第13話 月麦の部屋着
時は進んで日曜日の夕方、今日は
家庭教師は週に二回行うことに決まった。日曜日と水曜日だ。
今回は真面目に勉強を教えるために、月麦のテスト結果も分析してきた。
奴は英語や国語の方が苦手だった。
数学や理科は答えを間違えていても考え方はあっていたりしたので、コツを掴めば伸びていきそうだ。
だから、しばらくは得意を伸ばすことに集中して、勉強がわかるという楽しさを教えてやることを目標にした。
俺はあいつのことは嫌いだが、先生としての責任はきちんと果たしたいと思っている。
なにより、あいつをうちの大学に入れてやるって日葵さんと約束もしたからな。
そのためには、偏差値をあと三十近く上げる必要があるのだが……。
そんなことを考えながら家の前までやってきたら、なぜか月麦が玄関の前に立っていた。
ひらひらした黒の短いスカートにレースのついた白のキャミソール、そこに薄いシャツを一枚だけ
童貞の俺には刺激が強すぎる見た目だが、ここはあいつの家だからどんな格好をしていてもあまり文句も言えないのがつらいところである。
(でもやっぱりこいつ、めちゃくちゃかわいいよな……)
黙って立っていれば本当にただの美少女だ。男が放っておきそうにないその愛らしさは、さすがサキュバスというだけはある。
残念ながら口を開けば、とたんに無茶苦茶なことを言い出すワガママビッチに様変わりするのだが……。
俺が遠くから月麦のことを眺めていると、ふと彼女と目が合った。
そして、俺の姿を見つけた月麦は敵意のある視線をこちらに向けてきた。
「やっと来たわね、首を長くして待っていたわ。さあ、早くわたしの部屋にきなさい!」
「そんなに勉強したかったのか?」
「ちがいますぅー!
なっ!? こいつ、俺の唯一の癒しの時間を潰そうとしやがって! それが俺にとってかなりの痛手になることを理解してやがる。
やっぱりあのとき、日葵さんは俺の理想を体現しているだなんて口を滑らせるんじゃなかった。口は災いの元とはこのことだ。
「くっ、卑怯者!」
「何とでもいいなさい! それと、部屋に入ったらわたしと勝負するのよ!」
「月麦? 誰か来たの?」
「あ、大地くんだ。今日は月麦のことよろしくね」
「ちょっとお姉ちゃん!? 出てきたらダメだってば!」
「どうして? 大地くんに挨拶しなくちゃだし」
ああ、日葵さんは今日も
そこの残念な妹と違い、家でもきっちりとおしゃれをして、むやみに肌を見せない清楚な格好をしている。
休日にその姿を見れたこともあり、月麦との会話で削られた俺の体力がぐんぐん回復していくのがわかった。
「挨拶なんかしなくていいの! あんな変態と会話なんかしたら妊娠しちゃうわよ!」
「話したくらいじゃ妊娠しないよ?」
「いや、理論的にはお姉ちゃんの言う通りなんだけど、そうじゃないんだってば!」
月麦は俺に日葵さんの姿を見せないようにしようと両手を広げていた。
月麦の方が背も小さいから隠せてないし、日葵さんがニコニコと笑いながら俺に向かって手を振ってくれているので、その努力は無意味なものになっているのだが。
「と、とりあえず中に入りなさい。話はそれからよ」
月麦は日葵さんを連れて家の中に入ってしまった。俺も玄関をくぐってその後に続いた。
「大地くん。いらっしゃい」
中に入ると日葵さんが笑顔で俺を迎えてくれて、冷たい麦茶を入れてくれた。さすがは俺の天使、癒される。
そして隣は血の池地獄。月麦が俺をにらみつけてくる。
俺と日葵さんが一緒の空間にいることがどうやら耐えられないらしい。
「ほら、早く部屋にいくわよ! 今回はわたしも全力であんたを魅了しにいくからね!」
月麦は俺の手を掴んだ。なんで勉強をしないためにここまで一生懸命なんだこいつは?
「お姉ちゃんはここで待ってて。これはわたしとこいつの真剣勝負なんだから!」
「ふふ、心配しなくても私はここで待ってるよ。月麦の勉強を邪魔したら悪いもん」
「ええええ!? お姉ちゃん、わたしが勝負に負けるって思ってたの?」
「うん、そうだよ。負けたらちゃんと勉強してくれるからね」
「そ、そうだった。今のわたしには味方がいないんだった」
月麦は悔しそうに唇を噛んだ。
「でも、こいつが家庭教師なのは今日までだからね! 今日でこいつは首になるんだから。ほら、早くこっち!」
「おい、あんまり引っ張んなって!」
そうして俺は、そのまま月麦の部屋に連行されたのだった。
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