犯人は誰?

 鳥谷くんが去り、二劇の部室には僕と森さんだけが取り残された。するといきなり、彼女が頭を下げてきた。

「ごめんなさい。実はさっきの三人を呼び出す際に、あえて佐倉くんがこの場にいることは伝えずに、『わたしがちょっとした事件に巻き込まれた」とだけ伝えたの」

 薄々気づいてはいた。何のために彼女がそうしたのかも。

「三人のリアクションを見て、誰が小泉さんのことを新聞部に伝えたのかを見極めたかったんだね」僕は言った。「それで、首尾はどうだった?」

 僕らの視線が1メートルの距離で交差する。

「明らかに一人だけ、反応がおかしい人がいた。佐倉くんは必死にフォローしていたけれど、第一声で既にアウトだった」

 やはり、彼女は察しがいい。

「その人は部室に入ってきた時、わたしと佐倉くんを見て、わたしが巻き込まれた事件を小泉さん関係の事件と勘違いした。これは佐倉くんが小泉さんの記事を書いたって知らないとできない発想だよね。だから小泉さんのことを新聞部に伝えたのは、鳥谷くん」

 僕は黙った。

「違うなら、違うと言って」

「僕も森さんと一緒で、嘘は嫌いなんだ」

 もう隠しても意味はないだろう。それはまだ二ヶ月前のことで、記憶は鮮明だった。

「先月の初め、鳥谷くんの方から新聞部にコンタクトを取ってきた。それですぐに会おうということになって、その日のうちに、新聞部部室に彼を招いた。そこで彼は、小泉さんがミスターに選ばれるために嘘をついていたことを報告してくれた。話だけではなく、その証拠写真を納めたメモリーカードも手渡してくれた。その中には、彼の成績表や免許証を収めた写真が入っていた」

「……そうだったの」

 知りたかったことを知れたはずなのに、彼女の表情は複雑な心境をにじませていた。

「だけど、森さんにはうまくやられたよ。まさかそんな手で僕と鳥谷くんの繋がりを暴くなんて――」

 突如、閃きがやってきた。走る電車の車窓から一瞬だけ見えた光景のようなその閃きを逃さないように、僕の手は無意識に頭に置かれる。そうしてそれを捕まえた後は、小さな種火から大きな炎を起こすように、順序立てて慎重に推理する。

 どれくらいの時間が流れただろう。森さんの呼び声で僕は我にかえった。頭に置かれたままの掌に、じっとりと湿った感触が伝わる。それで自分が汗をかいていることを知った。

「佐倉くん、大丈夫?」

「ああ、ごめん。ちょっと考え込んじゃって……」

「何か、わかったの?」

 おそらく、犯人はあの人だ。だが、どうせなら決定的な証拠を掴みたい。そのためには、彼女の協力が必要だ。

「今から一芝居打ってくれないか?」

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