♦︎私はこうして犯行に及んだ(3)♦︎

「内藤さんの今回の犯行動機は、おそらく元彼である小泉さんの嘘を公開した者に対する逆恨みでしょう。内藤さんは誰が新聞部に告げ口をしたのか明確にわからなかったが、おそらくは森さんが告げ口をしたのだろうという考えを持っていたようだね」

「奈緒、どうしてわたしが疑われたの?」

 森が叫ぶように口を挟んだ。私に答える意思がないのを見てとり、新聞部が代わりに答えた。

「まず、僕が公開した記事に使った写真から、内藤さんは部内に密告者がいることを悟った。日頃から森さんは『ある先輩に憧れてこのサークルに入り』、『嘘つきが嫌い』と言っていたんだろう? それが疑われた理由だよ。『嘘つきは嫌い』という森さんの言葉は、嘘のプロフィールでミスターに選ばれた小泉さんと付き合っている彼女にはやっかみに聞こえたに違いない。先輩に憧れた森さんの負け惜しみのように聞こえたのかもしれない。しかしそれでも内藤さんは、森さんが告げ口をしたと決め付けるには、まだ早いと考えた。そこで内藤さんは、ある策を思いつく。証拠がないのなら、作れば良いのだ。それでミスコンの記事を書いた新聞部の僕と、森さんを人目のつかないところで対面させ、その時の音声を録音することにした。二人が過去に接触していることが掴めれば、躊躇なく恨みを晴らせる思ったのだろう。まあ、実際に僕に情報を流した二劇の人物は、森さんではなかったんだけどね。

 そこで僕たちは、あえてボイスレコーダーに、森さんが新聞部に情報を流したという設定で嘘の声を吹き込んだ。さらに森さんには寝たふりをさせて、囮になってもらった。ボイスレコーダーを回収し、それを聞いたあなたは、ちょうどそこに憎しみの対象が眠っていることに気が付いたことでしょう。仕返しの絶好の機会というわけだ。僕たちはその現場を押さえ、逆にそれを動かぬ証拠にしたってわけさ。でもカッターで斬りかかろうとした時は、流石に焦ったよ。正直あそこまでするとは思っていなかった」

 森は、なおも混乱した様子で疑問を投げかけた。

「そもそも、なんで鳥谷くんは新聞部に小泉さんの情報をリークしたの?」

 え?

「徹が? なんで、本当に?」

「ちょっとちょっと、森さん落ち着いて」と佐倉が必死に森の興奮を鎮めようとしている。しかし、一度口から出た言葉を引っ込めることはできない。信じられないが、二人の様子を見るにそれは本当らしい。私は訊く。

「目的は何? 高校からの同級生が悪い先輩に騙されているのが放って置けなかったとか?」

 あいつの性格からして、その線は薄そうに思えた。だがその他に、鳥谷が小泉さんの嘘を吹聴する目的は見当たらない。やがて、ため息まじりに佐倉が口を開いた。

「たぶん、そうじゃない。彼は自分に利益がないと動かない性格に見える」

「じゃあ情報の見返りとして、お金でもせびったの?」

「情報に報酬は与えていない。鳥谷くんの要求は、ただその事実を、小泉さんが嘘のプロフィールでミスターに選ばれたことを公表してほしい一点だけだった」

「じゃあ何? あいつの利益って」

 私も森も黙って、新聞部が話すのを待った。

「それはだね……」彼は言いにくそう続きを口にした。「小泉さんの体裁が悪くなること。そして、その結果として内藤さんとの交際を破局に導くことだ」

「そんな……どうして……?」思わず疑問の言葉が私の口から飛び出す。

「あくまで想像だけど」そう前置きして、彼は語った。「彼は自慢したがりで、他人の欲しいものの価値を理解しないまま、みんなが欲しがっているからという理由で自分も欲しがってしまう性格だ。そしてその趣向は物だけじゃなく、人間関係に関しても影響を及ぼしていたんじゃないだろうか。つまり、高校の頃はなんとも思っていなかった内藤さんのことが、小泉さんと付き合い始めてから気になり始めた」

 たしかにあいつとは、そんなやつだったか。

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