第41話 好みの大きさは?

「恋って、もどかしいのね……」


 こんなに強く想っているのに、言葉にしなきゃ伝わらないなんて不思議な感覚だ。


 なんで数日前は、自分の気持ちにあんなに意地を張ってしまったんだろう。


(でも……)


 自分の本当の気持ちにきちんと気づけたからなんだというのだろう?


(きっと、脈はないわよね……)


 だってあいつが好きなのはお姉ちゃんで、清楚な格好をした女の子。


 今のわたしとはまるで正反対。


 だからきっと、告白しても返ってくる答えはごめんなさいで決まっている。


 もしそんなことになったらあいつと気まずくなって、一緒にいられる時間さえなくなってしまうだろう。


(そんなのやだ……嫌われたくない)


 ずっと一緒にいたいってわたしは思っているけど、あいつはきっと、そんなこと微塵みじんも思っていないんだろうな……。


 わたしにとっての一番はあいつでも、あいつにとっての一番は、きっとお姉ちゃんだ。


(ううん、あきらめるのはまだ早いわよね?)


 一緒に遊園地でデートしてくれたり、頭を撫でてくれるくらいだし、嫌われているわけではなさそうよね?


 だから、今は脈なしでも、いつかはわたしのことを意識させたい。


 今、あいつのことが好きな女の子もわたし以外には多分いないと思うし、なんとかできる……と、思う。


 でも、あれだけいろいろ恥ずかしいこともして誘惑してきたのに、あいつは魅了できなかったのよね……なんか自信なくなってきたかも。


 それに、あまり考えたくないことだけど、お姉ちゃんがあいつのことを好きって言い出す可能性もないわけじゃない。


 そうなったら、きっとわたしが勝つ確率はゼロになる。


 大好きなお姉ちゃんがわたしの最大のライバルになるなんて、これは皮肉なんだろうか。


 そもそも、わたしがお姉ちゃんに勝てることってなんだろう?


 料理はできないことはないけど、お姉ちゃんみたいに人に出せるようなレベルじゃないし、勉強は言わずもがな。


 現役でこの辺りで一番偏差値の高い大学に合格しちゃうんだから、クラスで平均点を取るのに四苦八苦しているわたしとは比べようもない。


 あいつの好きそうなおしとやかで清楚なふるまいとか、女の子らしさという観点でも負けている。


 わたしはがさつで言葉遣いもよろしくない。


 格好だってアイツ基準ではビッチだし、趣味だって漫画やアニメにゲームで女の子らしさからはかけ離れている。


 でも、その部分だけはあいつと趣味が近いところだからいいのかな?


 それから、女性らしい体型という意味でも負けていると思う。


 スタイルにはそこそこ自信があるけど、わたしは背も小さいし胸も控えめだ。


 とくにおっぱいは、お姉ちゃんと比較するとボリューム感がまるで足りていない。


 わたしのもそこまで小さくはないと思いたいけれど、メロンとリンゴくらいの差はあると思う。


 あいつが巨乳好きのおっぱい星人だったらどうしよう?


 そういう意味では、すでにスタート地点からお姉ちゃんに負けているのかもしれない。


 一般的な男の感性ってどうなのかな?


 あいつに対してはあまり参考にならないかもしれないけど、わたしは聞いてみたくなった。


「ねえ、みうみう? 男ってさ、おっぱいの小さい女の子のことをどう思うかわかる?」


「は? いまあたし喧嘩売られてますか?」


 いろいろと考えた末の質問だったのだけれど、わたしが考えていたことは当然みうみうには伝わっていない。


 あまりにも脈絡みゃくらくのない質問をしてしまったせいで、胸が小さいことを気にしているらしいみうみうは、自分のことをバカにされていると感じてしまったみたいだった。


「あっ……違っ、違うのよみうみう。べつにみうみうが小さいから聞いたとか、そういうわけじゃなくってね?」


 慌ててフォローしたけど、みうみうは鬼のようになってしまった形相ぎょうそうを崩さなかった。


「いいじゃないですかつむつむは! あたしよりおっきいし寄せればちゃんと谷間ができるんですから! 今の質問はどうやったとしてもないものは寄せられないあたしへの当てつけなんでしょ? そうなんでしょ!?」


「ほんとに違うんだって! わかりにくい質問しちゃったのは謝るから! あの男がお姉ちゃんみたいな人が好きだって言ってたから、男はみんな、お姉ちゃんみたいにおっぱいが大きい方が好きなのかなって思って聞いただけよ!」


「うう……おっぱいがでかい女なんて嫌いです。いいですもん小さくても……肩こらないですし、あせもできにくいし、年をとっても形が崩れない予定ですし……」


 どうやら彼女の触れてはいけない部分に触れてしまったようだ。


 いじけてしまった彼女をなだめるのにしばらく時間を要してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る