第14話 勝負はパンツと筋肉と
「さあ、始めるわよ!」
月麦はそう宣言したが、これから始まるのは残念ながら健全な勉強ではなく、このビッチによる童貞狩りである。
だが、今回の勝負は俺に
前回は魅了魔法があるとは知らず不意打ちを食らってしまい
服装は俺の好み(妄想の中の彼女が自分にさらす無防備な姿)に近づいているから魅力度は上昇しているものの、こいつの中身は俺の大嫌いなビッチであるということがわかっているから、この程度では俺の誇り高き心は揺るがない。
今回は自分を全力で殴りつけて、ぎりぎりで理性を保つ必要もないだろう。
こいつの魅了魔法を鼻で笑って耐えて見せて、誇り高き童貞は
そんなふうに考えて俺は身構えていたのだが、月麦はじっとこちらを見つめたまま深刻な表情を浮かべて固まっていた。
「こ、今回は本気なんだから!」
彼女はなぜか泣きそうになりながら、スカートの
「わかったから早くしろよ?」
「うるさいわね! こっちにも覚悟がいることなのよ!」
何がしたいんだこいつは? こいつにとって男を誘惑することなんか日常茶飯事なんだから、いまさら覚悟もへったくれもないだろうよ?
「ちょ、ちょっとだけ待ってなさい。すううぅ、はああぁ」
月麦は深呼吸を始めた。それからよしっと気合を入れ、クッションを引いて床に座っていた俺の顔までの距離がほんの数十センチになるまで一気に近づいてきた。
「えいっ!」
月麦の声と共にふわっと優しい風が起きる。
目の前にひろがったのはスカートの内側、健康的な赤みを
スカートの絶対領域から覗いていた足は空気に
そして、その女性の大事なところを守っているたった一枚の薄い布切れが俺の思考回路をプツリと焼き切った。
端的に
「な、な、な、何やってんだおまえぇぇ!」
俺が見上げると、スカートを
白い肌のせいでその頬は気の毒なくらい
ビッチってみんなこんなことしてんの? というか、そこまで恥ずかしいならやめとけばよくない?
でも、俺はそこから目が離せなかった。男にとっては未知の領域、神秘的なその造形をまじまじとみつめてしまう。
これは俺の嫌いなビッチのだぞ? 誘惑に負けたらお前の誇りは砕き散ってしまうぞ?
理性がそう叫んで
この瞬間の光景が、一生忘れられない思い出になったのは言うまでもないだろう。
「い、今よ! わたしのいうことを聞きなさい!」
そして月麦と目が合う。
きらりと光るその瞳に吸い込まれるように魅入られて、初めて魅了魔法をかけられたときと同じように、俺の理性がバラバラに崩壊しそうになる。
「ふおおおおおお!?」
これは前回よりもやばいかもしれない。強烈な快感と興奮、それから彼女に対する忠誠心と満足感が全身を駆け巡った。
「ほら、気持ちいいでしょう? いい子だから、そのままわたしに身を預けて……」
月麦の声に導かれ、そのまま自分のすべてをさらけ出して甘えてしまいたくなる。
幼い子供ころ、母親に抱っこをねだるときのように、安心感を求めて俺の心が
(もう……だめだ!)
俺はその耐えがたい誘惑を受け入れようと、あきらめかけたそのときだった。
(本当に、それでいいのかい?)
俺の身体から、ひっそりとささやくような声が聞こえてきた。
(だ、誰だ?)
(誰だ、なんてつれないな。いつも君と一緒につらいときを乗り越えて来たというのに)
声が聞こえてくるのは太もものあたりからだった。
(まさか君は、
俺の身体を形作る筋肉が、不意に俺に意志を伝えてきたとでもいうのか?
(そうだ、いつも君がスクワットで
(まさか、お前が意志を持って話しかけてくれるなんて!)
(相棒のピンチだからね。君が僕を鍛えるときにいつも
(そ、それは……でも、もういいんだ。だってあいつの見た目はめちゃくちゃ俺の好みでかわいいし、パンツを見たせいで興奮して、あの強力な魅了魔法に心がやられちまった)
(……君は何のために身体を鍛えていたのか忘れてしまったのかい?)
大腿四頭筋は寂しそうに言った。
(たとえ心が負けそうになっていたとしても、その
俺ははっとした。毎日のように食事を管理してプロテインを飲み、
(他にも君のことを心配している子たちがいるよ。君が過去の辛かった記憶を乗り越えるためにプッシュアップをしているとき、いつもそばにいてくれた
(お、お前たちまで……)
(背筋もいるぞ!)
(
そうだ、俺にはこんなにも心強い仲間がいるじゃないか!
俺が失恋して枕を濡らしていた夜も、辛くて起き上がらない筋肉痛があった夜も、いつもそばにいて俺を物理的に支えてくれた仲間たちが!
(ふっ、いい目をするようになったじゃないか。もう大丈夫そうだな)
(ああ、お前たちに助けられたよ。今日の筋トレメニューを楽しみにしておいてくれ、心地よい疲労と、充足感のあるパンプアップをお前たち全員に届けてやるぜ)
(楽しみに待っている。だが、オーバーワークはするんじゃないぞ)
最後にねぎらいの言葉をかけて、俺の相棒たちはあるべきところに帰っていった。
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