第10話

「あれをこうして、あっちをこれにして…」


ユノが作ろうとしているのは、手に入れたアイテムの持ち運びを今後楽にするための袋だ。


ゲームでは欠かせないインベントリと言う便利な代物がない『ATD』でそれがあるかないかで、有利度は絶対に変わる。


特に大きいのは素材だ。


今で言えば、その場でネズミを解体して、肉や骨等を手に入れた後に、手に持つしかない状態になった上に戦闘時にはそれらの素材をその場に置いておくしかなかったのが、それがあれば両手が空くし、上手く行けばそのまま戦闘する事も可能になる。


現状ではそんな状況には遭遇していないユノだがこれは先々に必ずあるし、備えておいて損はない!多分……。


「シンプルな構造なら楽勝と思ってたけど意外と難しいな」


『ATD』にスキルと言うものは存在しない。

戦闘にも、生産にもだ。

なので、アイテムを作るならば、色々な物を手作業で組み合わせ、自分が必要なものを作る他ない。現状でだ。


「んー、なんとか形にはなったか?」


そうしてユノが作り上げたのが、ネズミの皮を袋状にして、毒噛みネズミの軟骨等を底にに敷き詰め、それをネズミの皮膚で繋いだ袋だ。


口についてもケーブルを紐代わりにして、出し入れをしやすくなっている。


また、腰に巻ける長さの紐と繋ぐことで、腰に提げる事も出来るようにした。

因みに使用したのは神社の本殿のようなものがあるところに散在していた紐だ。


「よし鑑定っと」


出来上がった袋に向けて『鑑定のルーペ』を使ってみる。


スキルなしのVRゲームであっても、アイテム名が変わってシステム的に袋に変化するはずだ。


「おー?」


だが、鑑定結果として表示されたのは毒噛みネズミの皮や紐であって、袋ではなかった。


形は完全に袋なのだが、システム的にはまだ袋と認識されていないらしい。


少し考えたあとユノは考えを出す。

「ああ、なるほど。ここで呪詛台なのか」


ではどうやれば袋になるのか。

決まっている。


呪えばいい。


毒隠れネズミが呪いで満たされているのが魂と前歯だけなのに、風化することなく個体として存在できるように。


私の血や肉は呪いの力を有していないはずなのに、それ以上呪詛を吸い込まないように。


この袋全体で一つの物質であると再定義されるように呪えばいいのだ。


「さて、どうなるのかな?」


ユノはコンクリートの呪詛台に袋を乗せる。


『鑑定のルーペ』で見た通りなら、生物でないこの袋は呪えるはず。


「ん?霧が動いて?……空気は動いていない」


それは奇妙な光景だった。

周囲の空気に見える赤と黒と紫が混じった霧。


それがゆっくりと呪怨台に集まっていき、呪怨台から袋へと移っていっている。


袋は少しずつ濃い霧に包まれいき、これでいけば遠くから見てもこの袋は濃い霧に覆われて見えなくなっているだろう。


「呪えられればなにか力を得るのか?」


ユノは毒隠れネズミの前歯や攻撃する時に意識すれば生えてくる手剣を思い出す。


毒隠れネズミの前歯は周囲の呪詛を利用して毒を生成するという力を持っている。


ならば、今呪われている最中であるこの袋も何かしらの何か力を得る可能性があるのではないかとユノは考える。


「どうせ得るならインベントリとして使える様な呪いを得て欲しくはあるな」


ユノが作った袋の大きさと強度では、結局持ち運べるのは前歯10本程。


鉄筋付きコンクリ塊のような重量物に至っては、一つ入れただけでも敗れかねない。


また、底に骨を敷く事で、鋭い前歯の先端が袋を破り袋から落ちるような事が無いようにしてあるが、側面にはそんな工夫はされていない。


まあ、色々と危ないのだ。


それを考えると、異世界漫画とかである中で物がどう動いても問題ない、入れるものがどんなに重くても問題ない、と言ったものは是非とも手に入れたいものだ。


「強い意志で祈ったらそう言う方向で呪えたりするのかも? 試すか」


呪いとは神仏その他神秘的なものの威力を借りて、災いを取り除いたり起こしたりしようとする術。人の怨念や強い念などが基となる。

らしい※ユノ調べ


実際には色々とあるのだろうが、根っこの部分が人の念である事は間違いないだろう。


そしてATDが人の脳波を読み取る以上は、それを読み取ること自体は出来るはずだ。


よし、できる気がしてきた!

じゃあやるか!


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