内藤奈緒の供述(2)
もう何度も説明してきたので、だんだんと要領の良い説明ができるようになってきた。
「なるほど、それで私から話を聞きたいってわけね」僕の説明を聞くと内藤さんはそう言った。「三限ならいつも通り法律学を受けていたよ」
法律学?
「奇遇だね。実は僕も三限は法律学を受けていたんだ。僕は教室の前のほうにいたんだけど、気付かないよね」
「私らは後ろの方にいたから、佐倉くんがいたなんて気がつかなかったよ」
法律学は中央校舎四階の大講義室で行われる。一般教養科目で、法学部以外の人も広く選択できるクラスだ。講義室は大きいので同じ室内にいても、前の方と後ろの方ではお互いに気がつかないことも多い。
「学部の友達と一緒に受けたから、その人たちに確認してみるといいよ」
「それじゃあ念のため、その人たちに電話してもいいかな」
二つ返事で快諾してくれた内藤さんは、自分のスマートフォンでその友達に電話をかけ、僕に取りついでくれた。
電話でその友達たちの話を聞いた結果、彼女の話したことが本当だと証明された。ただ、授業が始まって二十分くらい経った頃、彼女はトイレに行って十分くらい帰ってこなかったそうだ。その時にはバッグは教室に置きっぱなしで、ハンカチとスマートフォンだけを持って行ったらしい。
内藤さんの友達との通話が終わり、彼女へスマートフォンを返す時、それとなくスマートフォンケースを確認した。手帳型のケースで、カードを入れるためのポケットがついている。そこには彼女の学生証が入っていた。
「それで次が最後の質問なんだけど、このメールに心当たりはないかな?」
三限後に届いた差出人不明のメール画面を開いて、内藤さんにスマートフォンを渡す。
「私じゃないけど」スマートフォンを受け取った内藤さんは、森さんの方に意味ありげな視線を投げかけながら言った。「文章の感じからすると、前に佐倉くんと会ったことがある人からのメールっぽいね」
森さんはただ、「そうね」と答えた。
腕時計は十六時ジャストを指していた。
「じゃあ、今日のところはこれで。ご協力ありがとうございました」
「何かわかったらまた連絡してね」
こうして内藤さんへの取材も終わった。
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