ボイスレコーダーに収められた事件当時の音声(2)

 まず最初に聞こえてきたのは、ベリベリという大きな雑音だった。その後に、ガツガツという衝突音。おそらくはボイスレコーダーを長椅子に固定するときの音だろう。その後は微かな足音とドアが開く音が続く。それからゴロゴロというキャスターの車輪の回転音。バックグラウンドでは微かにギターの音が聞こえた。次にパチンという照明のスイッチを押した時の音がして、間をおかずにパタンというドアの閉まる音が聞こえた。その後はポタポタと一定の間隔で聞こえる滴の音のみになった。それも徐々にインターバルが長くなり、やがては完全な無音の時間に突入した。この無音の時間帯はかなり長く続くようだったのでスキップする。そして次にレコーダーに拾われた音は、僕がドアを開けた音だった。それから先は、聞く必要はあるまい。

 最初の方に聞こえた足音。あれが犯人の足音だろう。僕たちは尻尾を掴んだ。

「どうやら森さんが自分で新聞部の部室に忍び込んだ説を捨てる時が来たようだね」と僕は言った。

「まだ疑ってたの?」と睨む彼女を、まあまあとなだめる。

「ボイスレコーダーの音声と、これまでの情報を総合すると犯人の動きはこうなる。

 まず犯人は二劇の冷蔵庫にあったトマトジュースを用いて新聞部のPCを破壊、それから二劇の部室に戻りボイスレコーダーを長椅子の下にセット。そして森さんごと長椅子を新聞部に運び込んだようだ」

「PCを破壊した犯人と、わたしを新聞部に運んだ犯人が別々である可能性も残っているんじゃない?」

「いや、それはない。なぜなら滴の垂れるような音がレコーダーに入っていたからね。それは机の上でこぼされたトマトジュースが床へと滴る音だと思う。PCが破壊されてからまもないタイミングでないと、ボイスレコーダーはその音を拾えないはずだ。そうなるとまず同じ人物による犯行と考えていいだろう」

「なるほど。でも、犯人はどうやってそれぞれの鍵の掛かった部室に入ったのかな?」

「それはまだわからない。だが犯行の時間が正確にわかったのは大きい。ボイスレコーダーのデータから、犯人がそれをセットした時間は十三時三十分とわかった。これから来る重要参考人たちに、そのあたりの時間のアリバイを聞いてみよう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る