第1話 出禁

 異世界に来て、二日目。ギルドの入り口にある張り紙を見て、俺は絶望の面持ちを浮かべていた。


『佐野恭二様


女性の冒険者の方々から、苦情が多数入っております。ギルドが管理する施設内における、女性への過度なお声かけはご遠慮くださいますようにお願いいたします。大変申し訳ございませんが、貴殿のギルド関連施設内への立ち入りを固く禁じさせて頂きます。


アルデバラン王国冒険者ギルド北方管区                   』


 事務的かつ丁寧なその文面は、ただでさえ荒んでいた俺の心を、奈落へと突き落とすのには充分であった。


 いったいなぜこんなことになってしまったのか。異世界に来た初日に思いを馳せてみる。


***


「中世ヨーロッパ風の街並みってやつだな」


 おそらくは、木造の骨格と、漆喰で構成されていると思われる建物群を見て、1人そう呟いてみる。しかし、世界史の成績は毎回赤点ギリギリのため、実際の中世ヨーロッパとやらが、どんなものかはさっぱり分からないのが正直なところだ。世界史と違ってアニメ鑑賞は熱心に取り組んでいたのが自身の美徳と思い直し、そんな思考を振り払う。

 

「ひとまず、ギルドとやらへ行くとしよう」

 

 異世界へ転移したのなら、ギルドへ赴くべきというアニメで学んだ知識を頼りに、とりあえずギルドを目指すことにした。


 ギルドまでの道を、街行く人に尋ねてみると、ここからすぐ近くだという。ギルドの付近に転移させてくれたのは、あの邪神のせめてもの温情だろうか。

 

 はたして、ギルドに到着した俺は、受付嬢から声をかけられた。


「見たところ異世界から来られた方でしょうか?」


 服装は日本人のものなので違和感が凄いのだろう。


「ええ、そうです。冒険者登録をさせていただきたいのですが」

「それでしたら、少なくとも一人はパーティーメンバーを用意して下さい」


 まさか異世界に来てまで、「2人ペアになって」とかいうボッチ殺しを受けることになるとは。


「俺はちゃんと、チートスキルを持っているので、1人でも無双できるんですよ」

「冒険者安全基本法に基づき、1人での冒険者活動は認められておりません」


 取り付く島もないとはこのことだ。仕方がないので、ペア探しをするしかない。だが、見方によってはこれはチャンスではないだろうか。


 俺は愛人を作らねばならないことを思い出した。「パーティーメンバーになってくれないか」という名目でなら女性に話しかけられるのではないかと考えたのだ。しかも、チートスキル持ちの俺なら、相手からしてもパーティーメンバーになる旨味は大きいはずだ。


 俺は早速、パーティー募集掲示板に、女性のみの求人を出した。また、ギルド内にいる人にも声をかけてみることにした。

 

 大剣を携えた美しいお姉さんを見かけ、スカウトのために声をかけてみる。


「そ、そこのお姉さん。俺と(冒険に)付き合ってくれませんか?」


 久しぶりの女性との会話に声が震えた上、テンパってしまい、変な誘い方をしてしまった。これではナンパである。


「えー、やだよ。あんた不細工だし」


 だめだ泣いてはいけない。こんなことで心が折れては、日本に帰るのは夢のまた夢だ。


「そういわずにさ~。俺、チートスキルあるから、ここのギルドにいる誰よりも金稼げるし、将来有望だよ」


 緊張と絶望から、場にいる大半の人を敵に回してしまった。


「そういう傲慢なところが、あんた達みたいな異世界人が嫌われる原因だって、なんで分かんないかなあ」


 その結果、怒ったお姉さんに大剣の柄で腹を殴られた。


 あまりの痛みに悶絶した上、ギルドから追い出されてしまった。

 

 結局、無一文な上、ギルドからも追い出されたため、その日は橋の下で一夜を過ごした。日本にいた頃にはここまで酷い目にあうことは無かったことを考えると、泣きそうになってしまう。屈辱と恥辱にまみれた俺の異世界生活は、こうして始まった。

 






 




 


 










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