第43話 日葵さんとイケメン野郎
今日は木曜日。
ようやく大学の講義をすべて終えた俺は、ゆっくりと帰路に着いていた。
歩きながら考えるのは、昨日の月麦のおかしな態度についてだった。
いつもなら日葵さんと俺が話しているだけで眉を吊り上げて突っかかってきて、お姉ちゃんに何をしているんだこの変態などと言いながら会話の邪魔をしてくるのに、昨日はずっと部屋から出てこなかった。
最初はあいつが俺を魅了しようとして、また何か悪巧みをしているんだろうと思っていた。
ところが俺が月麦の部屋に向かっても彼女が誘惑してくることはなく、無言で机に向かって勉強を始めようとするからめちゃくちゃ驚いた。
今度こそ風邪を引いたんじゃないかと思って心配になり、俺が額に手を当てて熱を測ると、月麦は顔を赤くして小さく声をあげ、俺の手から弾かれたように逃げ出すと部屋から飛び出していった。
なんだか避けられてるみたいでショックだった。
最近は一緒に楽しく話せるようになってきたと思っていたから、余計にそう思った。
月麦はそのあとすぐに部屋に戻ってきたが、俺が大丈夫かと聞いても、なんでもないとしか答えてくれなかったし、
もしかしたら何か悩みを抱えているのかもしれない。
俺に力になれることがあるならなってやりたいとも思うが、月麦が何も言ってこない以上は、俺は相談してくれるのを待つことしかできなかった。
悩みを相談してくれるほど、いつかあいつに信頼してもらいたいなあ。
そんなことを思いながらキャンパス内を歩いていると、俺の前からモテモテイケメン野郎の
今日も周りに何人もの女の子をはべらせている。
嫌な奴に出会ってしまった。
俺は関わりを持たないように、すぐさま距離をとって離れようとした。
「あ、
「え、俺にか?」
桜井は女の子たちに爽やかな笑顔で手を振って別れ、俺の元までやってきた。
なんでこいつはいつも俺に近づいてこようとするんだよ、俺が避けてるのがわからねえのか?
「……なんの用だ?」
「少し気になることがあってね。先週の日曜日、駅前を女の子と二人で歩いていたよね? もしかして入之波くんの彼女かい?」
うげ! それは間違いなく月麦のことである。なんてところを見られてしまったんだ。
というか、こいつは俺から何を聞きたいんだ? さっぱりわからん。
そんな俺の気持ちを完全に無視して、桜井は人懐っこい笑みを浮かべた。
「前に一緒に女の子たちと遊びに行こうと誘ったとき、あまり乗り気じゃなさそうだったからさ。彼女がいるのに誘ったことが気に
あいつは彼女じゃないし、謝らなくていいから俺に積極的に関わらないでほしい。
生きる場所が違うだろうがお前は。
空を飛んでいるやつがわざわざ地上に降りてきて、お前は空も飛べないのかと嫌味を言いに来るなと言いたい。
俺が桜井になんと説明をしようかと頭を悩ませていると、通りがかった日葵さんが俺の姿を見つけて近くまでやってきた。
ああああ! こいつにだけはこれ以上、日葵さんを関わらせたくなかったのに!
「こんにちは大地くん……と桜井くん。珍しい組み合わせだね? 二人はお友達なの?」
そんなわけあるかと叫びたかったが、本人の目の前でそれをいうこともできず、はい、まあ、あはは。なんて苦笑いをしながら無難な返事をしてしまった。
もっと強くなりたい。
「こんにちは
「ああ、それは多分、うちの妹だよ?」
「ちょ、ちょっと日葵さん!?」
誤魔化しておこうと思っていたのに、まさか日葵さんからその事実をぶっちゃけられるとは思っていなかったので、俺は焦った。
「大地くんはうちで妹の家庭教師をしているんだ。二人はそこで仲良くなったからお出かけしてたんだよ。ね?」
「あ……は、はい」
日葵さんに流されるようにして返事をしてしまう。
まあ、全部事実なんだけど。
「そういうわけだから。大地くん、話が終わったなら一緒に帰ろう?」
「え? ひ、日葵さん?」
「じゃあまたね、桜井くん」
日葵さんは俺の手を取って、桜井のところから離れていった。
俺が手を握られてドギマギしていると、日葵さんは申し訳なさそうに頭を下げながら小声で俺に耳打ちした。
「ごめんね、急に連れ出しちゃって。大地くんが困ってるみたいだったから」
ああ、やっぱり日葵さんは俺の天使だった。
こんなところでも俺の心に優しさを染み渡らせてくれるなんて。
「ありがとうございます日葵さん。おかげで助かりました」
「ううん、いいの。ここだけの話なんだけどね、私もあの人のこと苦手だから、大地くんの気持ちがわかるなって」
「そうなんですか?」
「あの人はいい人だとは思うんだけど、なんだかちょっと怖いっていうか……別に何かをされた訳じゃないんだけどね」
それを聞いた俺は安心して、心の中で何度もガッツポーズを決めた。
ざまああああああ!
桜井よ、お前の狙っている日葵さんはお前のこと怖いってよ!
今後は俺が、怖がる日葵さんをあのイケメン野郎から守ってやらねば!
そう決意して俺は桜井の方を振り向き、敵意をむき出しにした視線を送ると、桜井は唇を歪めて不気味に笑っていた。
その顔を見たとき、俺は背筋にぞくりと不快なものがこみ上げてくるのがわかった。
やはりあいつとは、ウマが合いそうにない。俺はそう思わずにはいられないのだった。
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