第8話 悶絶
ギューンと、引き寄せられるシバべロスは目に見えない拘束から逃れようと四方八方に顔を振り回しながら炎を吐き出した。
ブスブスと焦げ臭い匂いが近くでする。
足元が熱く感じたサテラは、おもむろに下を見た。
運悪くサテラのローブの裾にシバべロスの吐き出した炎が引火していたのだ。
「嫌ですわ、私の一張羅のローブが・・・、このままだと燃えてしまいますのー」と、足をジタバタし火を消そうとするが、燃えやすい素材なのか消えるどころか上へ上へと火が昇って来る。
そんなサテラを気にも留めないニコは、迫り来る何かを感じ取っていた。
「何、このプレッシャーは何処から来るの・・・」と、身構えたニコは目だけを動かす。
「どうでも良いですの、早く私のローブの火を消してくださらないかしら」と、両手でローブの腰の下あたりを持つサテラが慌てふためいている。
「ヤバイぞ、これはかなり不味い事になるかも知れない」
そうトットが呟くと、未だにノロノロ歩く住民達を飛び越えて来る人影が目に入った。
両腕をクロスにし、その両手には太陽光をキラリと反射する包丁を持っている。
「な、な、なになに、危なそうなのが・・・ぶへっ・・・」
ニコの顔を踏み台にした人影は、そのままサテラの傍で着地した。
「ヒャッハー、ウヒョヒョヒョー! ボクヲオキザリニシタ、ミンナデキュウケイ、ボクハ、ボクハ、ア―――ン・・・フォ―――ギブ」と、奇声を上げ体を横にユラユラ揺らすのはロットだった。
「あなたは、食堂で料理人をしている子供ですわね。文句を言う暇があったら火を消すのを手伝ってくださらないかしら」
「火、火、火・・・ヒヒヒヒヒー」と、ロットは手にする包丁を振り回しながらサテラの横を走り抜けた。
青い布切れが宙を舞い、ヒラヒラと落ちて来る。
何かしらと手のひらに落ちた布を見たサテラは、全裸で佇む自分に気が付いた。
慌てて露わになったBカップの胸を両手で隠し、しゃがみ込む。
「きゃー、どうして私は真っ裸になっているのですの。神の使いに何て事をするのですわ」
料理スキルを持つロットは、超一流の包丁さばきでサテラの服だけを切り刻んでしまった。
引火した部分の火を消すどころか、可燃性の高い服を全て排除したのだ。
生まれたままの姿になったサテラは、その場から動けなくなっていた。
「凄い! プレッシャーと言い、あの剣捌きと言い、ロットは何者なの?」
「剣捌きじゃなくて、包丁さばきな。あいつは、ただの子供だよ・・・多分な」
「ちょっと、自信なさげじゃない。あんたの子供なんでしょ」
「確かにロットは俺とララの子供だけど、森で彷徨っていたあいつを俺達が保護したんだよ」
「じゃあ、実の子じゃないんだ」
「そうだな、血は繋がっていないけど今じゃ立派な息子だよ。俺達が育てて来たからな」
「でも、どうするの? ロットをあのままにしておいて良いの?」
「今は手が離せない、ロットの標的はサテラ見たいだから放っておいて、俺達は悪魔を倒すぞ」
そう話したトットは、捕らえていたシバべロスを2、3回上空で振り回し、そのままニコに向けて投げつけた。
身構える暇の無かったニコは、シバべロスと真正面でぶつかりそのまま仰向けに倒れてしまった。
地面に強打した後頭部を擦るニコは、重みを感じる胸元を見た。
フミ、フミ、フミとまるで猫の様に前足で柔らかい胸を揉むシバべロスの姿が目に映る。
滑々した肌触りのチャイナドレスの生地とニコの乳首が擦れ合う感覚が何とも言えない気持ちにさせる。
「あっ・・・、あ・・・、あっ・・・、あ、あ、あー」、このまま続けられると頭の中が真っ白になりそうだ。
「アウ、アウ! ハッ、ハッ、ハッ」と、シバべロスは楽しそうにニコの胸を揉み続ける。
「あん、ダメ・・・、あ・・・あっ、それ以上はダメ、おかしくなっちゃう」と、熱くなる下腹部に我慢の限界とばかりに腰を少し浮かせ太ももを閉じた。
「あー、お楽しみの所を申し訳ないが、そう言うのは人の居ない所でしてくれないかな」と、トットはニコの胸にしがみつくシバべロスの首根っこを掴み引きはがした。
ハッとして起き上がるニコ。
トットの言葉で我に戻ったニコは、余程恥ずかしかったのか顔を真っ赤にした。
トットに首根っこを掴まれるシバべロスは、前足をブンブンと振り回し暴れていた。
「・・・いっ。いきなり噛みつくなよ」と、トットはシバべロスに噛まれた手を振った。
両拳を握りしめたニコが、恥ずかしさと怒りでレッドゾーンを振り切っていたとも知らず、解放されたシバべロスは、パタパタと背中の翼を動かしニコに近づく。
「うわーん、バカバカ! まだ乙女の私に何てことするのよ。この、エロ犬めー」と、ニコの放ったボディブローがシバべロスの脇腹に綺麗に入った。
「ボグッ・・・、キャ・・・ウーン!」
空高く舞い上がったシバべロスは、どこか遠くへと消え去った。
「おー、すげーな。やっぱり勇者だったんだな」と、トットはシバべロスが飛んで行った方向を見つめていた。
全てを消し去りたい、そんな思いと恥ずかしさで頭の中がいっぱいのニコには、トットの言葉は聞こえていなかった。
これにて聖なる光を纏いし勇者の渾身の一撃がさく裂し、三の国の平和は無事守られたのであった。
しかし、この状況では誰も後世にニコの活躍を伝える者は居ないだろうけど。
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