第33話 それってデートですよね?
「おーい、みうみう。お前に大事な話があるんだが」
今日は
久しぶりに俺の家に遊びに来た妹に、俺は物申したいことがあった。
あえてハンドルネームで
どうやら話があると言われた原因に心あたりがあるようだ。やっぱりかこいつ。
海羽はしばらくどんな対応をしようかと頭を悩ませている様子だったが、結局諦めたのかウインクしながらこういった。
「兄さん、最近の家庭教師のバイトはどうでしたか? 誘惑されてうれしかったですか?」
「開き直りやがったなこいつ!?」
てへ、と舌を出す妹。
くそ、そんなところもかわいいからお兄ちゃんつい許しちゃう。
「にっひっひ。でも、つむつむすごく可愛かったでしょ?」
「つむつむ?」
「兄さんが勉強を教えている生徒のことですよ」
「ああ、月麦のことか?」
「へえ、つむつむの本名は月麦というのですか。初めて知りました」
そういえばあいつも海羽の本名を知らないって言ってたな。
「ああ、
「さあ、なんでなんですかね? あたしも理由があるなら聞きたいです」
本当によくわからない関係だなこいつら。
「ともかく、つむつむの格好はあたしがコーデしたんですよ? 兄さんの好みにばっちりはまったんじゃないですか?」
「正直驚いた。俺の好みを完全に反映していて、びっくりするくらいかわいかったから」
「おや、兄さんもしかしてつむつむに惚れちゃいました?」
「いや、それだけは天地がひっくり返ってもありえん」
月麦は見た目だけは
つまり、俺が好きなのは日葵さんのような人である。
「そうなんですか? うーん、兄さんにはつむつむの魅了が効かないっていうのは、やっぱり本当のことなんですかね……」
「あれ? お前あいつの力のこと知ってるの?」
「はい、知ってますよ。つむつむは魅了魔法が使えるんですよね?」
そうか、海羽はそのことを知っていたのか。
それを知ったうえであいつと友達でいるってことは、ちゃんとあいつにも対等な関係でいてくれる友達がいたんだな。
俺はそれを聞いて安心した。
日葵さんもこのことは知っているのかな。今度教えて安心させてあげよう。
「それより、あたしは兄さんに聞きたいことがあるんです」
海羽はそう言って俺の近くまでやってきた。
「兄さんはつむつむのパンツ、見たんですよね?」
「ぶーーっ!?」
真顔でそう聞いてきた海羽に、俺は思わず噴き出した。
「いや待て、それは事実なんだが……」
「やっぱり事実だったんですか……最低、最低ですよ兄さん! あまりに不潔すぎます! 女子高生のパンツを見るために家庭教師のバイトを始めたんですねこの変態! あたしの想像通り、俺が夜のお勉強を教えてやるよぐっへっへってやってたんじゃないですか!」
「違うっつーの! 誤解だ! というかお前も月麦から話を聞いてきたんじゃないのか? あいつが俺を誘惑しようとして勝手に見せて来たんだって!」
「それは聞いていますが、そんなの見た方が悪いに決まっているじゃありませんか!」
「無茶言うな!? いきなり目の前でスカートまくり上げるとか誰が想像できるんだよ!? 回避不可能なことだっての!」
「知っていますか兄さん? 女性が男性に無理やり性的なことをされたと主張したとき、国家権力はいつでも女性の味方だということを」
「やめんか! 俺をどうしたいんだお前は!?」
妹が怖すぎる。このままだと俺はいつか性犯罪者になりかねん。
「しかもしかも、つむつむがテストでいい成績を取れたからって、明日は二人でお出かけするっていう話じゃないですか! いったいどういうことなんですか? ぐっふっふっふ、俺がテストでいい点を取れたご
「前も聞いたけど、お前のなかでお兄ちゃんのイメージどうなってんの?」
「でも、どう考えても兄さんがつむつむのこと狙っているようにしか見えないんですよ!」
「いやいや、確かに明日はあいつと出かけることになっているけど……というか、それもどこで知ったんだよ?」
「つむつむがゲーム内チャットで言っていました。家庭教師の男にテストで
ということは、俺が月麦に言ったこととかあいつにされたことは、全部海羽に筒抜けってことか? やりづれええぇ!
「話を聞く限り、その日は夜遅くまでずっと一緒にいる予定みたいじゃないですか。兄さんはつむつむをいったいどこのホテルに連れていくつもりですか?」
「なんでホテル限定なんだよ! そんなとこ行かんわ!」
「ホテルに行かないってことは……まさか野外でするんですか!? 最初から野外なんてマニアックすぎますよ、兄さんの
「お前はいい加減そういう発想から離れればあ!?」
俺はこのむっつりスケベな妹の将来が心配である。兄妹の変態の血はやはり争えないのだろうか?
「夜まで一緒に居るのは別に変なことをするためじゃねえよ! あいつがケーキも食べたいって言い出したから、帰りに寄って晩御飯もついでに食べに行こうって話になっただけだ。だいたい、あいつとはそんな関係じゃないし、間違いなく向こうもそんなこと思ってねえぞ? ただ一緒に遊びに出かけるのに俺が便利だったってだけだよ」
「何それっぽいことを言ってごまかしてるんですか? 休日に年頃の男女が二人で出かけるんですよ? どう考えてもデートじゃありませんか」
海羽は俺に詰め寄ってきた。
あいつと出かけるという時点では考えもしなかったが、言われてみればこれはデートなのか?
「それで二人でデートして、帰りは兄さんの家に連れ込んで、今から補習授業をするぞうへへへ……とか言いだしてエッチなお勉強するんでしょこの変態! 不潔! 大バカ兄さん!」
「ほんと妄想がたくましいよねお前!?」
あと、妄想の中の俺が毎回キモい笑い声をあげてるのなんなの?
「だから兄さんがデート中に大恥をかいてしまわないように、あたしが今からデートについてレクチャーしてあげます。女の子を喜ばせるにはどうすればいいのかを手取り足取り教えてあげますから、感謝してくださいね」
「いや、相手は月麦だしそんなの必要ないと思うんだが……」
そもそも、海羽も俺に教えられるような恋愛経験なんかしてないと思うんだけど?
「何を言っているんですか兄さん! つむつむという一人の女の子を喜ばせられないような人が、今後のデートでほかの女の子を喜ばせられるはずがないんです!」
海羽の言っていることは一理あるかもしれない。
日葵さんをデートに誘って出かけられる日が来たときに、まったくリードできないのは男として非常にまずいだろう。
「つむつむだって基本あまり外に出なくて勝手を知らないんですから、兄さんがエスコートしないとダメですよ。兄さんは黙ってあたしの言うことに従ってください!」
もう抵抗するよりおとなしく言うことをきいておいた方が丸く収まりそうだ。俺は海羽のレクチャーとやらを受けることにした。
「やっぱりデートに行くなら最初は待ち合わせからですね。こういうのは、待った? ううん、今来たところだよから始まるものですから」
本当にそうなのか? 俺はいろいろと突っ込みたくなったがとりあえずは黙って話を聞いておいた。
「にっひっひ。デートは計画を立てているときが一番楽しいです」
「なんで行くわけでもないのに海羽が一番楽しそうなの?」
そこまで楽しそうに計画を立てられるなら、もう海羽が一緒に行ってやればいいのではないだろうか?
そうすれば月麦も喜ぶし、すべてが解決する気がする。
俺は海羽にそう伝えたのだが、結果は月麦が海羽を遊びに誘ったときと同じだった。
「バカ言わないでください。こんな人が多いところ、わざわざ外に出かけてまでいくような物好きじゃないです」
「もっと人が多いコミケとかゲームの公開イベントに行ってるお前がそれ言う? ほんと引きこもりオタクの
「ちなみにあたしの理想のデートは、家で和菓子を食べながら一日中ゲームするか、一緒に手を繋いでイベントに出かけるかの二択です」
「お兄ちゃん、妹の将来がかなり心配だよ……」
そして、海羽の長い長いデートレクチャーが続いていくのであった。
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