仮初のとき

無月

第1話 惜夜

「赤い糸が見えたら良かったのに。」

薄暗い部屋の中で、君は急にそんなことを言い始めた。

「・・・どうしたのさ、らしくない。」

君と繋いでいる右手が汗ばむ。沈黙が苦しい。

「だって」

僕の目を見ずに、君はか細い声で言った。

「もし見えていたら、貴方と出逢ったりしなかった。」

「そんなこと、ないよ」

「でも」

繋いでいた手が離れる。

「今日でさよならでしょう」

微笑む、君。

何も言えない、僕。

「そんな顔、しないで。」

君の指先が微かに触れる。


「今日はまだ、恋人なんだから。」

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仮初のとき 無月 @yoshino0302

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