ボイスレコーダーに収められた事件当時の音声(1)
事実上、森さんの仲間を疑ったことを意味する僕のその言葉を、彼女は咎めなかった。
「わかった。今連絡してみる」
そう言うや否や、森さんはスマートフォンにスワイプを始めた。彼女に連絡を取ってもらっている待ち時間で、何か自分にも調べられる事を探す。
「ねえ、森さんたちが今日探していたボイスレコーダーって今もこの部室にある?」
「ああ、それならそこのロッカーの中だよ」
彼女はロッカーの方を見ながら答えた。勝手に開けてみて、という事なのだろう。遠慮せずロッカーを開ける。中には照明道具や一眼カメラ、乾電池、大きなカッターなどの雑多なものが詰め込まれていた。上段の方に小さく四角いお菓子の缶があり、その中に細長いiPodのようなものが一つ入っていた。その背面には「ICレコーダー 二劇」というシールが貼られている。これか。
そこでふと、ある異変に気がついた。
「あれ? 一つしかないよ」
森さんはスマートフォンから顔を上げて眉を寄せた。
「おかしいな。昼休みに探した時はたしかに二つあったんだけど」
彼女も手伝って探したが、二つ目のボイスレコーダーはなかなか見つからなかった。あと探していない場所と言えば、ゴミ箱の中と――。
「疑うわけじゃないけど森さんの鞄の中には入っていないよね?」
「自分の持ち物のチェックは、今日すでに二度ほどしているんだけど」
そう言いながらも彼女は長椅子の収納部分に置かれた自分のリュックを取り出した。その時、
「ん?」
声の方を見ると、彼女はしゃがみ込んで長椅子の座面を下から覗き込んでいた。
「あったの?」
僕が声を掛けたのと同時にベリッという音がして、森さんが顔をあげた。彼女の愁眉はぱっと開かれている。
「あった!」
近寄ってそれを確認すると、彼女の手には先ほどロッカーの中で見つけたものと同じ種類のボイスレコーダーが握られていた。
「長椅子の座面の裏に、ガムテープで固定されていた」
見ればボイスレコーダーにはガムテープの残骸がこびりついていた。そして、小さな赤いライトが点灯している。
「しかもこれ、回ってるみたい!」
「森さんを運んだ犯人がなんらかの目的で仕掛けたのかも……!」
なんらかの目的が何だかはわからないが。
「とにかく録音を停止させて、聞いてみましょう。何か手がかりが掴めるかも知れない」
彼女はそう言うと、本棚の上の黒いノートPCを持ってきて、テーブルの上でボイスレコーダーと接続した。PCの背面には、ボイスレコーダーと同じように二劇の所有物であることを示すシールが貼ってある。
ボイスレコーダーの中にはいくつかの音声データのファイルが入っていた。そのほとんどは台詞のふきこみで使われたものだろう。データは作成日時の新しいものから順に並んでいる。森さんは一番上に作成されていた最新のファイルをクリックして開いた。
録音時間は二時間五分。今日の十三時三十分から十五時三十五分の間、ぶっ通しで録音し続けていたことになる。PCのスピーカーの音量を大きくしていくと、次第にがさついた音が聞こえてきた。
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