♦︎私はこうして犯行に及んだ(2)♦︎

「やっぱりお前の仕業だったんだな、内藤奈緒」とニゲキちゃんが喋った。その声には聞き覚えがあった。

「お前、新聞部の……!」

「奈緒、どうして……」森が起き上がり、ふらふらとニゲキちゃんの横に立った。

 彼女が着ぐるみの背中のジッパーを下ろすと、中から汗にまみれた男が姿を表した。やはり新聞部の彼だ。

「ふう。壊れたパソコンを買い直すためにバイトをするにしても、着ぐるみのバイトだけは絶対にやりたくないな」

 何を、呑気な。

「これは、どういうこと?」と私は訊く。

「今回の事件でずっと引っかかっていたことは、森さんを新聞部に運んだ動機だ」汗に湿った髪をかき上げ、佐倉が話し始めた。「新聞部のノートPCを壊すのは単純な敵意が感じられたが、森さんに対してはそうではなかった。だが、あるきっかけでその動機を閃いた。犯人は、森さんと僕の関係を知りたいがために彼女を新聞部に運び、そして長椅子の裏にボイスレコーダーをセットしたんじゃないかってね」

 私の右手は、すがるようにカッターを握ったままだった。

「つまり、奈緒はわたしのことを密告者だと思っていたってこと?」

 まだ事情を知らされていないのか、森がそんな疑問を口にした。その発言に、腹が立った。

「何今更しらばっくれてるの? ボイスレコーダーにはあんたがそこの新聞部に情報を漏らした証拠が録音されてたでしょ」

「ああ、小泉さんの情報を新聞部にリークしたのは、森さんじゃないんだ」

 思い出したかのように彼が言った。極めて疑わしい発言に、私は反論する。

「んなはずないでしょ! だってさっきボイスレコーダーから――」

「あれは僕たちが急ごしらえした罠だよ。手っ取り早く証拠が欲しかったんだ」

「罠? 証拠?」

「本当のデータはこっちだ」

 佐倉がそう言うのを合図に、森がもう一つのボイスレコーダーをテーブルの上のPCに接続する。間もなく音声が流れ始めた。

『ガチャリ……パチッ…………「失礼、部室を間違えました」……バタン…………「お邪魔しまーす」……「もしもし。起きてください。もしもーし! どちら様ですか?」』

 この音声を聴く限り、なんだか森と佐倉は初対面のようだ。

「どういうこと?」

「つまり本当のデータはこっちで、さっき内藤さんが自分で再生したデータは僕たちの演技だったんだ。ファイルの作成日時をよく確認すれば、どちらが本物かわかるだろう。音声の合成は、森さんがやってくれた。彼女が音響担当で助かったよ」

 そこで私は初めて状況を理解した。どうやら、嵌められたらしい。

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