第28話 みうみうの秘策
「はあ……やっぱりもっと過激なことをするしかないのかな?」
「どうしてそういう発想になるんですか?」
「だって他に方法が思いつかないし、あいつにだけは絶対に思い知らせてやりたいもん」
「それで勝ったとしても、もっと大事なものを失う可能性のほうが高いと思いますよ?」
また自爆して自分の傷跡を広げるつもりなのでしょうかこの人は?
「だって、あの男はわたしのことビッチって言い出したあげく、ビッチなんかに死んでも魅了されてたまるかとか言い出すし、そんなこと言われて黙っていられないじゃない!」
「いや、それだけのことをしてきたのなら、その勘違いも正当な評価なのでは?」
「わたしビッチじゃないもん! あの男がわたしの何を知ってるっていうのよおぉ……」
「はいはい、つむつむがまだ何の経験もしていないおぼこちゃんで、漫画のようなロマンチックな出会いと、胸がきゅんとするようなファーストキスに憧れている純情な女の子であることはあたしが知ってますよ」
あたしは泣きついてきたつむつむの頭を撫でてあげました。
この子は派手な見た目で強気な性格に見えがちですが、実はけっこうな甘えん坊だったりします。
でも、つむつむの髪の毛はほんとにサラサラしてて、すごく手触りがいいです。
くせっ毛で、ショートカットにしてポニーテールにまとめないと頭がわかめになってしまうあたしとは正反対です。うらやましい。
「……でも、ほんとに意味わかんないのよそいつ。俺は誇り高き童貞だとか言いだすしさ」
おや、いつもどこかで聞いているような話ですね……?
「誘惑して魅了しようとしても、筋肉は女と違って裏切らないんだとか言い出して無視して筋トレ始め出すし、理想の女の子は清楚で可憐でおしとやかなお姉ちゃんみたいな人だって長々と語り始めたあげく、処女であるなら最高だとか言ってて気持ち悪いし……」
ちょっとまってください。
基本はかっこいいけど色々と残念で、たまにものすごく気持ち悪くなるせいですべてを台無しにしているあの男と共通点がありすぎませんか?
「でも、そのくせ変なところで優しいし、紳士だったりしてさ……あと、わたしと趣味がすごく合うの。わたしたちが好きなゲームもちょっと前までやってたみたいで、好きな漫画とかも同じだから話しやすかったり……」
いやいや、そんなまさか。
いくらなんでもつむつむの家庭教師の先生が兄さんだなんて、そんな偶然あるわけが……。
「あと、悔しいけど勉強は教えるのうまいし……ほんとに男ってよくわかんない」
「……ちなみにその男の名前はなんていうんですか?」
「けっこう珍しい名前だったわよ。入口の入に、なんかちょっと難しい方の
はい、これで確定しました。間違いなく兄さんです。
家庭教師のバイトを始めて女子高生に勉強を教えているとか言っていましたが、まさかその生徒がつむつむだったなんて。
というかこの人、さっきパンツ見せて誘惑したとか言ってませんでしたか?
いったいどうしてくれましょうか。兄さんの記憶を消す方法をすぐに検索しなければなりません。
頭への打撃か、薬か、電撃によるショックあたりでなんとかなるでしょうか?
「どうしたのみうみう? なんかすっごい難しい顔してるけど」
「いえ、考え事をしていただけです。なんでもありません」
でも冷静になって考えてみると、このままにしておくのもいいかもしれないとあたしは思いました。
これは兄さんに、女の子へのイメージを改めてもらうチャンスです。
理想の女性のハードルが異様に高く、肌を見せるような格好をしている女の子に対して嫌悪感をむき出しにしているあの兄さんを、つむつむのような過激な女の子と触れ合わせることで、こじらせてしまった
なにより、この二人が今後どうなっていくか面白そうです。
まさか付き合ったりすることはないと思いますが、どうやらウマが合っているみたいですし、今後もつむつむと仲良くする上で、兄さんとつむつむが顔見知りというのは悪くありません。
兄さんは実際に勉強を教えるのもうまいですし、つむつむが勉強できるようになるのもいいことです。
いいことづくめではありませんか。
それから、二人を陰からこっそりとからかうというのも楽しそうです。
さっそくあたしは、つむつむにひとつ提案をしてみることにしました。
「つむつむ、押してダメなら引いてみるべきじゃないでしょうか?」
「引いてみる?」
「はい、エッチな格好でだめなら普段の服装を変えてみるのです。その男の好みの女性を研究してそれを再現してやれば、その男もつむつむの
「あいつの好みの女性……ってことは
兄さんの部屋にある抱き枕に印刷されたキャラの名前が出てきました。
どうやらあの男はつむつむにも自分の好みのキャラを語って聞かせているようです。
ほんとうにどうしようもない人です。
「いえ、コスプレなんてしなくてもいいんです。実は秘策があります」
「秘策?」
「任せておいてください。あたしの言うことに間違いはありません」
「……急に自信満々になったわね、ほんとかしら?」
「はい。というわけで、今から買い物に行きましょう!」
「……わかった。みうみうがそこまでいうなら、信じてみる」
あたしは面白くなってきて、にっひっひと笑いました。
今まで聞きたくもない兄さんの理想の女の子語りに付き合わされてきたあたしにとって、兄さんの好みの服装を選ぶことなど赤子の手をひねるくらい造作もないことです。
あたしの本気を見せてやりましょう。
あたしは次の兄さんのバイトの日が楽しみになったのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます