第2話 オパビニア
そんなこんなで、ギルドを出禁になってしまった俺は、ギルドの建物前で一人佇んでいた。これからどうしようかと考えていると、少女から話しかけられた。
「あの、昨日問題を起こして、出禁にされていた
その少女は、服装こそケープにシャツ、スカートとシンプルなものだった。しかし、大きな瞳と整った目鼻立ち、そして肩程まで伸びたピンクの髪が華やかな印象を与えていた。
「もし、時間があったら私の話を聞いてくれませんか?」
日本で唐突に美少女から話しかけられた場合には、情報商材、マルチ商法、宗教勧誘等のリスクがある。しかし、ここは中世程度の文明レベルと思われるため、情報商材とマルチの可能性はほぼ無い。
「宗教への勧誘なら結構だ」
「違いますよ。昨日見た時も思いましたけど、かなりひねくれた方なんですね」
俺の見事な推理はひねくれ呼ばわりされた。宗教でもないとなると何なのか分からないが、話を聞く他にやることもない。
「まあそれなら、話だけなら」
「ありがとうございます! この辺にレストランがあるので、そこで話しますね」
***
「こんな美少女相手に奢らせるって、酷い人ですね」
「申し訳ないんだが、現在無一文なもので。お金が入ったら必ず返す」
この世界に来てから未だに無一文のため、奢ってもらう形になってしまう。会話が聞こえていたらしい店員からの冷たい眼差しのせいで心が痛い。
「仕方ないですね。こっちが話を聞いてもらう側なのでここの分くらい持ちますよ」
「ありがとう。それで話とは一体?」
見当がまるでつかないので、こちらから話を切り出すことにした。
「簡単に言うと、パーティー組める相手がいないなら、私と組みませんか?ってことです」
予想外の申し出に戸惑いを隠せない。
「自分で言うのもなんだが、ナンパまがいのことをして、ギルドから出禁になった人間とパーティーを組もうとするのはどうかと思うが」
「私の両親は少しばかり権力があるので、ギルドの出禁くらいすぐ解除させられます。それに、今のあなたなら私とでもパーティーを組んでくれると思ったんです」
私とでもという言い方から、この娘も、俺と同じく誰ともパーティーを組めない状況にあるようだ。しかし理由が分からない。
「申し遅れましたが、私はノエルと言います。実はこの辺ではある意味有名なテイマーでして……」
「テイマーっていうと、モンスターなんかを操ったりできる職なのかな?」
「そうなんですが、私が使役できる唯一の子が見た目の気持ち悪さで有名になってしまったんです」
それだけなら問題なさそうだ。見た目が気持ち悪いってだけならこちらが我慢すればよいだけだ。明日食う飯にも困るこの現状で、パーティーを組む相手を選り好みする余裕はない。
「それぐらいなら全然いいよ。君さえよければパーティーを組もう」
「ありがとうございます。そしたら私の相棒のイツメちゃんを紹介しますね」
そう言うと、彼女の足元に魔法陣のような物が描かれた。そしてそこから、五つの目と、長く伸びた口のような器官そして多数のヒレを持つ、奇怪な生き物が表れた。生物の授業で見た「オパビニア」という生き物によく似たそれは、恐ろしく気持ちが悪かった。
「みんな酷いんですよ。よく見たら可愛いのに、キモイとばかり言うんですから。佐野さんなら可愛さを分かってくれますよね」
ここで、この娘の評価を稼いでおきたい。そしたら俺の評価も上がり、日本への帰還も見えてくる。
「いや、これはキモイだろ(とっても可愛いね)」
思わず本音を言ってしまう痛恨のミス。ノエルの顔は明らかに不機嫌なものになった。そして、主人の不機嫌が伝わったのか、イツメとかいうオパビニアもどきも、憎悪を感じさせる目でこっちを見ている。事件が起きたのは次の瞬間だった。
「ヴォオオオオオ」
そんな鳴き声を上げたイツメの口から酸のような液体が俺の顔面に跳んできた。
「ぎゃああああああああああ」
俺は叫びながら床を転がった。顔が熱を帯び溶かされていく。まずい、何とかしないとと思った瞬間、神から貰ったチートスキルが発動した。
「
そう叫ぶと顔が、酸をかけられる前の状態に戻った。どうやら、俺のチートは時間を操るような高度なものを含めて、魔法を自在に操れるというものらしい。モテない奴に魔法使いの能力とはあの邪神らしい考えだ。
「あのー、魔法を放つときに技名を叫ぶのは、恥ずかしいのでやめた方がいいですよ」
「その前に謝ろうよ。人の顔に酸をかけたらまず謝るよね、普通は」
「イツメちゃんも反省してますから、許してあげてくださいよ」
「ペットの不始末は飼い主の責任だろおおおおおおおお」
俺は常識を説いているつもりなのだが、彼女の心には響かなかったようだ。こうしてなんとか俺はパーティーを組むことが出来た。騒ぎの代償にレストランも出禁になることと引き換えにしてだが。
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