第3話 初クエスト
ノエルの両親が権力者というのは、本当だったらしくギルドの出禁も解かれた。パーティーを組むこともできたので、ノエルと共にクエストをこなすことにした。
記念すべき初クエストは、ゴブリンの群れの討伐。まだ実績がない俺達が受けられるクエストとしては、そこそこの難易度のものだった。しかし、俺はチート持ちの実力者。魔法で生み出した業火で効率よくゴブリンを消し炭に変えていった。
「おい、ノエル。こっちを見てるだけじゃなく、手伝ってくれよ」
「か弱い女の子に戦わせるなんて、甲斐性ないですね」
あの後も少し話していて理解したが、ノエルの性格はお世辞にも良いと言えなかった。
「そんなことより、どうしてゴブリンを焼いちゃうんですか? ゴブリンから取れる魔石なんかはそれなりに高く売れるのに」
「最初はしっかりはぎ取ろうと考えてたよ。でも、モンスターとはいえ動物の死体をいじくりまわすのは、俺にはきついんだよ」
最初はかまいたちを起こす魔法でゴブリンの首をはね、死体を物色していた。しかし俺は東京育ちで狩りの一つもしたことは無い。そんな俺には死体を解体する技術も度胸もなかった。
「情けないですね。そしたら、そっちは私がやっとくので、狩りぐらいはせめてまともにこなしてください。」
「今までサボってたくせに何て言い草しやがる...」
「なんか言いましたか?」
「別に何も」
こうして俺は狩りを担当し、ノエルは剥ぎ取りを担当する分担で、ゴブリンの群れを討伐した。特に問題が起きるわけでもなく、順調にクエストをこなし、ギルドへと帰還した。
***
ギルドに帰還し、受付に成果を報告することで、その日の分の報酬はその日のうちにもらえる仕組みとなっているらしい。
ギルドには、嘘をついているかが分かる特殊な魔道具があり、それで報告の真偽を見極められるようになっているのだとか。
「ゴブリン討伐完了しました。それとこちらが、ゴブリンの魔石です。」
討伐報告と共に回収した魔石等のアイテムも、ここで売れるようになっている。
「報告ありがとうございます。そうしましたら、こちらが今回の報酬です。魔石と合わせまして、1万ドレとなります。」
ドレはここ、アルデバラン王国の通貨であり、物価を見る限りでは、1ドレが1円程度と考えて良さそうだった。
そんなことより、俺は報酬額が10万ドレと聞いてこのクエストを受注している。貰える額がこれしかないのはおかしい。
「あのー。報酬は10万ドレだったと思うのですが?」
俺がそんな質問をすると、受付嬢とノエルは怪訝な顔をみせた。
しかし、俺が本当に理解が及んでいないことに気付いて、受付嬢は説明を始めた。
「基本的に、受注前に提示される報酬は額面です。そこから、クエスト仲介手数料、組合費、冒険者保険料、所得税等が引かれます。さらに佐野様の場合は、装備品も貸し出しですので、その分の費用も引かれております。」
「こんな常識も知らないなんてあなたは恥ずかしい人ですね」
ノエルに煽られたのにはむかつくが、なるほどそういうことだったのか。
「にしても、十分の一になるのはボッタくりでしょ」
「はぁ、やれやれ。それはあなたのせいですよ。佐野さんのせいで報酬減ってるのにその自覚もないんですから。」
「どういうことだ。それは?」
ノエルがよく分からんことを言いだしたので尋ねてみる。
「あなたたちみたいなチート持ちの転生者は簡単にクエストをこなせるでしょう?このことが一時期大きな問題になりましてね。この国の大臣が改革を始めたんですよ。」
「改革?具体的には何をしたんだよ?」
「ざっくり言えば転生者は、手数料、保険料、税金が現地人の10倍はかかります。」
「なんだそれ理不尽すぎだろ」
「そうでもないですよ。これを決めた大臣も転生者ですから。なんでも冒険者やってた頃は一般的な冒険者の100倍は余裕で稼いでたそうですから。あなたが無能なので、理不尽に感じているだけです。」
そう言われてしまえば言葉も出ない。
「そうは言われても納得できるもんでもないけどなあ。他の転生者は納得してるんだか。」
そんなぼやきに対して、受付嬢が反応した。
「確かに、佐野さんのようなお若い方は反感を持つ方もいますね。」
「お若い方?若くない人は文句言わないんですか?」
「20代以降の転生者の皆様は、説明を受けると、『まあ、手取りが大分低くなるのはどこの国も同じか』などと呟いて納得されてますよ。」
なんで、異世界に来てまで、社会人の闇を知らなければならないのだろうか。
額面とか手取りなんてファンタジー世界のフワッとした感じで流してほしいものだ。そんな苦い思い出として初クエストは終了した。
モテない奴は異世界でもやっぱりモテない 東雲幸人 @shinonome_yukito
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