第2話 先輩と後輩

「スッゲェ…」


休憩が終わり、ニード平原を十数分歩いた所にあるダンジョンへやって来た。

ダンジョンの内装は洞窟ではなく、神殿の様な柱や装飾が施された所だった。


「ここは一層だ。ダンジョンは基本地下へと伸びていて、下層に潜るほど魔物は強くなる。それに、ダンジョンの魔物は自然発生する為油断はするなよ?」


ナーリヤさんがダンジョンの説明をしつつ、現れた魔物を一掃して行く。


「ん?あれは…」


ナーリヤさんが道の奥を睨むと


《・・・・・・・!》


ガシャガシャと音を立てて、鎧型の魔物が現れる。

そして此方を向き、盾と剣を構える。


「丁度良い。奴はガダンと言う魔物だ、各層毎に居るが下層に行く程鎧や剣、盾の耐久や戦闘術が変わる、戦闘訓練相手にはピッタリだ。」


そう言うと、ナーリヤさんは此方に振り向き


「ナナミ!やってみろ!」


「えぇっ!?私…ですか?」


ゆーちゃん先輩が突然指名され驚く。

だが、驚きながらも前に出てガダンと向き合い、刀を抜刀する。


「スゥー…」


ゆーちゃん先輩が一息。

そして、踏み出した。



【side七海】



「……!!」


《・・・・・・!》


一気に詰めより、首を狙った一撃を放つ。

が、ガダンはそれを見越した様に盾を構え、防ぐ。


(速い…)


《・・!》


ガダンが剣を私の腹部目掛けて振るうのを見て、素早くバックステップ。

間合いを取る。


(厄介だな、あの盾。)


互いが見合ったまま、武器を構え続ける。

奴の盾で一撃を防がれては決着は着かない。

どう攻略するか…


考えていると、ガダンが動いた。


《・・・・・・!!!》


ガダンは剣に雷を纏わせる。


(来るか!!)


だが、ガダンは私の足元に向けて剣を放ち


(前が!?)


煙が舞って視界が塞がれている間に詰め寄ったガダンは


「アガッ!?」


盾の側面で私の腹を殴りつけた。

重い一撃を喰らい、派手に後ろに飛ぶ。


「ガハッ…⁉︎ア…アア……」


あ…意識…が……









【side奏】


「ゆーちゃん先輩!!」


吹き飛ばされたゆーちゃん先輩に駆け寄る。


「………」


ゆーちゃん先輩は衝撃と痛みで意識が朦朧としている様だった。

目からは涙が溢れている。


「大丈夫、大丈夫だよ、ゆーちゃん先輩……」


何をすれば良いか分からず、無意識にゆーちゃん先輩を抱き締め、言葉を掛けていた。


《・・・・・・》


ゆっくりとガダンが俺達に歩み寄る。

そして、


「ハァッ!!」


ガダンの首が飛んだ。


「ソウ!ナナミを連れて後ろに退がれ!!」


ナーリヤさんが一瞬にして距離を詰め、ガダンの首を飛ばしたのだ。

ナーリヤさんの指示に従い、ゆーちゃん先輩を抱えて後ろに退がる。


「意識が朦朧としてるな。治癒魔法を掛けて睡眠魔法も掛けておこう。」


後衛の騎士団の魔法使いがゆーちゃん先輩の状態を見て魔法を掛ける。


「……」


スゥスゥと寝息を立てるゆーちゃん先輩。

一先ずどうにか…なったのか?


「ナナミ!」


ガダンを原型を残さず切り刻んだナーリヤさんが此方に来る。


「すまない…ナナミ……私の所為だ…私の所為で……全員!ダンジョンから抜け、王国に戻るぞ!!」



















【七海の部屋】


「…………」


取り敢えず、ゆーちゃん先輩を部屋に運んで少し経った。

今もゆーちゃん先輩は寝たままで、起きる気配はない。


「ゆーちゃん先輩…」


寝ているゆーちゃん先輩の髪を撫でているとコンコンと扉がノックされ開かれる。


「ナーリヤさん…」


「ソウ、ナナミは……?」


「特に苦しむ様子もなく、殴られた所も痕にはなってないです。」


それを聞いて、ナーリヤさんは少し安堵した様子を見せたがすぐに顔を暗くする。


「ナーリヤさ…」


「……んぅ…」


俺が話そうとした時、ゆーちゃん先輩が少し声を出す。


「!ゆーちゃん先輩!」


「…んぁ、奏?ナーリヤさん?」


「ナナミ!!良かった…本当に良かった……」


ゆーちゃん先輩が意識を取り戻し、俺とナーリヤさんは一安心する。

魔法で眠っていたとは言え、かなり不安だった。


「ナナミ、本当にすまない…」


ナーリヤさんはすぐさまゆーちゃん先輩に頭を下げる。


「えぇ!?なんでですか?ナーリヤさん。」


「あのガダン、本来はもう少し下層のガダンが行う攻撃をしていた。一層のガダンは剣撃と盾で防ぐだけのはずなんだが…ともかく、私は確認を怠り、ナナミを危険に晒してしまった何度も言うが本当にすまない!」


「私だって、ガダンの剣撃だけを警戒してしまったから隙を突かれる形になってしまったんです。私も油断していました。でも!もう大丈夫です!!」


何故だ?何故、ゆーちゃん先輩は恐怖を抱かない?

俺達は、戦う事を知らない、戦いの中に身を置いていた訳でも無いのに、恐怖に呑まれてしまっても仕方ないのに、ゆーちゃん先輩は…


「ゆーちゃん先輩、怖くは…無いんですか?」


「怖いよ?」


「だったら!何でもう一度戦おうと!立ち上がろうとしてるんですか!」


「…ガダンに殴られた時、痛くて辛くて苦しくて、本当にもうダメかと思った。だけど奏は、直ぐに私の所に駆けつけてくれた。私を抱きしめてくれた。」


ゆーちゃん先輩が俺を見て微笑む。


「怖いけど、奏がナーリヤさんが、皆んなが居てくれるなら私は何度でも立ち上がれるんだ。それじゃあダメかな?」


……この人は、本当に


「なーにカッコいい事言ってんですか、このロリっ子!」


ゆーちゃん先輩の両頬を引っ張る。


「私はロリっ子と呼ばれる程身長は低く無い!私一応156㎝有るんだぞ!ロリっ子と呼んでるのは君だけだろ!!」


「俺からしたらロリっ子なんですよ!ゆーちゃん先輩は!!」


「なにおぅ!!」


ナーリヤさんの目が点になり、部屋の空気が一気にコミカルなものに変わる。


「「「ぷっ、ハハハハ!」」」


俺、ゆーちゃん先輩、ナーリヤさんの笑い声が響く。

先程までの重苦しい雰囲気はなんだったのか。


「いや〜笑った笑った!ふぅ、私はサクライ先生に起きたと報告に行くよ。それに…」


「それに?」


「生徒を傷つけてしまった事を全力で謝らないとな。」


「「あ〜…」」


そう言えば、この世界に転移した時にオータムとか言うオッサンにそんな事言ってたっけか。


「じゃあ、しっかりと休んでいてくれ。」


そう言うと、ナーリヤさんは部屋から去って行った。








くぅ〜

ゆーちゃん先輩の腹の虫が鳴る。


「ん、腹が減ったな。良し後輩!!」


「はい?なんでしょ。」


「私を食堂まで連れて行けぇ!!」


ゆーちゃん先輩から、命令が下る。

ま、此処は命令を聞いてあげましょ。


「じゃ、運びますよーっと」


ゆーちゃん先輩を持ち上げる。


「おいちょっとこれ!?」


お姫様抱っこで


「さぁー行きましょうねーお姫様。」


「やめろー!分かった、降ろして良いから止めてくれー!!」


この後、すれ違う生徒や城の人達にガン見され、茹で蛸の様に顔を真っ赤にしたゆーちゃん先輩だった。


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助けたいから、俺は仲間を裏切る @moruni

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