部室のドアのシステムについて

 今回の犯行に使われたトマトジュースが自分のものであることを確認したいと森さんが言い出した。それで僕たちは二部演劇研究会の部室へと移動することにした。一応先程のメールの送り主に、新聞部を離れる旨のメールを返信しておく。僕が図書館でメールを受け取ってから、すでに三十分が経過した。しかし未だにメールの送り主は姿を現さないどころか、返信すらよこさない。

 新聞部の部室を離れるついでに、カードキーとして使われているICカードを搭載した学生証の機能について検証してみた。これはSuicaなどでもお馴染みの非接触型のICカードである。僕が三限に向かうため部室に鍵をかけた時、何らかの機器の故障によって鍵がうまく掛かっていなかったのかもしれないと考えたからだ。

 ドアの横の壁に銀色のICカードリーダーが取り付けられている。一見すると金属製に見えるが、アルミ等の金属だと電磁波を通さないはずなので、おそらくプラスチックでできているのだろう。高級感を出そうという狙いかもしれない。その銀色のプレートに学生証を当てる。するとカードを至近距離まで近づけた段階で、ピッと言う軽い電子音が鳴り、ドアがロックされたことを教えてくれた。試しにドアを引いても動かない。もう一度リーダーにタッチすると、今度もまた同じような小さい音がなり、ロックが解除された。ドアを開けて確認をとる。

 次に新聞部の部員ではない森さんの学生証を借りて、新聞部部室のロックの解除を試してみた。ドアがロックされている状態であることを確かめてから、彼女の学生証でカードリーダーにタッチする。すると途端に、ビービーと大きな警報音が発せられた。警報音は三、四秒で鳴り止んだ。ノブを掴んでドアを引く。もちろん鍵は掛かったままなので、びくともしない。続けて僕の学生証で一度ドアのロックを解除してから、森さんの学生証で施錠をしようとするパターンも試してみた。しかしこれも先ほどと同じように、警報音が鳴っただけでドアはロックされなかった。

 磁気カードとは違い、ICカードの場合はカードの磁気が消えたり弱くなったりはしない。そもそもICカードは磁気カードと構造が違っていて、電磁波で情報のやりとりをしているのだ。

 今回の事件のトリックは、機械やシステムの故障ではなさそうだった。

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