第12話 海羽の暴走
「ふおおぉ! いったいなんですかこの色とりどりの宝物たちは。どうしてこんなものが
月麦の家庭教師を引き受けることになった次の日、
バイト代も六千円ほど出たということで、海羽が大好きな抹茶大福と
「それは海羽のために買ってきたんだよ、好きに食べていいぞ」
「兄さんがあたしのためにこんな高級和菓子を……? ひょっとしてなにか悪いものでも拾って食べたんですか?」
「お前もなかなかに失礼だよね? そんなこと言う子にはもうあげません」
「ああ、うそですうそです! 兄さんだーいすきぃ!」
海羽は甘えた声でそう言って、冷蔵庫の中から抹茶大福を取り出した。現金なやつめ。
「でも和菓子って、筋肉ダルマになろうとしている兄さんの私生活からもっとも遠い存在の食品だと思うのです。兄さんは甘いものほとんど食べないじゃ無いですか?」
筋肉ダルマってなんだ?
「プロテインは飲んでるし、カカオ多めのチョコレートくらいは食べてるぞ?」
「カカオ
海羽は俺の分もお菓子を準備して、お手製のお茶をさっと立ててくれた。できた妹だ。
「けっこうなお手前で」
「いいんですよ無理にそんなこと言わなくても。兄さんはお茶の違いなんて分からないじゃないですか」
「失敬な、ペットボトルのお茶よりちょっとにがいことくらいわかるわい」
海羽はそれを聞いて、にひひと笑った。
「でも、本当にありがとうございます。前に和菓子を買っておいてほしいとは言いましたが、ここまでしてくれるとは思いませんでした」
海羽はご機嫌で抹茶大福を頬張った。とたんに顔が
本当に美味しそうに食べるよな。これだけ喜んでくれたら買ってきた甲斐があるというものだ。
「それにしても不思議です。こんないいものを買うお金、ドが頭につくほど貧乏でケチな兄さんがどこから仕入れてきたんですか?」
「食べ終わったら急にまた失礼になるよね?」
「まあ、いいものを買ったのは海羽に対する感謝と、それから謝罪も込めてるからな」
「何に対する謝罪ですか? お礼はなんとなくわかりますけど」
「それは想像に任せるよ」
昔、親を取られたと思っていじめていたことだよとは口が裂けても言わないからな。なんか恥ずかしいし。
あと、海羽が考えているような内容のお礼ではないと思う。だって日葵さんを名前で呼べるこようになったことに対するお礼なんだもん。
「ちなみに、お金のことは心配するな。最近バイトを始めたんだよ」
「兄さんがバイトですか? いったい何のバイトを?」
「家庭教師だよ」
「家庭教師ぃ~?」
海羽はいぶかしげな表情をこちらに向けた。
「まさか教え子は女の子じゃないでしょうね」
「女だがそれがどうかしたか?」
海羽は俺の肩にぽんと手を置いた。
「自首しましょう」
「なんでだよ!?」
海羽は悲しそうに首を振った。
「いくら兄さんが理想の女の子に振り向いてもらえないからって、ロリはだめです。ロリを育てて理想の女にする
「お前のお兄ちゃんに対するイメージってどうなってんの? ロリじゃないし、ちゃんと女子高生だよ? 年もお前と同じだって」
「女子高生?」
それが俺の最も嫌いなビッチであることがネックではあるが。
「兄さん不潔です! いったい女子高生に何をしようとしているんですか!」
「何もしねえよ! というか、俺の方が何かされてる側だわ!」
「そんなことあるわけないじゃないですか! 寝言は寝て言ってください!」
普通はそう思うだろうが実際にあるんだなこれが、俺だってまだ信じられねえよ!
俺が頭を抱えて黙っていると、さらに海羽が追い打ちをかけてきた。
「そこで黙るってことは、やっぱり何かやましいことがあるんですね? 最低ですよこの変態童貞兄さん!」
「ああああもう、何を言っても無理だろこれ!?」
変態で童貞なのは、事実かもしんないけどね?
「そもそも、家庭教師なんかしなくてもあたしに勉強を教えてくれればいじゃないですか! あたしなら夜の勉強を教えてやるよグッヘッヘなんて言いながら兄さんが気持ち悪い声で迫ってきたとしても、その
「んなことするかぁ!」
たまにあるこの妹の暴走癖は、本当に謎で何とかしなければと思う。これさえなければどこに出しても恥ずかしくない女性なんだが。
「言っておくけどな、お前が思い描いているほどいいものじゃないぞ家庭教師は」
女の子との出会いという意味では、日葵さんに会いに行っているという側面もあるからまったくの潔白というわけではないが、それでも断言できる。
「あそこは戦場だ。気を抜くと冗談じゃなく殺されてもおかしくない」
「家庭教師で死ぬって、ギャグ漫画ですか?」
「実際に命は落とさずとも、俺の心が死ぬんだよ!」
誇り高き童貞でいるという俺のポリシーが踏みにじられるという意味で。
「とにかく、これからもお前においしい和菓子を買ってきてやるからそれでいいだろ?」
「むうう……それはありがたいことですが、やっぱり腑に落ちません。いつか兄さんの考えている本音を暴いてやりますから!」
妹に全く信頼されていないことが分かった休日の午後だった。
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