第7話 悪魔退治
「ふふふ、一撃で決めたわ。これで、ただ働きは終わりね。今から豪華な暮らしが始まるのよ」と、呟くと同時に頭に激痛が走った。
「さっきから店の中を手伝えって言ってんのに、聞こえてないのか? このバカ娘が、何してんだよ。何時までもあの頭のおかしな女官と遊んでる場合じゃないんだぞ」と、トットはニコの頭を手にする丸い木製盆で殴りつけたのだ。
「あーん、痛―い、痛いじゃない。何するのよ」と、しゃがみ込むニコは頭を手で擦る。
「頭のおかしな女官って、どういう事ですの! たまにあなたのお店で食事をする常連様に向かって失礼ですわ」と、サテラはトットに詰め寄った。
「何時もご利用有り難うございます、お嬢様」と、トットは態度を急変させ営業スマイルを見せた。
サテラの前でごまをすりながら手を揉むトットのお尻をニコは蹴り飛ばした。
「もう、せっかく格好良く悪魔を倒したのに。邪魔しないでよ!」
「痛いじゃないか、俺様のキュートなお尻を何だと思っているんだよ! それよりお前のその目は、飾り物なのか? あのナイフを投げ返そうとしている犬っころが見えてないのか?」と、短い脚を上げ大きく振りかぶるシバべロスを指さした。
「うそ、私が投げたナイフをキャッチしたの・・・」
ニコは、頭上で目を輝かせ舌を出すシバべロスを見た。
「ハッ、ハッ、ハッ・・・、ウ・オ―――ン!」
剛腕投手を彷彿させる投球フォームを披露したシバべロスは、しなやかに手首のスナップを利かせナイフを離した。
「ひっ・・・」と、両手で頭を抱えたニコは体を小さく丸めしゃがみ込んだ。
「たかがナイフにビビってんじゃないぞ」と、トットは飛んで来るナイフを左手に持つお盆で受けようとした。
カッ、コ―――ン!と、何とも風流な音が響き渡った。
「えっ、い、イヤだ。ちょっと、トット・・・」
「何を焦った声出してんだよ」と、手を口に当てながら指さすニコを見た。
「腕よ、腕にナイフが突き刺さってるけど、平気なの?」
「あっ、やべーな。目測誤ったかな、たまに失敗するんだよな」と、トットは自分の左腕を確認する。
「痛くないの? ナイフが刺さってるのよ」
「いたっ・・・くない。俺の左腕は、義手なんだよ。だから何ともないね」と、左腕に突き刺さるナイフを抜き取りニコに下から投げて渡した。
弱風を受ける風車のようにゆっくりクルクルと回るナイフは、放物線を描き地面に落ちた。
「もう、投げないでよ。危ないでしょ、怪我したらどうするのよ」
ぶつくさ文句を言いながらニコは、ナイフを拾った。
「あっ、ああああ、ああああ・・・、きゃっ、きゃあーーー」と、サテラはホラー映画の予告で殺される女優と同じ叫び声を上げた。
トットとニコが声のする方を向くと、膨らんだ腹を抱えながらノロノロ歩く住民達がゾンビのごとくこちらに迫って来る。
しかし、食い過ぎで動けなくなる寸前なのか、彼等の歩く速度は驚異的に遅かった。
「早く・・・、早く、もっと、早くしてよ・・・、勇者なんですよね、華麗にジャンプして、会心の一撃とやらでシバべロスを倒せないですの。早く終わらせないと、死人が出ますわ」
流石にこのままだと、サテラの言う通りそろそろ死人が出そうだ。
オロオロする勇者の横で余裕の表情を浮かべるトットは、腕の袖を捲った。
フッと、鼻で笑うと右ひじを曲げパチンと指を鳴らす。
何もないはずなのに、急にシバべロスは前足を両方首に当てて苦しみだした。
まるで誰かに首を絞められているみたいだ。
「ガッ、ガッ、ガッ、クゥ―――ン」
「宙に浮いてるからって安全じゃないんだよ、馬鹿な悪魔だよな」と、トットは話した。
グルグルと回りながらもがき苦しむシバべロスの口から火が見える。
「ウガ、ウガ、ウガ、ファイグゥワワワワワワワワ」と、勢いよくシバべロスは炎を吐き出した。
「何よこの子、火を吐き出せるの」と、ガタガタとニコは足を震わせていた。
「このままだと、街が火の海になっちゃいますわ。何をしたのか良く分からないけど、あなたの責任ですの!」と、サテラが腰に手を当て偉そうに指さす。
「どうして俺だけの責任なんだよ。せっかく俺が魔法であの悪魔を拘束したのに」
「えっ、今の魔法ですの? そんな魔法見た事も聞いた事も無いですわ」と、サテラは釈然としない様子だ。
「私も初めて見た。火か水か、それとも風とか土の魔法なら知ってるけど、今の魔法は全然威力が無いから使えても役に立たないし」と、ニコは首を傾げた。
「だから俺のは、普通法じゃないんだよ。それだけ凄い魔法なの」
「えー、そもそもトットのは魔法じゃないって」
「そうですわ、あなたの使っている力は魔法じゃありませんですわ」
「じゃあ、一体なんだっていうんだよ」
「うーん、それは・・・分かりません」と、ニコとサテラは声を揃えて答えた。
実は、トットの使う力はESP(Extra Sensory Perception)なのだ。
そう、彼はエスパーで念動力を操る非常に珍しい能力を持つ者なのである。
しかし、誰も知らない力なのでトット自身は、ずっと魔法だと思い込んでいた。
「えーい、魔法だろうが何だろうが、どうでも良いよ。とにかくこいつの動きを封じ込めるから後は、ニコ、お前が何とかしろ」と、伸ばした右腕を手前に引いた。
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