな犠牲を払おうとやりたいことをやる強欲──それが
受け入れろとは言わない。所詮は俺の持論──身勝手な
けど、それでも。ようやく地獄の一歩目を踏み出したこの大馬鹿者に少しでも道を示せるのなら。
ベンチから立ち上がり、猫背の老人のようにへこたれた成美に手を差しのばす。
「ほら行くぞ。今日は母さん遅いし、寿司でも奢ってやるよ」
「……いっぱい食うっすよ?」
「おう。けど安いの食べろよ?」
手を取り立ち上がる成美。
そうだ、そうやっていろいろ考えては立ち上がろ。それこそがお前が果たしたい目的のために大事なことなのだから。
今はまだ小さな雛。どれほど大きく成長するかは俺ですら分からない未知の少女。
それでも俺はこいつに可能性を見いだした。こいつがどんな末路を迎えるか、少しずつだが興味が湧いてきた。
さあ進め。何度も転び、それでも歩き続けろ。
かつて
かつての悪は愉しみたい わさび醤油 @sa98
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