空になりたい俺と海になりたいキミ

草津海

第1話目醒める未来



小さい頃から恐竜が好きだ。恐竜になりたかったと本気で考えるくらいに好きだった。

大きくなったら恐竜になるんだとずっと信じていたガキの頃もあった。

今思えばかわいいもんだよな。それが叶わないと知ったのは中学に上がった頃だった。明日、朝、目が覚めたらもしかして?と毎日、変わりなくて落ち込んだガキの頃。


夢の中では、スイスイ空を飛ぶのに。

現実は地べたを歩くしか出来なくて歯痒い思いをしながら学校へ行く毎日。



無論、今でも好きだけど毎日学校に行かなきゃいけないし、遊びたいしで毎日忙しい中で薄れつつあったりしていたのも事実。


たまに空を飛ぶ夢を見たりしても、朝目覚める頃には忘れてたりする。時々誰かに呼ばれているような声が耳に残る。



俺は、伊勢崎龍之介。私立高校に通う15歳と10ケ月の早生まれ。あと1カ月ちょいで誕生日が来る予定。


俺の名前が龍之介って少々ジジくさいとたまに言われる事があるけど、結構気に入ってるんだ。何故かって?恐竜が好きだから自分の名前に龍が入ってるって控え目に言って最高でマジ両親に感謝してる。



この歳にもなって誕生日が待ち遠しいとかじゃないけどなんか最近、夢を見る頻度が上がってきていて不思議な感じ。


けど、朝起きるとどんな夢だったか忘れてしまう、覚えてないんだよな。幸い、辛い苦しいとかの夢じゃない事だけは確かだ。目が覚めてうっすら楽しかったような気分は覚えてるのに。

楽しかった事は忘れないようなもんだけどね。





今日も朝、家まで迎えに来てくれてる幼なじみの海老原大知と共に学校に向かっていた。駅に向かって歩きながら俺は大ちゃんに話しかけた。

「なぁ、大ちゃん?」

こいつとは家が近くて小学校に上がる前からの付き合いなので俺は大ちゃんと呼んでる。俺はなんでも打ち明けるし、困った時は相談に乗ってくれるスゲー良いやつだ。

「何?」

「大ちゃんは、夢はよく見る方?」

俺がいきなり質問を投げかけてもはぐらかしたりしないでちゃんと答えてくれる。

「あ〜あんま見ないかな。もしかして龍之介は夢よく見るの?」

大ちゃんは不思議そうな顔で俺を見た。

「うん、よく見るっつうか…でもなんか、イマイチ覚えてない…」

変な答えになってしまった、ゴメン。

「ん?でも夢を見たって事そのものは覚えてるんだ?それだけでも凄い事じゃん」

「へへへ、そうかな。ありがと。なんか、楽しかった気がするから良い夢なんだなって…」

励まされて嬉しいやら照れるやらで俯いた俺は大ちゃんが意味ありげに微笑んだ事に気が付かなかった。

(早く目覚めてくれよ、俺の…)


「大ちゃん、なんか言った?」

「いや、楽しかった夢なら最高じゃん。良い知らせじゃね?吉報とか言うらしいし」

「へーそうなんだ、なんか良い事あんのかな?空飛べるようになるとか(笑)」

あ、久々に願望が口から出ちゃった。小さい頃からずっと空を泳いでみたくてってよく言ってたけど周りには笑われてしまって、その理由が納得出来なかったけど、飛べるようにはならなかったから言わなくなってたな。

「なんか久しぶりに龍之介のそれ、聞いた。昔からからよくそれ言ってたな。」

そうなんだ、昔から大ちゃんは笑わないでちゃんと聞いてくれてた。

「大ちゃんだけだよ、空を泳いでみたいって俺の夢を信じてくれてるの。」

「だって空飛ぶのって憧れんじゃん?俺も飛んでみてえもん」

「だよなぁ、やっぱ大ちゃんサイコーだわ」

「だろ?」

ニヤリ笑った大ちゃんが俺の肩を叩く。


(早くこっちへ来いよ、俺の龍)

「ん?」

気のせいか?声が聞こえた気がした。

「龍之介、どうした?」

「あ、いやなんか…気のせいかも(笑)」

俺は笑って誤魔化した。別に大したことじゃないと思って。



駅の改札口を出たとこで声をかけられた。

「おっはよ〜今日も一緒だね」

後ろからかわいい声がする。振り返ると同じクラスの林田夏帆さんがいた。隣には林田さんの友達の島田瑞穂さんもいる。

「おはよう」

「おはよう」

「何話してたの?」

誰にでも気さくに話しかけてくれる林田さんは、クラスの人気者だ。

「夢を見るか?って話してたとこ」

大ちゃんが説明してくれる。

「ふうん、大知くんは見るの?」

並んで歩きながら林田さんが聞いてきた。

「俺はあんま見ないけど、こいつはよく見るんだって」

「へー龍之介くんは夢、よく見るんだ?どんな夢?」

「あんましよく覚えてないけど…空を泳いでる夢もある…」

不意に思い出したから言ってみた。

「へ?さっき俺にはあんま覚えてないって言ってたやんか」

珍しく絡んでくる大ちゃん。まさか、拗ねてんのか、そんな気がする。

「そうだけど、今、不思議と思い出した」

それがあたしのおかげよね?と言いたげに林田さんが微笑みながら大ちゃんを見る。

「あれ?夏帆ちゃん、俺にもおはようは?」

「言ったわよ。海老原大知くん、あなた、あたしに言ってないじゃない?」

あ、あれ?なんかヒンヤリしない?なんか周りの空気が冷え込んできたような…。あ、どうしよう、二人が顔合わせるといつもこうだ。なんか火花がバチバチ飛ぶんだよなぁ…。島田さんも困ってるし、よし俺がなんとかしないとな。

でも俺の口から出た言葉は…。


「二人とも仲良いんだね?」

「何処が?」

「何処がだよ?」

二人同時に言う。ここまでピッタリ合うと見事としか言いようがないけど、言ったらまた拗れそうだからやめよう。


すると気配を察したのか島田さんが苦笑いしながら言う。

「あ、そいや私当番だった。夏帆急いで。じゃ先行くね」

林田さんの腕を引っ張って小走りで行ってしまった。


それを見送った大ちゃんがやれやれと肩をすくめた。

「朝から台風だな、オイ」

「大ちゃん、林田さんにいちいち突っかかるのなんで?」

素朴な疑問をぶつけてみた。

「突っかかってない。向こうがぶつかってくるだけだろ」

いつもはヘラヘラ笑って陽気なヤツなのに林田さんが絡むとツンツンしてる。

「え?自覚無い?いつも二人は顔を合わすと侍の小競り合いみたいになっちゃうじゃん」

「侍の小競り合い?鍔迫り合いって言ってくれよ(笑)」

「そういう問題じゃなくて…」

俺は困った。なんか、知らない大ちゃんみたいで素直になってくれない。

「俺には龍之介がいればいいの」


(なんでアイツが来たら思い出すんだよ?俺だけじゃダメなのか?)


「なんか言った?」

「聞こえてんじゃん…」

「え?大ちゃん?何言って…」

「龍之介、遅刻すっから行くぞ」

そう言うと大ちゃんは走り出す。待ってよと俺は大ちゃんの後を追って走り出したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空になりたい俺と海になりたいキミ 草津海 @saburu_jp

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ