本田穂乃果の供述(2)
いくつか質問したいことがあった。
「本田さんは昼休みの終わりに部室を出る時、鍵を掛けて行かれたらしいですね」
「ああ、いつも美月はあの時間お昼寝しているから、鍵を掛けないで行くのも少し無用心かと思ったんだ。残念ながらあまり意味はなかったようだけどね」
大学に変わり者は多い。空きコマに昼寝をするくらいじゃ誰も驚かない。
次に、犯行時刻の行動について尋ねる。
「三限は何の講義を受けられましたか?」
「心理学だよ」
「以前までその時間は論理学に出ていたと聞きましたが」
誰からをそれを聞いたかを言わない約束だ。
「いや、私は前から心理学の授業に出ていたよ」
メモを取りながら、質問を重ねる。
「では、今日その講義に出ていた証拠はありますか?」
「今日配布されたレジュメがある。書き込みもしているけど、見る?」
それを見た森さんは「たしかに穂乃果さんの字です」と認めた。僕も横からそれを覗く。三枚のレジュメの、どのページにも結構な量の書き込みがされていた。レジュメの隅には、今日の日付も印字されている。彼女が三限に心理学に出ていたのは、本当だと思える。
「そういえば、ボイスレコーダーをお持ちになっていたそうですね。どんな目的で使用されたのですか?」
「講義を録音するためだ。後でわからないところがあったら、それを聞いて理解を深める」
「今ボイスレコーダーはお持ちですか?」
本田さんは青いトートバッグからボイスレコーダーを取り出し、それを漫然とテーブルに置いた。
「聞いてもらえばわかると思うが、ペンを走らせる音は入っていても、私が席を立った音は入っていないと思うよ」
僕は先ほどと同じように、二劇のノートPCを借りて、そこに保存されている最新のファイルを開いた。最初の数秒を聞く限り、それは本田さんの話通り、心理学の講義の録音のようだ。録音された時間は十三時十分から十四時四十分までの一時間三十分。講義の最初から最後までを録音したらしい。できれば最後まで録音された音声をチェックしたいが、そうするにはかなりの時間がかかる。確認してすぐにばれるような嘘はつかないだろうし、ひとまずは彼女の発言を信じ、話を先に進めることにする。
「このレコーダーは預からせていただきます。後で録音データを確認したいので。それで次が最後の質問なんですけど、このメールに心当たりはありませんか?」
三限後に届いた差出人不明のメール画面を開いたスマートフォンを本田さんに渡す。
「知らないな。私がこのメール送っていないことは、私のスマートフォンを調べてもらえればわかると思うが」
「いや、そこまでしていただく必要は。ちょっと聞いてみたかっただけだけです」
さすがにこの段階では他人のスマートフォンを覗くようなことはできない。それにメールを送った履歴も、消そうと思えば消せるだろう。このメールがスマートフォンではなくPCから送信された可能性もある。
本田さんへの取材は、これで終わりとなった。
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