モテない奴は異世界でもやっぱりモテない

東雲幸人

プロローグ

 異世界転生。それは誰もが憧れる理想。チートで無双するも良し、ハーレムを築くも良し。あるいは辺境でスローライフなんかもいいかもしれない。


なんて考え方をする奴とは話が合う気がしない。チートで無双?、他人から貰った力をふるったところで空しいだけだ。ハーレムを築く?、コミュ障がどうやってそんなことできる。スローライフ?、転生しなくても、田舎暮らしでもすればいい。


こんな現実的な異世界転生観を持つ俺が、異世界で生きることを余儀なくされるところから物語は始まる。


                ***


 俺、佐野恭二さのきょうじは、ごくごく一般的な高校生として、には恵まれた日々を送っていると感じていた。なぜ、主観的などという余計な枕詞がついてしまうかといえば、に見れば、高校生という青春の貴重な一幕を、彼女どころか、親しい友人もなしに過ごしているのは、不幸でしかないからだ。


しかし、客観的に不幸で何の問題があろうか。休み時間に話相手がおらず、ソシャゲに没頭していようが、休日の大半を家の中で一人で完結させようが、俺は自分の「リアルが充実」していると信じていた。

 

だからこそ、神を自称する老人から「死んだからには異世界に転生してもらおう」などと言われた現状でも、全力で拒否していた。


「お断りします。俺は、日本で学生を名乗りながら実質ニートとして、過ごすのが大好きなんです。どうか次の人生も日本で過ごさせてくれませんか?」

「それを聞いたら、ますますお主を異世界に送りたくなったぞ」

「そんな、殺生なことを言わないでください」


 必死の形相で頼み込むが、神様とやらは一切動じない。


「そもそも、お主が死んだのは、歩きスマホをして階段から転落したからだろう?それは自業自得だし、なんらかの償いをしてもらわないと、元の世界に戻してやることは出来ないのう」

「なんでもします。元の世界で来世も過ごしたいです」


 これに対して、神とやらは、どんな罰がふさわしいかに頭を悩ませ始めた。


 土下座の姿勢でこれを見守る。なんでもするとは言ったが、面倒は勘弁だ。


 だが、神はあまりに無慈悲だった。


「そうだな。お主は今までの人生で、人から愛された経験が不足しておる。その生き方を反省してもらうためにも、次の人生では、5人ほど愛人を作って貰おうか。それができれば、日本にもう一度、産まれさせてやってもいい」

「さては邪神だな、あんた」


 冗談ではないと思った。今までの人生でモテたことなど一度もない。こんな無理難題を達成するのは不可能と一秒で結論付けた。


「ほっほっほ、まあそういうわけじゃ。特別な力も与えてやるし、言語に関しても不自由なくしておいてやるから、そう邪険にするでない」


 神がそう言った次の瞬間には、目の前には未だ見たことのない街並みが広がっていた。


俺は絶望した。


 








 





  

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