ポラリスはいつもひとつ

 わたしの人差し指の先を見て、ハルカは息を飲んだ。

「本当……」

 そこには同じような大きさの星が、同じくらいの高さで、同じ色をして輝いていた。隣り合ったそれらは、まるで双子のようだった。

 わたしたちの様子を見て、糸山くんと佐倉くんもそれに気がついたようだった。

「どうなっているんだ?」

「あんな星あったっけ?」

 彼らは同じような顔をして、呆気に取られていた。

 やがて底なしの暗さを失っていく夜空に薄いレースのカーテンのような雲がたなびき始め、それから太陽が全ての星々をかき消していった。その最後の瞬間まで、双つの北極星はまるで釘で打たれたかのようにずっと同じ場所に留まっていたが、やがて一方は白い光を失って青く染められていった。しかしもう一方の星はいつまでも白いままだった。まるで青空に浮かぶ白い月のように。

 わたしは暗幕に駆け寄った。よく見ると、それは星ではなかった。その正体は暗幕に開いた穴だった。

「こんな穴、なかったよね?」

 不思議そうに、ハルカは糸山くんに問いかけた。

「なかった。暗幕の設置は主に俺がやった。もしこんなところに虫食い穴があったとしたら、暗幕を垂らす時に、この穴が目立たない位置に来るように調整しているよ」

「もしかして!」さっきから黙っていた佐倉くんはそう叫び、暗幕のカーテンを勢いよくめくって、廊下側の壁際の隙間に隠れてしまった。何か閃いたのかもしれない。

「森さん、クッションをここに持って来て」

 わたしも彼の後に続こうかと思ったところで、暗幕の向こう側から声をかけられた。わたしはさっきまで自分の座っていたビーズソファを暗幕の下から彼の足元へと潜らせた。続いてわたしも暗幕を潜る。

 佐倉くんはお礼もせずに黒い外羽根の革靴を脱ぎ、柔らかいビーズソファの上に登った。彼の顔の前には窓の中心部がきた。

「森さん、これを見て」

 そう言って彼は足場から降り、わたしに場所を譲った。わたしは買いたての白のスエードのスニーカーを脱ぎ、ビーズソファに上った。彼がわたしに見せたがっていたものは、すぐに見つかった。

 窓に米粒大の丸い穴が開いていたのだ。

 さっき窓の下から確認した時にそれを発見できなかったのは、その小さな穴がクレセント錠の裏に隠れていて見えなかったからだ。

 わたしはこのことを、すぐにハルカたちに知らせた。暗幕の向こうのプラネタリウムは空の白んだ状態のまま一時停止されているようで、その夜明けの空の下ではさっきまで控室にいたメンバーが全員揃っていた。

「重要な手がかりを見つけたかもしれません!」

 わたしはみんなに向かってそう言った。あるものは新たなる展開の予感に高揚し、またあるものはわたしの発言を訝しんでいる様子だった。窮地に追い詰められたわたしが何かをでっち上げようとしたのではないかと疑うようなその眼差しも、実際に窓の穴を見た後には興奮の色を隠せなかった。

「でも、こんな小さな穴からじゃ人は入れないよ」と、馬鹿にするような口調で遠藤さんが言った。「あなたにしか犯行は不可能だったってことに変わりはないんじゃないですか?」

 そう。まだこれは外部犯がいたことの決定的な証拠にはならない。だが、

「これは一つの手がかりです。大きな手がかりです。これを足がかりにして、真相に辿り着けるかもしれません」

 その時、窓と暗幕の隙間にいた糸山くんが手に何かを持ってこちら側に現れた。

「これがさっきの窓の下に落ちていたんだけど、これって……」

 彼が右手の親指と人差し指でつまむように持っていたそれは、麻紐のように見えた。

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