民俗文化研究会への聞き込み(1)
それからわたしたちは、空き教室を一つ挟んでお隣の民俗文化研究会のブースへお邪魔した。
驚いたことに、ボランティアサークルの二人もわたしたちと同行した。
「鍵を掛けないで店を離れて、また何か盗まれても知りませんよ」と思いやりのあるハルカが注意しても、彼女らは考えを翻したりはしなかった。犯人をわたしだと決めつけるのは勝手なことだが、犯人以外の人物が盗みを働かないと言う保証はどこにもないことについては当人の主義主張に関わらず理解していただきたい事実である。
民俗文化研究会のスペースであるF303に入ると、そこには意外な人物の顔もあった。
「あれ、君たちは」
民俗文化研究会の彼と向かい合わせに座っていたのは、先ほどプラネタリウムにやってきた地学研究会のOBの方だった。彼の存在に気がついたハルカと糸山くんがずいっと前に出た。
「お疲れ様です。私は地学研究会一年の星原と――」
「同じく一年の糸山です」
「一年ってことは、やっぱり初めましてだな。俺は新田だ。去年まで地学研究会にいたんだよ。さっきまで君たちの作ったプラネタリウムを見せてもらっていて、ちょうど今こちらで買い物をしていたところさ」
ここのお菓子はぼったくりだからやめた方がいいですよ、とは後輩たちは教えてあげなかった。
「それで、うちに何か?」
民俗文化研究会の浦島さんが、警戒するようにわたしたちを睨んだ。
「取材に来ました。少しお話を聞かせてください」と佐倉くんが切り出した。
「例の連続窃盗事件のことか? 見てわかるように、あいにく今は接客中なんだ。また今度にしてくれないか?」
彼がそう煙たそうに言うのを、地学研究会OBの新田さんがなだめた。
「まあいいじゃないか。少し手を貸してやってくれよ。何たってこいつらはお客様の後輩なんだからな。それに俺も気になっているんだよ。前夜祭で起こったABC連続窃盗事件なんて、なんだか興味をそそられるじゃないか」
地学研究会の後輩たちは口々に礼を述べた。このまま断り続けることの方が取材を受けるよりも面倒臭いことを悟ったらしい彼は、渋々わたしたちの要求に応じることとなった。
「盗難騒ぎの後もずっとここで一人店番していたのですか?」と佐倉くんが質問した。
「来店予約があったから帰れなかった」
「予約ですか?」びっくりしたように糸山くんが言った。
「うちの商品は毎年人気なんだよ」
浦島さんは丸眼鏡の奥の目を細めた。人気になったから値段を釣り上げたのだろうか。
「で、その予約というのは?」
「こちらのOBさん」
OBさんはそれを受けて、弁解するように言った。
「本当はもう少し早く来るつもりだったんだよ。ここにも、地学研にもね」
そう言われて思い出した。このOBの方の訪問のタイミングが遅れたから、ハルカたちは地学研のみんなでアコギのライブを観に行ったのだった。
「どちらにも『十八時くらいに行くよ』なんてメールしてたんだけど、仕事が予想外に長引いちゃってさ。それで約束の時間ギリギリになって『小一時間遅れます』って連絡を入れたんだ。大学に着いてからも先に自分の後輩たちの様子を見に行ってて、さっきまでそこのプラネタリウムで後輩たちから事件の話を聞かせてもらっていたんだけど、これがかなり面白くて、なかなかこっちに足が向かなかったんだ。そんなわけでここには1時間以上も遅刻しちゃったね」
彼は誤魔化すように浦島さんに詫びた。ちょうど多目的ホールの前のペコちゃん人形のような顔だった。
「まあいいですよ。遅れてもちゃんと買ってくれたんで」
彼はため息をついて、佐倉くんのほうに目を向けた。
「で、君たちが聞きたいのはそれだけなのか?」
佐倉くんは仕切り直すように一つ咳払いをしてから、次の質問に移った。
「確認なんですが、民俗文化研究会さんの方で被害に遭われたのはミネラルウォーターだったと言うことですが、これはお間違いないでしょうか」
「ああ。そこの自販機で買って、廊下側の窓枠のところに置いておいたんだ」
なんのために。
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