第9話 一件落着
デーモン族シバべロスの脅威から街の住民達は解放された。
「うーん、うーん、腹が痛い」
「く、苦しー、もう食えないよ」
「うっぷ、吐きそうだー」と、次々と地面に転がる住民達は唸り声を上げていた。
「もう、ちょっと誰か、私に服を、何でも良いから服を持って聞くれませんの」と、サテラが声を張り上げていた。
「やべーな、あの女官、裸のままだったな」、トットは落ちていたボロ布を拾いサテラに近づくとその布を手渡した。
「あ、危ない!」と、声を上げたニコは目をつぶった。
トットが後ろを振り返ると、土煙の中から包丁を振り上げるロットが飛び出て来た。
「ウッヒョー、ボクダケハタラカセルナ」と、そのまま近くに居たトットに襲い掛かる。
「はあー、親に手を出すような息子に育てたつもりは無いぞ」と、トットは両手を前にして念力でバリアを張った。
カ――ン、金属音が聞こえたのでニコが恐る恐る目を開けると、トットの前で動きを止めたロットが歯ぎしりをしていた。
「やるな小僧と言いたいところだが、いい加減目を覚ませよ」と、トットはロットの頭にゲンコツを食らわせた。
「うっ、・・・痛いよ。もう、トット、何すんだよ」と、正気に戻ったロットは涙目で頭を押さえていた。
「やっと、正気に戻ったなロット。じゃあ、店に戻って片付けでもするか」
「片付け? どうして、たしか店に客が押し寄せて来たから、僕はずっと料理していたはずなのに」と、ロットは不思議そうに周囲を見渡した。
「まあ、お前がブチ切れていた間に色々とややこしい事があったんだよ。そうだよな、ニコ」
「えっ、うーん、確かにややこしい奴だったけど」
「ふーん、そうなんだ。まあ、今日は十分儲かったからどうでも良いか。じゃあ、後は皆で片づけをして店を閉めよう」と、ロットは元気よく店の中に入って行った。
「俺達も片づけをして今日の仕事は終わりにするか」
「はーい、じゃあ片づけが終わったら何か食べさせてよ」
「あっ、そう言えば何も食っていなかったな」と、トットは空きっ腹を手で押さえ歩き出した。
プラカードを拾い上げたニコは、トットの後ろを足早についていった。
騒ぎを聞きつけた城の兵士達が、ダルそうにぞろぞろと街にやって来た。
道に散乱する食料に崩れた屋台、それと腹を抱えて地面に寝転がる住民達。
この状況だけでは、一体何が起こっていたのか分からない。
苦しむ住民達を兵士達は介助しながら、聞き取りをしていた。
「ジェイコブ隊長、住民達は腹がいっぱいで動けないそうです。それ以外は、何があったのか誰も覚えていない様子で」と、一人の兵士が報告した。
「うーん・・・、どうしたものか」
顎に手を当て悩むジェイコブを見つけたサテラは、目を輝かせながら近づいた。
「あの、ジェイコブ隊長ですわよね。私は、アンゲル教の女官サテラですわ」
「はぁ、あんたみたいに薄汚れた女の知り合いは居ない。そもそも、女官はそんな格好をしていないのだが」
「これには、理由があるのですわ。さっきまで街で暴れていたデーモン族のせいでこんな格好になってしまいましたの」
「デーモン族だと、魔族もデーモン族もまだ活動する時では無いと聞いているが・・・」
「それが、デーモン族のシバべロスが現れたのですの。それを私、アンゲル教女官サテラが見事に退治したのですわ」
「ほー、それでそのシバべロスとやらの死体は何処なんだ?」
「そ、それは、遠くへ追いやったので死体はありませんの」
「追いやったから死体は無いのか、ふーん」と、ジェイコブは近くに居た兵士に手招きをした。
「はっ、何でしょうかジェイコブ隊長」
「この女なんだが、ちょっと怪しいから城に連行してくれないか」
「えっ、何をおっしゃっているのですか。私を連行して牢に入れるのですか?」
「そうだ、住民達は全員苦しんでいるのにお前だけが何ともないし、話している内容も怪しいからな。ちょっと城で色々と聞かせてもらおうかな」
「そ、そんなー、お願いですから信じてくださーい」と、サテラは兵士に連行されてしまった。
突如現れたデーモン族の脅威から街を救ったと国王に知らせ褒美をもらおうと思っていたのに、サテラの企みは出足で失敗してしまった。
城の牢屋に放り込まれたサテラの疑いが晴れ解放されたのは、三日後の事だった。
街に戻ったサテラは、手柄を横取りしようとしたから天罰が下ったと信じ、暫く教会に閉じ籠っていたらしい。
そんな不幸な彼女の事などすっかり忘れたニコは、今日もトット食堂の前で客引きをするのであった。
解任された勇者と元冒険者と悪魔 川村直樹 @hiromasaokubayashi
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