♦︎私はこうして犯行に及んだ(6)♦︎
「証拠は?」一拍遅れて、森が訊いた。
証拠も何も、さっき私はあなたに斬りかかろうとしたわけだが。それでもまだ、信じられないとでもいうのだろうか。
「今週の木曜から学祭が始まるんだってね」証拠という言葉を待ちかねていたように、彼は言った。「ゴミ箱が使えないから、困るよね。ねえ、内藤さん?」
ああ、彼はやはり知っている。私は、ポケットからくしゃくしゃに丸まったゴミを取り出した。それは照明の光を浴びて、鈍く輝いた。
「それが今回犯行に使われたチョコの銀紙だね。本当は、どこかのゴミ箱に捨てるつもりだったんだろうが、一年生である僕らは学祭のある週の今日から、大学内のゴミ箱が封鎖されるなんて知らなかった。計画が狂ったね」
「こんな証拠を指摘できるなら、わざわざ私を騙すようなことをしなくてもよかったんじゃないの?」
「もしかしたらあなたはそのゴミを何処かにポイ捨てしたりしていたかも知れない。そうするとどうも決定的な証拠が今ひとつな気がしてね。それで念には念を入れて、森さんに一芝居打ってもらったんだ」
最初からこの証拠物を私が隠し持っていることを知っていたとしたら、森を危険な目には合わせなかったとでも言いたいのか。まあ、私はそれに関しては何も言えた立場にないわけだが。
彼は推理を終わらせに掛かる。
「犯行のあとは森さんがぐっすりと眠り続ければ、一時間後、大体十四時三十五分から四十分くらいにオートロックが掛かる。そうして新聞部の部室は森さんと共に眠りにつき、密室となったんだ。でも実のところ、あなたは新聞部の部室に鍵が掛かろうが掛かるまいが、どちらでもよかった。大切なのはあくまで、僕と森さんを二人きりの空間で予期せず出会わせ、その時の二人のリアクションを確認することだったのだから。
普段から内藤さんは、三限は僕と同じ法律学を受けて、その後はギターサークルの活動している多目的室に足を運んでいたらしいね。僕はいつも部室でご飯を食べてから三限に行き、三限後は自分の部室までとんぼ返りする。つまり僕らは毎週、同じ時間に、同じような場所から、同じ教室に向かい、そして同じフロアにある部屋に通っていたんだ。僕が新聞部の部員だと知るタイミングはいくらでもあっただろう。加えて新聞部のコラムを読めば他の部員が全員海外に行ってしまっていることもわかる。だからあの記事を書いたのが僕だと目星がついたんだ。
三限の教室でも僕は前の方で受講していたから、後ろからは観察しやすかっただろうね。教室から出るのも僕の方が一足早い。三限が終わって教室から出た後、こっそりと僕の後をつけた内藤さんは、今日は僕がまっすぐ部室に行かないのを見て焦ったろう。僕に部室に来てもらわないと、苦労して作ったシチュエーションが水泡に帰してしまうんだから。そこで内藤さんは新聞部のアドレスにメールを送った。メールの内容を『ミスコンの件で追加の情報』としたのは、僕が森さんの顔を見た時に、例の事件を連想しやすいよう配慮したんだろう」
もうたくさんだった。
「完璧だよ。見事な名探偵ぶりだね」
「探偵じゃないよ。ただの新聞部さ」
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