♦︎私はこうして犯行に及んだ(1)♦︎


♦︎

 メールが届いたのは、五分前の事だった。

 差出人は森で、今日のところはひとまず調査が終了し、解散になったとのことだった。

 大学図書館から急いで部室まで駆けつけてきたせいで、心臓は早鐘を打っている。それともこれは緊張のせいだろうか。鍵を開け、部室に入る。明かりをつけた瞬間、どきりとした。

 森が長椅子の上で眠っている。

 起こそうかと考えて、思いとどまる。彼女が簡単には起きないことは、すでによく知っていた。彼女が寝ている長椅子の座面の下に手を伸ばす。硬いものが触れた。テープで止められた、ボイスレコーダーだ。なるべく音を立てないように、ゆっくりとそれを剥がしとる。本棚の上のノートPCをテーブルで広げ、素早くボイスレコーダーを繋いだ。イヤホンをつけて、最新のファイルを再生する。はじめの何分かをスキップして、目的のところまで進ませた。


『ちょっと、起きてください。……あれ、あなたはひょっとして森美月さんですか?』

『……ん、あれ、あなたは新聞部の。ということは、ここは新聞部の部室ですか?』

『この前の小泉さんの件ではお世話になりました。追加の情報があるとのメールをいただきましたが、まさか先に部室に入っていらっしゃるとは思いませんでした』

『お久しぶりです。ですが、わたしにそんなメールを送った心当たりはありません。それに、この部室に入った記憶もないんです』


 私はそこで再生を止めた。

 全身からさっと血の気が引いていくのがわかった。冷たい指先でロッカーを開け、大ぶりなカッターを取り出す。右手に握ったそれのつまみを、親指で一メモリずつゆっくりと押し上げる。チキ、チキと独特の音を立てながら、鈍く光る刃が徐々に姿を表した。

「お前が悪いんだからな」

 その呟きは、無意識に口をついてでた。そう、お前が悪いのだ。小泉さんと付き合った私に嫉妬し、嘘は嫌いだとのたまい、新聞部に彼の情報を告げ口したお前が。お前がいなければ、私は誰もが羨む大学生活を送れた。お前さえいなければ、彼は順風満帆なキャリアが描けた。すべてが上手くいくはずだった。こいつがいなければ、こいつさえいなければ……!

 憎しみが頂点に達したとき、私は絶叫し、刃を握った右手を高く振り上げた。

「森美月!」

 彼女の目が開くが、もう遅い。刃は最短距離で彼女の喉元へ迫る。彼女の白くか細い喉元に鈍色の刃物を喰い込ませるその間際、

「やめろ!」

 突然の横からの強い衝撃で、私の体は重力を失った。肩から壁に打ち付けられ、そのまま床に崩れ落ちる。「痛い」と言おうとしたが声が出ない。息もうまく吸えず苦しい。頭が痺れ、足に力が入らず立ち上がれない。できることといえば、私にぶつかってきたものを睨み付けることくらいだ。

 そこに立っていたのはノームの着ぐるみ、ニゲキちゃんだった。

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